自衛隊の災害派遣

2020.12.30

2020年12月16日以降、新潟県等が豪雪に見舞われ関越自動車道に1,000台以上の車両が立ち往生してしまった。ドライバー等への水、食料、燃料、毛布の配布、安否確認、急病人の輸送など緊急を要する救援活動が必要となったため、新潟県知事は自衛隊に対し災害派遣を要請した。陸上自衛隊は、第30普通科連隊(新発田駐屯地)、第2普通科連隊(高田駐屯地)などから約430名の隊員が出動し、救援活動を実施した。ここで、自衛隊の災害派遣について自衛隊法の規定や活動の状況をみてみよう。

災害派遣は、自衛隊法83条に「都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を要請することができる」と規定されている。自衛隊法施行令第105条には、災害派遣を要請できる者として、都道府県知事の他に「海上保安庁長官」、「管区保安本部長」、「空港事務所長」が指定されている。さらに自衛隊法施行令第106条には「災害派遣の要請手続き」として、(1)災害の状況及び派遣を要請する理由、(2)派遣を希望する機関、(3)派遣を希望する区域及び活動内容、(4)その他参考となる事項、が規定されている。

災害派遣には(1)緊急性、(2)公共性、(3)非代替性の要件を満たす3つの大原則があると言われている。「非代替性」とは自衛隊以外の組織団体では実施できない活動のことであるが、自衛隊でなくとも実施できる活動が要請される事例が散見される。

防衛省によると、過去5年間の災害派遣の実施回数は、年平均490回、最多は2015年の541回であった。派遣人員として、過去5年間の年平均はのべ63万8,600名であり、最多の派遣は2018年7月の中国地方を襲った豪雨の際の延べ95万7,000名であった。2016年の熊本地震や2018年の北海道胆振東部地震の際にもそれぞれ延べ80万人、21万人と大勢の隊員が派遣されている。自衛隊では、このように大災害に際した派遣とともに、洋上や山岳における捜索救難活動や離島等からの急患輸送等にも任じている。

本年は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全国各地で自衛隊の災害派遣活動が多数報じられた。自衛隊は2月に横浜港に寄港したクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」での生活支援、物資および人員の輸送やPCR検査のために延べ2,700名の隊員を派遣した。その後、3月下旬までの間に中国・武漢からのチャーター便での帰国者支援や宿泊施設での支援のため延べ4,900名の隊員を派遣したが、1人も感染者を発生させることなく任務を終了している。その後12月15日までの間に、35の都道府県への災害派遣が行われ、医療支援、輸送支援および教育支援など行っている。

12月8日、大阪府の吉村知事は、新規陽性者の多数発生により医療体制が逼迫したとして、「最後の手段」ということで自衛隊の災害派遣を要請した。これに対し自民党の佐藤正久参議院議員(外交部会長)が「自衛隊は便利屋ではない」と発言し物議を醸した。佐藤議員は「大阪府には約10万人の看護職登録者がおられるし、大阪以外の自治体で医療体制に余裕のある地域もあるので、国立病院、県立病院、私立総合病院など医療機関ごとや自治体ごとの調整は行ったのか疑問である。『何人でもいいからではなく、この病院に看護師何人とか施設消毒業務等など要望内容が必要である』と派遣の内容を具体化してから要請すべきだ」と主張した。一方、吉村知事も「便利屋と思ったことは一切ない」と佐藤議員の指摘を否定しており、双方の情報が行き違っていたようである。

新型コロナウイルスの感染は第3波を迎え、今後、さらに感染が拡大しそうである。また、気象庁によると、ラニーニャ現象により今年は、日本列島各地で気温が低くなる傾向があり、再度、豪雪被害の発生も予想される。天災地変等の災害の際には多くの人命や財産の保護ができるよう、都道府県知事や政令で定められた要請権者と自衛隊の間で綿密な情報共有、連携調整を図り、被害が局限される体制作りを期待したい。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。


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