インド太平洋をめぐる戦略環境変化の兆し

2021.03.23

インド太平洋をめぐる戦略環境変化の兆し
写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2021年3月19日、岸信夫防衛大臣は、尖閣諸島防衛のための日米共同訓練について、「どのような訓練を実施するのか、どのような見せ方にするのかの検討にも意味がある」と述べ、公船による領海侵入を繰り返す中国をけん制した。また、3月16日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同声明でも日米両国間や、クワッド等を念頭に置いたインド太平洋での多国間の実践的な共同訓練の重要性について言及している。強固な日米関係を中心に、新たな国際的中国包囲網を形成しようとする両国の意図が明らかとなったと言えよう。ここで、他の友好国による戦略環境の変化の状況を概観してみよう。

インド政府関係者が、「日本、米国、オーストラリア、インドにフランスを加えた5カ国は2021年4月上旬、インドの呼びかけによりインド東部のベンガル湾で共同訓練を行う」と述べたと3月14日付読売新聞が報じた。日米印は昨年11月、13年ぶりにオーストラリアを招待してベンガル湾とアラビア海北部で「マラバール2020海上共同訓練」を実施した。フランスは、インド洋や南太平洋に領土や基地を有しており中国の海洋進出に懸念を示し、2018年には欧州でいち早く「インド太平洋」の概念を自国の安全保障政策に取り入れている。今回の訓練参加により中国への対応能力の向上や関係国との連携強化を図ろうとしているものと思われる。

2021年3月18日、AFPなどによると「日独両政府は、日本とドイツが軍事機密を共有し、情報漏洩を防止するため『日独情報保護協定』の正式締結する」と報じた。情報保護協定は、2019年にアンゲラ・メルケル首相が来日した際、安倍晋三首相と大筋合意しており、今後、防衛装備品の輸出入や作戦場面における機密情報の共有などが容易となる。(日本は、既に、NATO、フランス、オーストラリア、イギリス、インド、イタリア及び大韓民国とは協定を締結している。米国とは日米安保に基づく秘密保護協定を締結している)。ドイツは、昨年、中国偏重方針を是正し、インド太平洋への関与を深める政策に転換している。この背景には、中国の欧州における経済的影響力拡大に懸念を持ち、ルールに基づく国際秩序を維持する必要があるとの考え方がある。昨年12月には、アンネグレート・クランプカレンバウアー国防相が岸防衛大臣とのオンライン会議において、南シナ海での中国の強引な権益拡大をけん制するためドイツ連邦軍の艦艇派遣やドイツ軍将校の派遣通じた日本など友好国との防衛協力の推進を表明している。

2021年3月17日、イギリス政府は、「外交・安全保障政策の『統合レビュー』で、中国の急激な軍拡やロシアの核兵器の近代化に対応して核抑止力を強化するため、保有する核弾頭の上限を、これまでの180発から260発に引き上げる」と宣言した。イギリスの戦略核戦力は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「トライデント」だけで構成されている。今回の決定はこの弾頭数を増加させるとしたものである。イギリスは空母「クイーン・エリザベス」を中核としてミサイル駆逐艦、フリゲート艦、補給艦に加えスチュート級またはトラファルガー級潜水艦から成る空母打撃群を編成し、東・南シナ海周辺を含む西太平洋に長期展開させることを表明している。「トライデント」級潜水艦の運用構想は明らかにされていないが、空母打撃群の長期展開行動は、中国を見据えた友好国との連携強化を目指していることは確かであろう。

同盟や友好国との関係強化が図られ、力による一方的な現状変更を試みようとする中国をけん制する連携や態勢の充実は大いに歓迎すべきである。しかし、日本としては関係国の信頼を確固たるものとするため、他力本願ではなく、日本自身のさらなる装備の充実や法令の整備など自らの防衛努力をこれまで以上に果たしていかなければならないだろう。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。


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