脱欧入亜を目指すのか-英空母「クイーン・エリザベス」インド太平洋への展開(1)

脱欧入亜を目指すのか-英空母「クイーン・エリザベス」インド太平洋への展開(1)

2021年5月5日付米海軍協会機関紙は、英海軍トップであるラドキン第1海軍卿の英海軍空母のインド太平洋展開に係る考え方を掲載している。ラドキン大将は「2040年から2050年には世界のGDPの40%がインド太平洋地域に集中することとなる。英国は海洋貿易国家であり、インド太平洋地域において英国のプレゼンスを示す必要がある。」と述べている。

フランスに比較すると英国のインド太平洋地域における権益は必ずしも多くない。しかしながら、大英帝国旧植民地から構成される「イギリス連邦(Commonwealth of Nations)」の54カ国の内、インド、豪州、ニュージーランド等多くの国々がインド太平洋地域に存在している。コモンウェルス憲章には、民主主義、人権、法の支配といった共通の価値観が明記されている。2021年5月に英国が主催したG7外務・開発大臣会合コミュニケでは、中国に対して「国際法及び国内法上の義務に従い、人権及び基本的自由を尊重するように求める」とし、香港における高度な自治や、台湾の世界保健機関の諸フォーラムへの参加を支持するというような強いメッセージが発信された。英国のこれらの動きは、中国の既存の世界秩序への挑戦に危惧を覚え、これに対し積極的に行動するという英政府の強い意志を感じさせる。

英国のインド太平洋における権益として、マダガスカル島東方のディエゴガルシア島及び「5カ国防衛取極め」が指摘できる。ディエゴガルシア島は1965年のモーリシャス独立に伴いイギリス領インド洋地域に指定された。翌年米国が同島を50年間使用する協定が締結され、2016年には更に2036年まで協定が延長されている。同島は、湾岸戦争やアフガニスタン紛争において、米空軍戦略爆撃機の展開基地として使用された。2020年8月、米インド太平洋軍はディエゴガルシア島にB-2爆撃機を配備したことを明らかにしている。米インド太平洋軍は、ディエゴガルシア島があることによって、世界中のいかなる場所に対して、いかなる時期にも戦略爆撃が可能であると、同島基地の戦略的重要性を強調している。イギリスは、同島を米軍に提供することにより、インド太平洋地域において一定の発言力を確保していると言える。

「5カ国防衛取極め」(FPDA : Five Power Defense Arrangement)は、イギリス軍のスエズ以東からの撤退方針を受け、1971年に、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア及びシンガポールの5カ国で締結された防衛取極めである。マレーシア及びシンガポールが攻撃を受けた場合、締約国は対応策を協議すると規定されている。極めて緩い防衛協定であり、当時者以外には注目されていなかったが、2000年代には、マラッカ海峡の海賊対処や対テロといった主として非伝統的安全保障の分野で機能してきた。そして最近では大規模な各種統合演習を定例化し、伝統的安全保障分野での役割も拡大している。空母クイーン・エリザベスはFPDA締結50周年を祝うためにシンガポールに寄港することが明らかにされている。FPDAの枠組は、イギリスがインド太平洋地域に兵力を展開する足掛かりとなっている。

今回のクイーン・エリザベス空母戦闘群には大きな特徴が二つある。一つ目は、多国籍の艦艇で編成されていることである。空母の他に護衛部隊として、英海軍が駆逐艦2隻、フリゲート艦2隻、補給艦2隻及び潜水艦1隻を派出し、米海軍から駆逐艦1隻、オランダ海軍からフリゲート艦1隻が参加するとされている。合計10隻からなる大部隊である。英海軍第1海軍卿は、「中程度国家が協力することにより、大国間競争の環境下で存在感を示すことができる」と述べており、多国籍による艦隊の編成が有効であることを強調している。二つ目の特徴は米海兵隊が10機、英海軍が12機のF-35B部隊が空母に搭載されることである。同艦の就役直後から米海兵隊のF-35Bを使用した訓練が実施されてきたが、今回が任務行動における初の共同搭載となる。空母の航空機運用能力を検証するためには、多くの航空機を搭載し、各種作業を検証する必要がある。今回22機のF-35Bを運用することにより、F-35B多数機運用のデータ収集が可能となる。また、共同作戦では、戦術要領の共通化を図るという観点から、相互運用性(interoperability)が重要とされる。米海軍作戦部長は、今回の訓練で米海兵隊のF-35Bが英国の補給システムや修理機材を使用することになり、米英間で修理や予備品の使用といった相互融通性(interchangeability)の向上が期待されることを強調している。

クイーン・エリザベス空母戦闘群は、2021年5月にポーツマスを出港、28週間にわたって26,000マイルを航行する予定である。米空母機動部隊のほか、シンガポール、韓国、日本及びインドの各国海軍との共同訓練を含め、40カ国を訪問、70回にわたる交流を実施することが明かにされている。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:PA Images/アフロ


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