ショウ・ザ・フラッグ-中露海上演習が意味するもの(2)

ショウ・ザ・フラッグ-中露海上演習が意味するもの(2)
China's fighter jets take part in a joint maritime drill on the Yellow Sea in Qingdao in east China's Shandong province on Thursday, April 26, 2012. The six-day joint maritime drill between China and Russia on the Yellow Sea concluded on Friday.(Photo By Liu Zheng/Color China Photo/AP Images)

本稿は、「ショウ・ザ・フラッグ-中露海上演習が意味するもの(1)」の続編となる。

中露海上連合による日本周回は、我が国が教訓とすべき事項がある。

第1は、太平洋方面における防空能力の見直しである。

令和3年度防衛白書によれば、防衛省は日本周辺の海空域を常に監視しているとされている。海域の監視には、常続的監視と特別監視の2種類がある。常続的監視は、常に艦艇及び航空機を同じ海域で航行又は飛行させることである。現在、艦艇は南西諸島周辺に、哨戒機は北海道周辺、日本海及び東シナ海において警戒監視を実施している。特別監視は、所要に応じて護衛艦、哨戒機を派遣し監視を行うものである。空域の監視は、全国28か所のレーダーサイトで行い、領空に近づく可能性のある敵味方不明機にはスクランブルで対応している。冷戦の終結、中国軍の近代化及び活動の活発化を受け、南西方面の防衛が重視される傾向があり、沖縄周辺には、常に護衛艦及び哨戒機が監視を行い、航空自衛隊のレーダーサイトも4か所(沖縄島、沖永良部島、久米島及び石垣島)に設けられている。しかしながら、今回中露合同部隊が通過した小笠原諸島には固定式警戒監視レーダーが存在せず、艦艇及び哨戒機による常続的警戒監視も行われていない。硫黄島にある滑走路を利用し、海上自衛隊の哨戒機、空自戦闘機や米海軍艦載機の訓練が行われているが、UH-60J回転翼救難機以外、兵力は常駐していない。太平洋方面海空域の警戒監視及び防空に関し、大きな欠陥があると言えよう。

今年5月に、航空自衛隊が小笠原の父島に移動式防空レーダーを設置する計画が明らかにされた。また、今年10月に海上自衛隊「いずも」で米海兵隊のF-35Bが離発着艦し、F-35B運用能力の検証が行われた。広大な海域に島嶼が点在する小笠原列島の地勢を考慮すると、レーダーサイトや航空基地を分散設置するのは効率的ではない。移動式防空レーダー及び艦載機の組み合わせが最適であり、ネットワークを含め、海空の連携を強化する必要がある。

次の教訓は警戒監視体制の見直しである。前述した特別監視は、日本周辺海域において中露等の兵力が行動する際に、一定の距離で追尾するものである。その目的は、各種情報収集であるが、忘れてはならないのは、相手の不法行動を牽制する意味合いがあることである。10月18日に10隻の艦艇群が津軽海峡を通過した際に海上自衛隊が派出した兵力は、P-3Cのほかに函館を母港とする掃海艇2隻であった。満載排水量600トンの掃海艇2隻で1万トンを超えるレンハイ級駆逐艦を含む10隻の艦艇の行動を威圧できるであろうか。掃海艇の任務は機雷掃海であり、武器も機雷処分用の20ミリ機銃しか保有していない。特別監視において、相手と同等の兵力である必要はないが、少なくとも一矢を報いるだけの装備を持った兵力の派出が肝要であろう。中露共同部隊の指揮官も、掃海艇を見て、海上自衛隊の兵力や対応能力は大したことがないと判断したことであろう。

冷戦が終結し、中国海空軍の活動活発化を受けて、自衛隊は、南西重視の体制にシフトした。さらには、海上自衛隊の兵力は世界各地に展開しており、能力的に伸びきった状況にあると言えよう。少子高齢化社会の日本において隊員を確保することは容易ではない。装備武器の省人化や、更に一歩進んで無人化を図り、対応できる艦艇数を増加させることが喫緊の課題であり、そのためには防衛費の相当程度の増額が不可避であろう。

次に法的な側面である。日本は、昭和52年に制定した「領海及び接続水域に関する法律」の付則において、宗谷海峡、津軽海峡、大隅海峡、対馬海峡東及び西水道の5か所を特定海域に指定、海峡内の領海を3海里としている。日本政府が特定海域を制定した背景には、これらの海域が、領海を12海里とすることにより、国連海洋法条約が定める「国際航行に使用される海峡」とされ、海峡全域にわたり、上空飛行や航行の自由を認める「通過通行権」を認めざる得なくなることがある。特定海域とすることで、中央部に公海部分は残るものの、領海への主権は厳格に主張できるという解釈である。この付則には「当分の間」という表現が付けられている。

安全保障上の観点から見ると、特定海域という考え方は見直しの時期に来ていると言える。海峡の公海部分を自由に通過されるよりも、「通過通行権」を認める方の利点が多い。沿岸国は「通過通行権」を妨げることはできないが、航行安全を理由に航路帯を指定することができる。今回の中露海上巡航に関し、10月26日の記者会見で岸防衛大臣は「示威行動」という認識は示したものの、中露当局に抗議してはいない。海峡の公海部分を通過したことから、非難する根拠がないというのが実情と考えられる。特定海域を廃止することにより、例えば今回のような10隻もの海軍艦艇の津軽や大隅海峡の通過を、これを通過通行権で禁止する軍事的威嚇として遺憾の意を表明することができるであろう。

中国は、最も狭い場所でも約130kmある台湾海峡を米英、最近ではカナダの海軍艦艇が通過した際、台湾海峡の平和と安定を損なう挑発行為と批判している。中露海軍艦艇による津軽、対馬及び大隅海峡の通過は、台湾海峡の通過を超える挑発行為であり、速やかに批判できる体制を整えるべきである。

中露共同演習の中国側指揮官バイ少将は、今回の訓練の教訓として、「海軍の艦隊の行動が及ぼす政治的、外交的役割に対する理解が進み、あらゆるレベルの指揮官が戦略的リテラシーを向上させることに役立った」と述べている。中国海軍の活動が活発化していることは幾度となく指摘されているが、その目的が、世界各地において存在感を示す、いわゆる「ショウ・ザ・フラッグ」であることを明確に述べたものと解釈できる。

現時点で中露海軍間のインターオペラビィティーは日米にはるかに及ばない。また、歴史的、地理的に相互不信を抱える両国が日米のような強固な同盟関係を構築できるかは不透明である。しかしながら、アメリカと中露の対立が激化するにつれ、「敵の敵は味方」という観点から両国関係が深化する可能性があり、引き続き注意深く見ていく必要がある。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄

防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:AP/アフロ


 
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