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2022.12.20 安全保障

防衛費増額で、巡視船「強靭化」と海自・海保「共通化」を
― JNF briefing by 木村 康張 「似て非なる組織」海上保安庁と海上自衛隊(2)

木村 康張

「今」の状況と、その今に連なる問題の構造を分かりやすい語り口でレクチャーする「JNF Briefing」。今回は、12月16日の「国家安全保障戦略」など防衛3文書の閣議決定と「海上保安能力強化に関する方針」の閣議決定を受け、あらためて注目される「二つの海の守り」、海上保安庁と海上自衛隊の役割について掘り下げる。「法のねじれ」が指摘される海上保安庁法と自衛隊法のルーツを辿った第1回を踏まえ、第2回では、海上保安庁と海上自衛隊がどのように連携すべきか、装備や運用体制の改善策を考察する。解説は、元・海上自衛官で、P-3C固定翼哨戒機機長、米国派遣訓練指揮官、派遣海賊対処行動航空隊司令(ジブチ共和国)などを歴任し、ロシアの安全保障政策にも精通する実業之日本フォーラム・木村康張編集委員。

 11月29日、笹川平和財団と水交会の共催による「海洋安全保障シンポジウム」が都内で開かれました。シンポジウムのテーマは、「海上自衛隊と海上保安庁~似て非なる組織のこれまでとこれから」です。パネルディスカッションでは、海上自衛隊と海上保安庁の協力体制について、パネリストである元海上自衛隊幹部学校長の福本出氏が「海上自衛隊と海上保安庁は、寸分の隙なく協力し、海上防衛・海上警備に従事できるはず」と語り、海洋政策研究所の倉持一客員研究員は、「大局的な見地から相互の弱点を相互の強点で補完していくべきだ」との意見を述べました。

 本ブリーフィングの第1回で解説したとおり、海上保安庁法25条が海上保安庁の非軍事的性を規定する一方で、自衛隊法80条により、有事においては、海上保安庁は防衛大臣の統制下に入るとされています。本シンポジウムでは、この点がどこまで議論されるかが期待されました。

 しかし、元海上保安庁長官の中島敏氏が、海上保安庁法25条について「海保が法執行機関として事態をエスカレーションさせることなく業務を行うことを明確化したもの」と述べるなど、全般的に海保側は同条の重要性を強調し、他方で海自側は自衛隊法80条に触れることを避けるような論調で、海自と海保の協力体制について深い議論には発展しませんでした。

 12月16日に開催された「海上保安能力強化に関する関係閣僚会議」において浜田靖一防衛大臣は、石井昌平海上保安庁長官からの「海上保安能力強化に関する方針(案)」の説明を受け、「今後、武力攻撃事態における統制要領を具体化し、協同訓練などを通じて、(海上保安庁と海上自衛隊の)連携の実効性を高めていきたい」と述べました。今後、グレーゾーンを含め、さまざまな態様・段階の危機に切れ目なく対処できる海上保安庁と海上自衛隊の連携枠組みの検討が本格化されていきます。

 そこで今回は、前回解説した海上保安庁法25条(軍隊機能の否定)と自衛隊法80条(海上保安庁の統制)の制定経緯を踏まえつつ、将来における海上自衛隊と海上保安庁の在るべき姿について考察し、提言したいと思います。

海保の武装は「25条」の制約を受けるか

 有事の際、海上保安庁は海上自衛隊と連携するわけですが、非軍事的組織とされる「海の警察」である海保には、どこまでの武装が許されるのでしょうか。はじめに、「海上保安庁法25条は巡視船の武器・装備を制約するのか」という点について考察します。

 1966年2月、衆議院予算委員会で、日本社会党の石橋政嗣委員は、当時の佐藤栄作首相に、「海上保安庁の巡視船が大砲や機関銃を搭載している、最近は実弾も積んでいる、そのようなことはご存じですか」と質問しました。佐藤首相は「知りません」と答え、中村寅太運輸大臣と栃内一彦海上保安庁長官(いずれも当時)が、それを受けて説明しました。

 海上保安庁法4条は、海上保安庁の船舶、航空機は、海上における治安を維持する等の任務を達成するために、適当な構造、設備および性能を有するものでなければならないと定めています。そのため中村運輸大臣は、「砲および機銃は、海上治安を維持するのに必要な設備であります」と答弁し、栃内海上保安庁長官が、巡視船搭載の76mm砲や機関銃について詳細を補足しました。海上保安庁は、1950年3月から1995年9月の間、76mm砲を装備した巡視船計34隻を運用してきました。ただし、1966年3月以降に就役した巡視船は最大でも40mm機銃に抑えられています。

 このように巡視船は、海上保安庁が海上治安を維持するために「適当」と判断される武器を、海上保安庁法4条に基づき搭載しています。従って、巡視船艇の搭載する武器・装備は同法25条で制約されることはない――というのが中村運輸大臣の回答でした。

 では、その「適当」という判断は、どのような基準によるのでしょうか。一例として、中国海軍のフリゲート艦の船体設計を用いた中国海警局の「海警31301」型巡視船と、海上保安庁の「れいめい」型巡視船を比較してみましょう(図1)。

 大きさ、構造、搭載ヘリなどは、海上保安庁の巡視船は中国側に全く見劣りしません。一方、兵装については、中国の海警が76mm単装速射砲を積んでいるのに対し、海上保安庁は40mm単装機銃です。中央軍事委員会の指揮下にある「準軍事組織」の武装警察部隊である中国海警局の巡視船とは異なり、海上保安庁は「非軍事組織」として海上における法執行と治安維持という任務を達成する上で、40mm以下の機銃搭載で十分であると判断したのではないかと思われます。

似て非なる「警備的機能」と「軍事的機能」

 このように巡視船には一定の武装が許されているわけですが、それでは海上保安庁法25条が否定する「軍隊機能」とは何でしょうか。英国の国際政治学者であるケン・ブースは、海軍の機能を三つに区分しています。具体的には、(1)軍隊組織としての本質的な「軍事的機能」、(2)海上における法執行権の行使という「警備的機能」、(3)警備的機能・軍事的機能で保有する能力を示威することで政策を有利に展開する「外交的機能」――です。

 この点、海上自衛隊は国防に関わる「軍事的機能」、海上保安庁は法執行に関わる「警備的機能」を主任務とし、それらの機能に備わる能力でプレゼンスを発揮することにより、「外交的機能」を果たしています。このような現状から、海上保安庁法25条における「軍隊の機能」とは、「軍事的機能」を示すものと考えられ、海上保安庁は「軍事的機能」を担うことなく運用されていると言えます。

 このように、平時にはすみ分けがされている海自の「軍事的機能」と海保の「警備的機能」は、有事において補完性はあるのでしょうか。図2のピンク色で示した箇所は「軍事的機能」、青色は「警備的機能」です。対水上戦・対潜戦・防空戦・潜水艦戦といった「軍事的機能」は、海上自衛隊のみが実施可能なことが分かります。

 一方で、「警備的機能」を活用して、内航航路帯の船舶の保護、あるいは領域警備、捜索救難、危険海面の告示、船舶の運航統制、違法船舶の停船検査・回航など、現行の海上保安庁が行っている現行の任務内で、海上の防衛作戦に寄与することは十分に可能だと思われます。

 では、防衛大臣はどのように海上保安庁を統制するのでしょうか。2006年12月の参議院外交防衛委員会において、当時の藤井章治海上保安庁次長は、有事における「防衛大臣の統制は、海上保安庁長官を通じて指揮をするという形でございます」と答えています。本ブリーフィング第1回で「統制」と「指揮」の違いについて説明しましたが、図3に示すように、総理大臣の指揮下に防衛大臣があり、防衛大臣は自衛隊の各部隊を指揮します。一方で、防衛大臣が海上保安庁長官を統制することにより、長官は与えられた任務に対して隷下の巡視船艇を指揮します。海上保安庁長官を通じた指揮となることから、海上保安庁の現行の指揮系統は有事においても維持されることとなります。

カギは「強靭化」と「共通化」

 これらを踏まえて、海上保安庁と海上自衛隊の役割について提言したいと思います。冒頭触れたシンポジウムで倉持客員研究員が述べたとおり、両者の「強点」と「弱点」を相互に補完することで総合的な海上防衛力を形成することが可能ではないかと思います。

 一つは、海上保安庁の強化です。防衛費増額の機会を捉え、新造巡視船については、船体構造に軍艦構造を採用して強靱化を図ること。巡視船の使用する燃料や弾薬などの規格を統一し、海上自衛隊との相互補給能力を確立することです。

 まず、新造巡視船の強靭化について具体的に説明します。図4は、巡視船「しゅんこう」と護衛艦「すずつき」を比較したものです。排水量、全長はほぼ変わりませんが、建造費には大きな差があり、「しゅんこう」は172億円であるのに対し、「すずつき」は726億円です。これは主に、「すずつき」の船体が軍艦構造をとっているのに対し、「しゅんこう」は商船構造であることに起因します。参考までに、軍艦構造を採用した巡視船「れいめい」の建造費は262億円でした。

 2001年12月の九州南西海域工作船事件や2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件などの教訓から、巡視船の船体や装備の強靱化は喫緊の課題であり、新造巡視船は軍艦構造を採用すべきだと思います。例えば、巡視船と護衛艦で基本的な船体設計の共通化を図れば、設計コストの削減が図れるとともに、造修施設の共用も可能です。また、エンジンの共通化を図れば、使用する燃料が共通化され、備蓄燃料の共有のほか、洋上における海上自衛隊補給艦から巡視船への燃料補給も可能となります。このように、共通化によるコスト削減と後方支援態勢の共用化を図ることにより、海上自衛隊と海上保安庁の協同上の相互運用性を確保する検討も必要だと考えます(図5)。

海上保安庁に任務の一部移譲を 

 もう一つは、有事における海上保安庁の運用です。具体的には、海上輸送規制法(武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律)に関わる任務を海保に分任させることです。

 海上輸送規制法法では、「外国軍用品等の海上輸送を規制するため、海上自衛隊の部隊が停船検査及び回航措置を行い、防衛省に設置する外国軍用品審判所における審判の手続き等を実施する」と定められています。この規定を実施する上で海上自衛隊は、本来、海上作戦に必要な兵力を、外国船の輸送規制のために割り当てる必要があります。また、このような活動は長期にわたります。違法の嫌疑のかかった船舶を回航し、基地に係留する場合、係留施設が制約され、基地の補給・造修機能にも影響を及ぼしかねません。さらに、審判手続きについては、各地方総監部に審判所支部を新設したり法務幹部を増員したりといった課題もあります。

 この点、海上保安庁は、平素から上記に類似した法執行活動・審判手続きを実施しているほか、管区海上保安本部には既存の施設があり、それを審判手続きなどに活用できます。 以上から、内閣総理大臣は、海上保安庁に「海上輸送規制法」に関わる任務を分任させ、防衛大臣が同任務を統制できれば、海上自衛隊の部隊は、各種海上作戦の実施に専念できるものと考えます。

 ただし、海上保安庁が海上輸送規制法の法執行を行う上では課題があります。同法が成立したのは2004年ですが、その法案の審議の過程で「自衛権」の問題がフォーカスされました。同年2月17日、衆議院の「武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会」で、楢崎欣弥民主党委員が「(海上輸送規制法案が想定する)『臨検』というのは戦時国際法でも交戦権の一環として認められている。しかしわが国の憲法は交戦権を認めていない。何を根拠に臨検を認めようとしているのか」と質問しました。これに対し、当時の石破茂防衛庁長官は、「法案では『臨検』という言葉は用いていない。国が持つ固有の権利として自衛権に基づいて行う」と答弁しています。

 「臨検」とは、戦時国際法の海戦法規に基づき、交戦国の軍艦が公海上において船舶を停船させ船内を立入検査することであり、交戦相手国に海上輸送する武器や弾薬等の戦時禁制品が積載されていれば積荷や船舶を拿捕(だほ)することができる「交戦権」の行使です。日本は憲法で「交戦権」が認められていないことから、国内法として海上輸送規制法を定め、これを法的根拠とし、「自衛権」の行使として海上自衛隊の艦艇が同様な行為を行うことを企図するものでした。

今こそ「25条」の適否を議論する時

 このような国会での審議を経て、海上輸送規制法は成立しましたが、海上保安庁が同法に基づく法執行を行うには「自衛権」を行使することが必要である一方、海上保安庁法25条(軍隊機能の否定)はそれを許さないという構図となっています。

 冒頭のシンポジウムで、中島元海上保安庁長官は、「白い船(巡視船)が気が付いたら灰色の船(軍艦)になっていたと誤解を招かないように留意する必要がある」と強調していることからも、海上保安庁にとっては、海上保安庁法25条は組織存立の精神的基盤であり、金科玉条であることがうかがわれます。

 しかし、同じ法執行機関の警察を規律する警察法には軍隊機能を否定する条項をわざわざ明記してはいません。「海上保安能力強化に関する方針」では、「国家安全保障戦略等を踏まえ、巡視船・航空機等の整備といったハード面の取組に加え、防衛省・自衛隊等との連携・協力の強化といったソフト面の取組も推進する」と明記されています。今後行われる本格的な検討の中で、海上保安庁法25条が有事における防衛大臣による海保の統制や、海保と海自の連携・協力を妨げ得るのであれば、連合国による占領時代に作られたこの条項の適否を議論していくことも必要となるものと考えます。

提供:Japan Maritime Self-Defense Force/AP/アフロ

木村 康張

実業之日本フォーラム 編集委員
第29期航空学生として海上自衛隊に入隊。航空隊勤務、P-3C固定翼哨戒機機長、米国派遣訓練指揮官、派遣海賊対処行動航空隊司令(ジブチ共和国)、教育航空隊司令を歴任、2015年、第2航空隊(青森県八戸)司令で退官。退官後、IT関連システム開発を業務とする会社の安全保障研究所主席研究員として勤務。2022年から現職。

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