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2022.10.03 安全保障

改めて学ぶ「在日米軍」――厳しさ増す安全保障環境の中で日米連携は一層重要に
― JNF briefing by 將司覚

將司 覚

 「今」の状況と、その今に連なる問題の構造を分かりやすい語り口でレクチャーする「JNF Briefing」。今回は、元・海上自衛官で、P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令などを歴任し、米国海軍勲功章を受賞した將司覚サンタフェ総研上席研究員に、日本の安全保障の要である在日米軍の概要や意義についてレクチャーしてもらった。

 日米共同は日本の安全保障の柱ですが、その要である在日米軍の実態や運用についてあまり明るくない読者もいるでしょう。そこで今回は、在日米軍の概要を紹介します。まず、日米共同の重要性を理解する上で、根幹となる日本の安全保障戦略について見てみましょう。日本では、年末までに「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画(中期防)」からなる「安全保障3文書」の改訂が行われます(図1)。

 

 この3文書のうち、「国家安全保障戦略」は外交・安全保障の指針となるもので、10年程度の期間を念頭に策定されます。中国の軍備増強やロシアによるウクライナ侵攻を背景に、厳しさを増すわが国の安全保障環境を踏まえた改訂になるでしょう。

 次に、防衛力の在り方を規定する「防衛計画の大綱」。同じく10年程度の計画を立てます。最後に、主要装備品の取得や数量などを示す「中期防」は、5年程度の経費の総額を定めます。

 改訂に当たって注目すべきは、国家安全保障戦略策定に際し、敵のミサイル発射基地などを破壊する「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を、専守防衛の考えの下でどう位置付けるかです。また、政府が9月末に初会合を開く「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」では、3文書の議論の土台について話し合われ、こちらも注目されます。

 現在の国家安全保障戦略は2013年に策定したもので、基本理念として「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を掲げ、国家安全保障上の戦略的アプローチとして6項目が示されています(図2)。今回は、この6項目のうち「日米同盟の強化」という観点から、在日米軍の組織編成や兵力などについて概観します。

 在日米軍の位置付けを理解するために、まず「日米安全保障条約」および「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」について説明します。図3左側は、外務省による日米安全保障条約の解説の抜粋です。同条約は全10条からなり、第5条では、わが国の施政下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合には、両国が共同して日本防衛に当たるという規定があります。在日米軍はそのための重要拠点です。第6条では、施設・区域の使用および駐留米軍(=在日米軍)の地位を規律する協定、いわゆる「日米地位協定」を規定しています。また、図3右側は日米防衛協力の指針で、全8章で構成されています。

 在日米軍基地については、時折、「米軍の基地の中って治外法権なのでしょう?」とか、「米軍基地は米国の何州に属するのですか」といった質問が寄せられることがあります。そこで、その回答を兼ねて、日米地位協定に基づき在日米軍基地がどのように使用されているのか紹介します。

 図4左の図は、神奈川県の厚木基地の日米地位協定上の使用区分を示したものです。白色のエリアは「2-1-(a)地区」と呼ばれます。同地区は、管理権および使用について、米軍の専用区域となっており、居住地域や厚生地域となっています。緑色のエリアは「2-4-(a)地区」と呼ばれ、司令部や格納庫など「米軍管理の日米共同使用区域」です。そして、紫色(薄いピンク色)のエリアは、2-4-(b)地区と呼ばれる「自衛隊管理の日米共同使用区域」です。飛行場地区や司令部庁舎の一部などがこれに当たります。

 なお、青森県の三沢基地も同様の使用区分になりますが、三沢の場合、これに民間地区が加わります。そのほか、東京都多摩地域にある横田基地や、沖縄県の普天間、嘉手納などの大きい基地については、エリアのほとんどが2-1-(a)、つまり米軍管理による米軍専用区域となります。

 図4右上にある飛行場の写真は、海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県)の遠景です。鹿屋では米空軍の無人機が展開しており、1年間運用を開始することが決まりました。そのエリアは日米地位協定の2-4-(b)、すなわち「海自管理の共同使用地区」に規定されるということが告示されています(図4の官報の囲み部分)。

 前述した「治外法権」の質問と関わりますが、日米地位協定を巡っては問題点も指摘されています。1995年9月、沖縄で海兵隊の隊員が日本の少女に対して暴行事件を起こしました。日米地位協定では、「受入国(=日本)の同意を得て、当該受入国内にある外国軍隊およびその構成員等は、個別の取り決めがない限り、軍隊の性質に鑑み、その滞在目的の範囲内で行う公務について、受入国の法令の執行や裁判権等から免除される」との規定があります。つまり、米軍人・軍属の公務中の犯罪については、日本の法律が適用されず、日本側で公訴が提起される(起訴)まで米側が第一次裁判権を持つということです。しかし、この事件は、起訴されてもなかなか米側から日本側に身柄の引き渡しが行われず、日米地位協定に問題があるのではないかということで、住民運動に発展しました。

 日米地位協定は1960年の締結以来、改定されたことはありませんが、こうした問題を受けて、米国との間で運用上の改善を行ってきました。外務省のウェブサイトには、「日米地位協定Q&A」が掲載されています。その問5では「在日米軍の基地はアメリカの領土で治外法権なのですか」との質問があり、それに対して「米軍の施設・区域は、日本の領域であり、(中略)米軍の施設・区域内でも日本の法令は適用されています」と回答しています。従って、在日米軍基地は米国の州には当たらず、治外法権でもないということになります。

 次に、在日米軍の兵力について解説します。図5の左は、極東におけるロシア、中国、北朝鮮、韓国、台湾の各軍と比較した日本および在日米軍の兵力構成を示したものです。これを見ると、在日米軍の構成は、陸軍および海兵隊の兵隊員が約2万人、航空機は約150機、艦艇約30隻40万トン、艦載機は約50機となっています。

 図5の右側は、沖縄を除く在日米軍の主要部隊の配備状況です。オレンジ色が在日米陸軍、青色が在日米空軍、緑色が在日米海軍、紫色が在日米海兵隊を示しています。

図6は、沖縄における在日米軍の主要部隊の配置図です。沖縄の在日米軍の基地、施設は在日米軍施設全体の約70%を占めると言われます。オレンジ色は在日米陸軍の部隊で、トリイ通信施設、嘉手納の防空砲兵大隊などがあります。青色は在日米空軍を示し、嘉手納に所在する第18航空団がこれに当たります。緑色が在日米海軍で、ホワイト・ビーチ地区の港湾を運用し、嘉手納では哨戒機部隊を運用しています。紫色が最大勢力である在日米海兵隊で、南は牧港補給地区から普天間飛行場、それからキャンプ・シュワブ、いわゆる辺野古の飛行場建設予定地はじめ各キャンプを管轄しています。

 図7は、各地域における米軍の配置状況を示しています。「アジア太平洋正面」には、陸軍が約3万5000人、海軍が約3万8000人、空軍が約2万9000人、海兵隊が約2万9000人、合計13万2000人が前方展開しています。この兵員数は「ヨーロッパ正面」の2倍に当たり、米軍がいかにアジア太平洋方面を重視しているかの表れでしょう。なお、在日米軍司令官は、第5空軍司令官が兼務しています。

 次に、軍種ごとに在日米軍の兵力などを見ていきましょう。まず空軍です(図8)。第5空軍は横田基地に司令部を置き、第35戦闘航空群(三沢のF-16部隊)、第18戦闘航空群(嘉手納のF-15部隊)、そして第374空輸航空群(横田で戦術輸送機C-130やヘリコプターを運用)を主力部隊とし、航空輸送に任じています。

 図9は海兵隊、第3海兵機動展開部隊です。インド太平洋軍に前方駐留・展開兵力を提供することで有事や緊急事態への対応を支援できる体制をとり、迅速な作戦計画の遂行を目指しています。第3海兵機動展開部隊は、山口県岩国の第12海兵航空群、沖縄の第31海兵機動展開隊や第36海兵航空群など実力部隊と後方支援部隊から構成されています。

 図9の右上の写真は、2021年10月3日にMAG12(第12海兵航空群)の最新鋭ステルス戦闘機F-35Bが、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の着艦試験に協力した際のものです。海自の艦艇にF-35Bが発着するのはこれが初めてです。今後、航空自衛隊にF-35Bが配備される予定で、「いずも」を改修し、事実上「空母化」することでF-35Bの発着を可能にする計画が進んでいます。

 図10は、米海軍第7艦隊の説明です。第7艦隊は太平洋艦隊の指揮下にあり、米海軍では最大の兵力を擁しています。担当海域は西太平洋からインド洋までで、任務に応じて編成された複数の任務部隊(TF:Task Force)で構成されています。TF70・71は空母打撃群およびイージス艦など水上打撃部隊、TF72は偵察哨戒航空部隊、TF73は後方支援部隊、TF74は潜水艦部隊、TF75・79は海兵機動展開部隊等、TF76は強襲揚陸部隊といった区分になっています。

 補足すると、TF70は横須賀を母港とする空母ロナルド・レーガンを中心とした打撃部隊です。TF71水上打撃部隊は、第15駆逐艦部隊(イージス艦)7隻を擁しています。TF72は哨戒偵察航空部隊で、三沢においてP-3C哨戒機、嘉手納においてP-8の哨戒機を運用しています。TF74は第7艦隊潜水艦部隊で構成され、司令部は横須賀に所在し、グアムを母港としています(図11)。

 在日米陸軍は、補給処・港湾施設における後方支援や日本の陸上自衛隊との共同訓練に参加しているほか、車力(青森県)や経ヶ岬(京都府)の通信施設に配備されたミサイル防衛用早期警戒レーダー「TPY-2レーダー(Xバンドレーダー)」で、北朝鮮や中国による弾道ミサイルの監視任務などに従事しています。兵力は約2600人です(図12)。

 以上見てきたとおり、米軍は陸・海・空・海兵隊の精強な部隊を日本およびインド太平洋に展開しています。日米同盟は、日本およびインド太平洋地域の平和と安定のために不可欠であり、在日米軍は同盟に基づく緊密かつ協力的な関係により、地域における課題への対処に重要な役割を果たしています(図13)。

 最後に、安全保障関連3文書に関連して、日本の防衛力強化の在り方について触れたいと思います。元空将の織田邦男麗澤大学特別教授が、防衛力強化は「増額」だけでは果たせないという主旨の論考を産経新聞で発表しました(図14)。防衛力強化は、高性能な装備品の取得だけではなく、隊員の高い練度、優れた戦法、防衛産業の育成も含めた強靱な後方支援能力、防衛力発揮のための法的基盤などが必要である――という主張です。

 戦闘機、護衛艦、戦車など防衛装備品の取得は、契約から納入まで数年を要します。そしてそれらを運用するには、装備品の納入後の各種試験、訓練、要員養成が必要であり、前倒しで整備していかなければ防衛力強化は成り立ちません。また、防衛力強化はハード面だけではありません。隊員の士気の高揚、法整備、国民の心構えなどソフト面も含めた総合的な施策が必要です。スピード感を持って全力を傾注しなければ国際公約を果たせないと警鐘を鳴らす織田教授の主張に耳を傾けるべきだと考えます。

写真:UPI/アフロ

將司 覚

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年からサンタフェ総合研究所上席研究員。2021年から現職。

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