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2022.09.07 外交・安全保障

「次世代原発」建設に意欲 岸田氏、原発再稼働へ方針転換のなぜ

將司 覚

 岸田首相は24日、脱酸素の実現について議論するGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、新しい安全技術を盛り込んだ次世代型原発の開発・新設や原発の運転期間延長について、年末までに具体的な結論を出せるよう検討の加速を指示した。政府は東日本大震災以降、「原発の新増設や建て替えは想定しない」というエネルギー政策の基本方針を掲げていたが、これを大きく方向転換することになる。

 会議では、これまでに再稼働した原発10基に加えて、7基(宮城・女川2号機、新潟・柏崎刈羽6号機と7号機、茨城・東海第二、福井・高浜1号機と2号機、島根・島根2号機)の再稼働を目指す方針が示された。

方針転換の背景には

 2018年度時点で日本の電源構成の38%を占める天然ガスは、その97%が海外からの輸入で、電源構成の32%を占める石炭もその99%を海外に依存している。何らかの事情によりこれらの化石燃料の輸入が途絶えた場合、電源の確保が極めて困難になると予想される。原発比率を上げる議論の背景には、そもそもこのような問題があった。

 加えて「火力発電所の休廃止」や「原発再稼働の遅れ」、「(地震などの自然災害による)電力供給のひっ迫」、「ウクライナ危機」などの影響で岸田政権は今回の決断を下したと見られる。

 電気料金の高騰は深刻な課題だ。元内閣官房参与の加藤康子氏は7月4日付の産経新聞に「日本は基幹産業たる製造業を国内回帰させるため原発の新増設も含め、原発・火力発電所を活用してエネルギー政策の転換を図るべきだ」と訴えた。7月31日にも同新聞に「電力無くして国家の成長はない。日本では、世界的に極めて高い電気料金がますます高騰するだろう。経済安全保障の観点や円安などから基幹産業である製造業が国内回帰を検討する企業もでてきているが、高い産業用電気料金は国際競争の上で大きなハンディとなっている」と述べ、競争力の向上に電気料金が足枷となってはならないと警鐘をならしている。

 ではどの程度の原発の稼働が必要なのか。

 福島第一原発事故後、政府は「原発への依存度を低減する」とした一方で、原子力発電を安定して供給可能な「ベースロード電源」とも位置づけている。昨年10月に発表された「エネルギー基本計画」では、現在の日本の電源構成の6%を占める原子力発電を2030年までに20%〜22%にする目標が示された。現在稼働している6基(大飯4号機、高浜3号機、伊方3号機、玄海4号機、川内1号機と2号機)だが、目標を達成するには20基以上の稼働が必要となる。

 既存原発の再稼働だけではなく、政府は次世代原発の開発や建設にも前向きだ。岸田首相は7月22日、「次世代軽水炉、小型原子炉、核融合といった技術の研究開発に取り組みたい」と発言。さらに松野博一官房長官は8月25日、「将来にわたって日本のエネルギー安定供給を再構築すべく、あらゆる選択肢を確保することが重要。次世代型原発の開発・建設の検討に着手する。原発推進にはなお反対論が根強いが、安全性確保を大前提とし、専門家の意見を聞きながら検討していく」と述べた。

 次世代原発とは新しい技術を用いて従来型よりも安全性が高いとされる原発で、「革新軽水炉」や「小型原子炉」、「高温ガス炉」、「高速炉」、「核融合炉」などの種類がある。

 なかでもとくに注目されているのが小型原子炉(SMR)だ。出力が1基当たり30万キロワット以下と既存の原発(1基100万キロワット程度)よりはるかに小さいという特徴を持つ。モジュール化された部品を工場で生産し組み立てるため、コストが安く抑えられる。水素原子が核融合する際のエネルギーを活用する「核融合炉」も今後の実用化が期待されている。二酸化炭素を排出せず、安全性が高いというメリットがある。

 原発開発を加速させる動きが世界で拡大している。英国は今年4月、ロシアのウクライナへの侵略をきっかけとしたエネルギー価格の高騰など踏まえ、原発を最大8基新設するという計画を発表した。ドイツも22年末までに運転を停止する予定だった2基の原発を23年4月まで稼働可能な状態を維持すると発表した。中国は脱炭素社会への移行計画の一環として、原発の活用を推し進めている。

 エネルギーの安定確保は国家として取り組むべき最も重要な優先課題の一つだ。日本国内には福島第一原発事故以降の根強い「脱原発」の議論があるのは確かだが、現状のまま電力不足や電気料金高騰を放置すれば、国の競争力を衰退させることにもつながりかねない。日本の電源構成の多くを占める天然ガスや石炭を使用した火力発電の脆弱性はウクライナ戦争などで露呈した。原発稼働の議論は避けて通れないはずだ。岸田首相の「原発の新増設への転換」、「再稼働原発7基追加」の決断を強く支持したい。

將司 覚

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年からサンタフェ総合研究所上席研究員。2021年から現職。

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