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2022.03.14 対談

学歴1〜50番がサムスン、50〜70番がヒョンデ、70〜100番がLGに就職…日本を追い抜いた韓国の恐るべき「半導体技術の強さ」はこうして出来上がっていた!
若林秀樹氏との対談:地経学時代の日本の針路(9-7)

白井 一成 若林 秀樹

ゲスト

若林秀樹 

東京理科大学大学院経営学研究科教授 専攻長

総合研究院 技術経営金融工学社会実装研究部門 部門長

昭和59年東京大学工学部精密機械工学科卒業。昭和61年東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻修了。同年(株)野村総合研究所入社、主任研究員。欧州系証券会社シニアアナリスト、(株)JPモルガン証券で日本株部門を立上げ、マネージングディレクター株式調査部長、(株)みずほ証券でもヘッドオブリサーチ・チーフアナリストを歴任。日経新聞等の人気アナリストランキングで電機部門1位5回など。平成17年に、日本株投資運用会社のヘッジファンドを共同設立、最高運用責任者、代表取締役、10年の運用者としての実績は年率9.4%、シャープレシオ0.9、ソルチノレシオ2.1。この間、東京理科大学大学院非常勤講師(平成19~21年)、一般社団法人旧半導体産業研究所諮問委員など。平成26年(株)サークルクロスコーポレーション設立、代表取締役。平成29年より現職。著書に『経営重心』(単著・幻冬舎)、『日本の電機産業はこうやって甦る』(単著・洋泉社)、『日本の電機産業に未来はあるのか』(単著・洋泉社)、『ヘッジファンドの真実』(単著・洋泉社)など。

 

聞き手

白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

 

かつて半導体分野で世界を席巻した日本だが、この20年を経てその立場は危うくなってきた。半導体業界において日本は今後どうなっていくのだろうか?<損をすると国に頼る日本人…日本に、GAFAやファーウェイのような「巨大企業が生まれないワケ」その根本には国民性があった! (若林秀樹氏との対談:地経学時代の日本の針路)(9-6)>に引き続き、半導体分野における台湾・韓国・中国の動きとそこへの日本の戦略について、半導体・電機分野など技術経営の第一人者である東京理科大学大学院経営学研究科(MOT)の若林秀樹教授にお話を伺った。

「ハイテク産業だけ」で成り立つ台湾

白井:これまで、アメリカの競争優位性とその源泉についてお聞きしましたが、台湾や韓国、中国はどのような特色を持っているのでしょうか。

若林:台湾と韓国は、それぞれ違うと思います。最も興味深いのは台湾ですね。台湾は、日本人、アメリカ人、中国人の良い部分を全て持ち合わせている国です。その一方で、台湾は常に中国からの脅威に備えています。現在、台湾の存在意義はハイテク産業だけで成り立っている状況なので、そこをより追求していこうというのが国家戦略の要にもなっています。

また台湾は、ファブレス・ファウンドリというビジネスモデルの発祥の地です。例えば、パッケージの組み立てだけ行う会社や、テストだけを行う会社など、サプライチェーンの中の一部分のみ行う会社が多くあります。このように台湾にはいろいろなビジネスモデルが存在しますし、昔の日本人が持っていた工夫の仕方は、むしろ今の台湾に残っているようにも感じます。

加えて、台湾にはITRI(財団法人工業技術研究院)という科学技術発展のための巨大なシンクタンクがあります。技術研究所兼政策組織のような位置づけのITRIには、海外のお金が入ってくる仕組みや統計機能が用意されており、世界最大のファウンドリ企業であるTSMCを筆頭にして新しい企業がどんどん生まれています。このようなモデルが十分機能していることが、台湾の素晴らしいところだと思います。

 

「日本研究」に長けた韓国

若林:次は韓国です。韓国のサムスンに代表される財閥系企業は、日本企業を詳細に観察してキャッチアップすることが上手でした。例えば、サムスンは、80年代は日立や東芝、その後はソニーやエプソン、キヤノンというように常にベンチマークを変えていき日本を研究し続けたのです。かつてはサムスン内部に日本研究所が存在していましたし、社員は必ず約1年もの間世界各国に出向いて、調査レポート書いていました。

米企業インテルが日本企業に負けてDRAMメモリ製造から撤退した際、彼らはコンピュータにおける演算や制御などの機能を集積したMPU(マイクロプロセッサ)製造に特化して、持っていたDRAM製造技術をサムスンに移植しました。そして日本を、インテルのMPUとサムスンのDRAMで挟み打ちにしてきたのです。これをきっかけにして、サムスンは90年代には日本企業に追いつきました。

また、韓国では、例えば理系学生の上位100人のうち1〜50番がサムスン、50〜70番がヒョンデ(旧ヒュンダイ)、70〜100番がLGに就職します。このようにして、トップ企業に国のリソースを集中して技術を強化し、順番にリソースを振り分けていくというエコシステムが成立しています。しかし日本の場合、東大や東工大などの優秀な理系学生が様々な企業に分散しており、両国のトップ企業だけを見てみると、日本よりも韓国の方が優秀な人が多くなってしまいます。

さらに注目すべきは、1997年のアジア通貨危機によって衰退するかと思われていた韓国企業が、逆にこれをきっかけに強くなったということです。当時、サムスン、LG、ヒョンデは、半導体や液晶ディスプレイ、車などを製造していましたが、アジア通貨危機をきっかけにして、サムスンは車を諦め半導体と液晶ディスプレイに、ヒョンデは液晶を諦め車と半導体に、LGは半導体を諦め車と液晶というように3つの中から1つを捨てて、残りの2つに特化したのです。彼らは、この集約化によって強くなったと言えるでしょう。

財閥系企業が強い一方で、ベンチャーや装置・材料メーカーの弱さも目立ちます。政府は90年代からそれらの育成に力を入れ始めたものの、結果が出ていないのが実情です。ただし、有機ELなどの材料系企業は力を持ち始めています。

中国は、清華大学を筆頭にした優秀な人材を企業に集中的に投入しているので、リソース的にかなわないという状況です。

 

難しい韓国の立ち位置

白井:いずれの国も、日本が70年代にやっていたような、国家が資本主義を推進するという国家資本主義(ステートキャピタリズム)を推進しているのですね。米中対立の中で、現在韓国は微妙な立場におかれています。今後、韓国は今の曖昧な戦略を取り続けるのか、あるいはアメリカ側につくのか、はたまた、中国にすり寄るのか、さまざまなシナリオが考えられますが、そのとき日本やアメリカはどう動いていけばよいのでしょうか。

若林: 地政学的に言うと、サムスンやヒュンデの工場は北朝鮮に近いこともあり、北朝鮮が韓国に南下すれば、韓国の半導体産業は危機的な状況に陥ります。また、韓国がより大きくグローバル展開を考えたときには、財閥のドロドロした内情と政府との関係をどう構築していくかということも問題となるでしょう。実際、サムスンや他財閥はアメリカへの上場に失敗しています。また、上述のように、韓国は半導体などのエレクトロニクス分野の集中しすぎたため、ものづくりや装置・材料の分野が、産業構造的に貧弱です。

加えて、韓国の人口は約5000万人と少なく国内経済は脆弱ですし、国家安全保障的には今後、日本やアメリカは、世界の半導体メモリの韓国への集中を防ぐために、その製造に力を入れ始めるのではないかと予想されます。このようなことからも、韓国の立場は危うくなりつつあることがわかります。

 

台湾をどう取り込む?

若林:この問題考えるときに、台湾は考慮せざるを得ない重要な存在です。世界のファブレスの生産拠点を台湾が握っている現在、アメリカは、そこでの中台対立の危険を回避するために台湾をどう取り込むかで躍起になっています。

実際戦争が起こるかどうかは別として、戦争でミサイルを飛ばすにも半導体を使いますし、台湾が攻撃されてしまうと世界の半導体生産に大きな影響が出るため、台湾にある工場を日本やアメリカ、ヨーロッパなどに分散していかねばならないでしょう。

さらに現在、人口約2300万人の台湾では、土地や電力、水、人材、労働力の不足が企業の積極的な域内投資を阻害するという「5欠問題」が顕在化しています。この状況から見ても、国家安全保障上の問題としてだけではなく、台湾をどのように取り込んでいくかということは、非常に大事な課題となると思います。

 

写真:AP/アフロ

白井 一成

シークエッジグループ CEO、実業之日本社 社主、実業之日本フォーラム 論説主幹
シークエッジグループCEOとして、日本と中国を中心に自己資金投資を手がける。コンテンツビジネス、ブロックチェーン、メタバースの分野でも積極的な投資を続けている。2021年には言論研究プラットフォーム「実業之日本フォーラム」を創設。現代アートにも造詣が深く、アートウィーク東京を主催する一般社団法人「コンテンポラリーアートプラットフォーム(JCAP)」の共同代表理事に就任した。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤誉氏との共著)など。社会福祉法人善光会創設者。一般社団法人中国問題グローバル研究所理事。

若林 秀樹

東京理科大学大学院経営学研究科教授 専攻長、総合研究院 技術経営金融工学社会実装研究部門 部門長
昭和59年東京大学工学部精密機械工学科卒業。昭和61年東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻修了。同年(株)野村総合研究所入社、主任研究員。欧州系証券会社シニアアナリスト、(株)JPモルガン証券で日本株部門を立上げ、マネージングディレクター株式調査部長、(株)みずほ証券でもヘッドオブリサーチ・チーフアナリストを歴任。日経新聞等の人気アナリストランキングで電機部門1位5回など。平成17年に、日本株投資運用会社のヘッジファンドを共同設立、最高運用責任者、代表取締役、10年の運用者としての実績は年率9.4%、シャープレシオ0.9、ソルチノレシオ2.1。この間、東京理科大学大学院非常勤講師(平成19~21年)、一般社団法人旧半導体産業研究所諮問委員など。平成26年(株)サークルクロスコーポレーション設立、代表取締役。平成29年より現職。著書に『経営重心』(単著・幻冬舎)、『日本の電機産業はこうやって甦る』(単著・洋泉社)、『日本の電機産業に未来はあるのか』(単著・洋泉社)、『ヘッジファンドの真実』(単著・洋泉社)など。

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