インドの立ち位置、上海協力機構とQUAD

インドの立ち位置、上海協力機構とQUAD

11月10日、中国が主催する上海協力機構(SCO : The Shanghai Cooperation Organization)の第20回首脳会議がテレビ会議形式で実施された。インドは、SCOだけではなく、最近注目されている日米豪印の四か国(QUAD)の枠組の構成国でもある。11月には、インド海軍主催の4か国海上共同訓練(マラバール2020)が実施されており、双方に参加するインドの立ち位置は極めて微妙なものがある。

SCOは1996年に、国境を超える紛争を解決する枠組みとして、中国、ロシア、カザフスタン、タジキスタン及びキルギスの5か国間で設立された。当時、中央アジアにおいてイスラム過激派の活動が猖獗を極めており、これら国際テロ組織に対する協力は国際的潮流であった。2001年にウズベキスタンが、そして2017年にはインドとパキスタンが正式にメンバー国となり、8か国の枠組となっている。同機構には国防大臣会議も設けられており、共同軍事演習も開催されている。2018年8月に実施された「平和の使命2018」には、インド及びパキスタンを含む全てのSCO加盟国が参加した。インドとパキスタンがこのような共同演習に参加するのは初めてのことであった。

今回の首脳会議において、習近平主席は「多国主義が一国主義に勝利するのは歴史が証明している」と述べ、SCO参加国が緊密に連携し、協力の枠組みを更に拡大させると主張した。更には「いかなる形であっても、国内政治に干渉することに反対する」と述べており、米国の台湾への武器売却や南シナ海における活動を、暗にけん制している。米国の大統領選挙直後でもあり、勝利したバイデン氏へのメッセージともいえる。

SCOは参加国8か国に加え、オブザーバー国4か国(モンゴル、イラン、ベラルーシ及びアフガニスタン)、対話パートナー国6か国(スリランカ、トルコ、アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア及びネパール)、参加申請国9か国(バングラディシュ、モルディブ、イスラエル、エジプト、シリア、イラク、カタール、バーレーン及びサウジアラビア)と拡大の傾向を示している。参加国が拡大するにつれ、求心力が弱まり、組織が弱体化する可能性もある。例えばSCOの参加申請国には、イスラエルやサウジアラビアという米国との関係が近い国が存在する。幅広く参加国を募れば、中ロが本来目指す対米という方向性からずれることになろう。

ここでカギとなるのがインドである。米国は「自由で開かれたインド太平洋戦略」にはインドの存在が不可欠と考えており、QUADを拡大し、太平洋版NATOとしたい思惑がある。しかしながら、インドにとって、QUADに肩入れし、SCOから離脱することは、中国及びパキスタンとの国境線が更に緊張化することを覚悟しなければならない。一方で、QUADを否定した場合、インド洋やベンガル湾といったインドの国益に係る海域における中国海軍の跳梁に独自で対応せざるを得なくなるといったジレンマがある。

SCOもQUADも参加国の思惑が交錯する緩い組織である。例えばQUADには正式な事務局すら存在しない。両組織ともに排他的な軍事同盟とするには高いハードルがある。特にインドに対しては「どちらにつくかの踏み絵」を踏ませると、他陣営に追いやることになる可能性がある。SCOは国境を超えるテロ問題、QUADはインド太平洋における中国の牽制といった、参加国のコンセンサスが得られる単一問題に関する協力を主体とし、いずれも米中を中心とする軍事同盟には発展しないと考えられる。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


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