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2022.02.03 特別寄稿

令和3(2021)年の回顧と令和4(2022)年の展望
元統合幕僚長の岩崎茂氏

岩崎茂

昨年2021年も残念ながらコロナで始まり、結果的にコロナで終わった。今回のコロナ・ウイルスは、令和元年(2019年)11月から12月にかけて、中国武漢市近辺で確認されたことから、当初「武漢ウイルス」と呼ばれていたが、中国の強い抵抗にWHO(世界保健機関)が屈し、Covid-19なる名称となった。2019年に発見されたCoronaVirusとの事がその理由であるらしい。私は、この命名に若干の違和感を感じたが、最近のこの種の味わいのない命名は、時代の流れかなと思いつつ、「スペイン風邪」や「日本脳炎」、「エボラ出血熱」も修正が必要かもしれないと思っているのは私くらいだろうか。

我が国では、このCovid-19が武漢市周辺で発見されて間もない翌年(令和2年)の1月下旬、ダイヤモンド・プリンセス号(香港経由で横浜港入港)で最初の感染者が確認された。これ以降、我が国では、これまで拡散・収束の波を繰り返し、昨年までに5波を経験している。昨年の9月末で東京都をはじめとする一部地域で出されていた緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置に係る各種制限が解除された以降、ワクチン効果と相まって新規感染者数及び重症者数も激減し、好ましい方向で推移していたものの、昨年末からの世界各地でのオミクロン株の出現・拡散により、我が国でも厳戒態勢で臨んだものの、徐々に各地で市中感染と思われるオミクロン株による感染者が続出し、再度の蔓延防止等重点措置宣言を発出する地域が増えている。今回のオミクロン株は、前回のデルタ株と異なり、かなり進化した変異株であり、拡散速度がこれまでよりも数倍早く、残念ながら我が国では、感染第6波に突入した。

さて、この様な状況であるものの、今回は、令和3(2021)年を振り返り、今年(令和4年/2022年)を展望してみたい。

1.令和三年(2021年)の回顧

私は、昨年の初めに、令和3(2021)年の懸念事項として5項目を指摘した。

(1)「長引くコロナ被害」

(2)「不安定な米国」

(3)「益々増長する中国」

(4)「サイバー・宇宙競争が更に加速」

(5)「我が国の政情不安」

自己評価としては、満足できるレベルではないものの、世界も、我が国も、残念ながらほぼ予測どおりに推移したのではと考えている。

Covid-19に関しては冒頭で述べたとおりであり、それ以上加筆すべきことはない。早くどんな変異株にも有効な特効薬が開発され、収束を願うのみである。また、サイバー・宇宙に関してもほぼ予測どおりに推移し、サイバーによる被害は年々拡大する傾向にあり、宇宙も、その利用に関して年々競争が激化してきている。ここでは、「米国」と「中国」及び「我が国の政情」に関する項目についてコメントしたい。

(1) 不安定な米国(バイデン政権)

私は、昨年の年初に不安定化する米国への心配を指摘した。一般的には、どこの国や地域でも、国家元首や政権交代時期には、一時的に各種政策・行政が滞り、不安定な期間になることがあり得る。私は、2019~2020年の米国の大統領選挙キャンペーンを見て、バイデン政権に対し、これまで以上に不安を抱えたスタートになるのではとの感覚を覚えた。理由はいろいろあるものの、大きくは2つである。1つは、米国内の分断であり、もう1つは、対中国政策への不安である。この他にも、米国内の経済の疲弊やワクチンの問題、外交・安全保障に関する北朝鮮の核開発や弾道弾対応問題、ロシアのインド太平洋諸国への進出とウクライナ周辺での不穏な活動対応、そして、対イラン対応、トルコ問題等々、問題が山積み状態である。これまでの大統領が受けた試練以上に大きな問題を抱えてのスタートであった。

米国内の分断問題も鎮静化するどころか、より先鋭化してしまっている。また、バイデン大統領は長年政治に携わってきているものの、昨年は、各種手続きや案件で議会との連携や調整がうまく機能していなかったのではと思われることが屡々であった。人事に於いては、政府の然るべきポスト以上への配置には議会承認が必要であるものの、議会承認が遅く、未だに配置されていない職も多くあり、体制固めが出来ていない部分も多くある。日本は「最も重要な同盟国」と言いながら、米国大使が約2年間も不在である。昨年12月に漸く議会承認され、もうじき米国大使が東京へ赴任することになるが、異常な事態である。この様な状況で危機管理や事態対処がうまく機能したのか疑問を持たざるを得ない。危機管理は「結果が全て」である。いくら努力しても、期待された結果が出せなければ意味がない。これでは、とても狡猾な中国やロシア、北朝鮮に対し有効な対応がとれていたとは思えない。

バイデン大統領は、選挙期間中から「同盟国への回帰」を宣言していた。果して、トランプ大統領時代よりも同盟国とのコミュニケーションがとれていたのであろうか。アフガン撤退問題やAUKUS協定締結、米露及び米中首脳会談等々、成果を挙げることが出来たのだろうか。昨年末、バイデン大統領は、史上初となる「民主主義サミット」を開催した。これは、バイデン大統領が選挙期間中から提唱していたものであり、最近の権威主義的な国の急速な増加に危機感を抱いた事からの提案であった。バイデン大統領は、結果的に109の国・地域を招待した。東南アジアでは、フィリピン、マレーシア、インドネシアの三ヶ国のみの招待であった。シンガポールは招待されていない。また、トルコ・ハンガリーはNATO加盟国であるが除外されていた。米国は、フィリピン、ナイジェリア、パキスタンに対し「重大な人権問題がある」と非難していたにも拘らず、これらの国々を招待した。米国の判断基準が理解できない。私は、この企画は、基本的には素晴らしい考えであると思う反面、危険性も秘めているのではと考えていた。もし実行する場合には、G7やG20等の既存の会議体を使うか、新規の場合には、参集範囲の基準を明確にすべきであった。招待されなかった国々の中には、米国へ反発したり、嫌悪感を持つようになるのではとの懸念があった。私は、偶然にもサミットの直後に、米国から招待を受けなかった数ケ国の在京大使館職員と懇談する機会があった。彼らは、彼ら自身も納得していない口ぶりであったし、彼らが勤務している大使館員(大使も含む)の中には不満を持つ者もいるとの事を漏らしていた。大変残念なことである。より実りある成果を期待するのであれば、米政府内で、より深い検討と綿密な計画及び実行に当たって宣伝が必要であったのではと思えてならない。また、「同盟国への回帰」であれば、各同盟国の考え方を聞いても良かったのではないだろうか。各同盟国は、地域周辺の事情をつぶさに認識しているだろうし、第三者的な中立的な意見を持っているからである。アフガンからの撤退作戦でも同じである。果して、どこまで同盟国と情報共有していたのだろうか疑問である。これでは、トランプ時代とあまり変わっていないのではと思わざるを得ない。この様な事では、世界をリード出来る筈がない。残念な結果である。

但し、我が国との関係では、大きな成果を残した事象もある。その1つが、菅総理とバイデン大統領とが対面での懇談を行い、「台湾」の名称を日米の合意文の中に出すことが出来たことであり、また、もう1つが我が国では、あまり大きく報道されていない「CoRe協定(競争と強靭性に関する日米協定)」に調印し、日米で最新技術や先端技術の共同開発をしていく事を約束したことである(出資;日本$20億、米国$25で合意)。これは大変大きな成果で、今後、このCoRe協定を基礎に世界の先端技術を日米でリードしていくべきであり、それが出来る体制が確立されたと言える。そして、昨年の日米間の共同訓練もこれまで以上に進化してきている。また、日米を中心に豪、印、英、仏、独等との協同訓練も拡大しつつあり、対中国・露抑止の観点から、大きく前進した年になったことはプラス成果であった。

(2)増長する中国

中国は、2021年は、習近平政権の2期目の4年目(発足から9年目)であり、2期10年の総仕上げの時期であった。私はこれまでも何度となく指摘してきたように、習近平主席は、ある時から「夢」を抱くようになってきていると思われる。その「夢」とは、「中国の夢(中華民族の偉大な復興)」であり、「習近平個人の夢」でもある。そして、彼の最終的なゴールは、毛沢東・鄧小平を越えることであり、「中華民族の永遠の英雄(皇帝)」になることである。その「夢」を達成する為には、2期10年では短か過ぎる。更に時間が必要である。しかし、国家主席の任期期間は、憲法に2期10年との条文が明記されていた。これは、毛沢東が長期に亘り政権に就き、政治的に混乱したことへの反省や、権力の集中を防ぐ目的で明記されたものである。この規定により、鄧小平、江沢民、胡錦涛元主席は2期10年で退陣した。ところが、習近平主席は、2018年、この憲法の条文を「削除」する改正案を全人代に提出したのである。全人代は当然ながら、抵抗できず、可決・成立となった。これで、習近平主席は、憲法上、彼が希望する限り、国家主席の席に居座ることが可能となった。また、この他に、中国共産党はこれまで個人崇拝を禁じていたにも拘らず、党規約の中に「習氏思想」を記述し、その普及に努めている。各学校のカリキュラムも全て変更し、子供たちから教育を開始している。既に、習近平主席の神格化が始まっているのである。しかし、憲法上、国家主席の在任期間の制限が無くなったとは言え、習近平主席の任期が自動的に延長されるものでもないだろう。3期、4期と継続する為には、周りを説得できる、それなりの手柄(成果)が必要である。昨年7月は中国共産党創立100周年でもあった。ここで習近平主席は約1時間に及ぶ演説を行い、「中国に対する虐待、抑圧、支配を許さない」と述べている。これは基本的に米国への警告であり、そして、米国へ警告を発することが出来るようになったことを自慢する演説である。習近平が自慢する他の大きな成果の1つは、米国のオバマ大統領が中国を「大国」と発言したことであり、2つ目は、昨年までの約3年間、香港への締め付けを強化し、最終的に「香港」を手中に入れたことである。「香港」は英国からの返還の際、向こう50年(~2047年迄)は「一国2制度」を維持する事が約束されている。まだ、その期間の半ばも経過していない時期に「香港」を北京の言いなりにすることが出来た。「一国2制度」は有名無実化してしまったのである。大きな手柄である。この他にも「南シナ海の埋め立て・軍事化・行政区発令等の権益拡大」、「尖閣列島への海警局公船派遣」、「西太平洋への艦艇・航空機展開」、「台湾への威嚇」等々は彼の成果であろう。この様な事から習近平主席は、第3期目をほぼ確実にしたと言っても過言でない。

習近平主席と米国の関係では、米国のトランプ大統領は、予測不能で極めて厄介な大統領であったものの、トランプ大統領の関心事はごく限られており、御しやすい面もあったと思われる。一方、バイデン新大統領はトランプ大統領に比較し紳士であり、予測可能な大統領である。昨年11月16日のオンラインによる米中首脳会談の中で、バイデン大統領が「両国は衝突回避に責任があり、その為のガードレールが必要」との認識を述べたのに対し、習近平主席は「米国との共通認識の下に両国の発展を主導したい、これは国際社会の期待でもある。」と述べた。米国を諭すような発言であり、国際社会をリードするのは米国と中国の2つの大国であるとの認識を示した。私は、この会談を、習近平主席がかなりの余裕を持って対応していた一方、米側にあまり成果がなかったとも感じた。多くの中国国民は、この会談風景を見て、「中国は米国に並ぶ大国になった」と感じた事であろう。習近平主席の大きな成果である。

(3)我が国の政情不安定

安倍総理の突然の退陣で、一昨年前(令和2年、2020年)の夏から急遽総理に就いた菅首相は、総理就任後も粉骨砕身コロナと戦い続けた。昨年の夏以降は、コロナの新規感染者数も減りはじめ、多くの国民は、菅総理が昨年秋以降も、自民党総裁・総理大臣を継続されると思っていた。ところが、大方の予測を覆し、突然、菅総理は、最後までコロナ対策に専念するため、総裁選への不出馬を表明された。総理大臣を降りるとの宣言である。私は、菅総理が総裁選へ出馬しないと全く考えていなかった。大きな驚きであった。この後の自民党総裁選には、新人候補4名が臨み、見事に勝利されたのが岸田氏である。岸田氏は、安倍政権で長い間、外務大臣として活躍され、諸外国にも名前と顔が知られている極めて温厚で堅実な政治家である。自民党総裁選に次ぎ、衆議院選挙が行われ、自民党は若干議席を失ったものの、予測を遥かに上回る議員数を獲得することになった。多くのメディアや政治評論家によれば、総裁選候補者4名(岸田氏、河野氏、高市氏、野田氏)による議論が功を奏したのではとの分析である。国民の前で忌憚のない討論や意見発表を連日行ったことが、国民へ安心感を与えたのであろう。私自身も、この議論を拝聴し、久々に内容のある、いい議論であったと感じた。

昨年10月に発足した岸田政権への支持率は高く、その後のオミクロン株への対応も素早く、また国会では超大型補正予算を決定したこともあり、政権への支持率は上昇傾向にある。岸田総理が就任し、まだ日が浅いことから評価するには時期尚早であるが、岸田政権のスタートダッシュは成功している。

2.令和4(2022)年の展望

この様な情勢の中で令和4(2022)年がスタートした。残念ながらコロナ禍での年明けである。今年は、2月から3月にかけて北京で冬季オリンピック・パラリンピックが開催される予定だ。昨年末、米国が「中国の人権問題等」を理由に北京オリンピック・パラリンピックへの外交的ボイコットを宣言した。今年になって追随する国が徐々に多くなりつつある。しかし、習近平主席にとって外交ボイコットなどは、あまり意味のない事である。寧ろ中国を煙たがっている国々の首脳が北京に来ない方が楽であろう。選手さえ送ってくれれば、オリンピック・パラリンピックは計画通り開催できる。習近平主席としては、それで十分なのである。

また、今年は、各国の選挙が多い年である。3月には韓国大統領選挙、4月にはフランスの大統領選挙、5月にはフィリピンの大統領選挙、7月には我が国の参議院選挙が行われる。そして、秋には米国の中間選挙である。この様な中で、私が懸念している事(リスク)について以下を述べたい。

(1)依然猛威を振るうCovid-19の新種株

やはり最大の懸念事項は、今年も残念ながらCovid-19対応である。昨年は、ワクチンの普及により、鎮静化するのではとの希望的観測もあったが、新種の変異株の出現で、再度、全世界がCovid-19の脅威に晒されることになっている。既に2年が経過し、3年目に突入しているにも拘らず、未だにこのウイルスは、猛威を振るっている。既に世界では3億人を越える人が感染しており、500万人を越える方々が亡くなっており、600万人を越す勢いである。

世界の全ての国・地域にとって、このCovid-19と如何に戦うか、又は共存するのかが喫緊の最重要課題である。この対応如何では、経済のみならず、各国の政権を揺るがすことも考えられる。

(2)米国の中間選挙の行方

昨年の回顧で述べたとおりバイデン大統領の評価は、予想を下回るものであった。特に、国内の分断は大変大きな問題である。今年の中間選挙に向け、この傾向が更に加速する可能性がある。この問題は根深く、単純ではない。長年、米国が抱えていた問題が、特にトランプという人物の出現で表面化したのである。簡単には解決できないだろうが、解決への努力は惜しむべきではない。米国内の分断の溝を少しでも埋めないと確りとした外交も安全保障も不可能であり、ましてや世界をリードする事は出来ない。また、「同盟国への回帰」は大変重要な方針である。今年は、バイデン大統領自らが主導し、我が国との関係をより進化させる事、そして特に、トランプ大統領が壊した欧州各国との関係修復に尽力されることを望む。今年は、バイデン大統領、米国にとって大変重要な年である。

この様な状況の中で、昨年末からのウクライナ情勢はかなり緊迫度を増している。また、台湾周辺での緊張度も高まってきている。もし習近平主席とプーチン大統領が協力し、同時に事態が起これば(これが最悪の事態)、米国はまた裂き状態となり、いずれにも中途半端な対応にならざるを得ない。地域によって深刻度は異なるものの、我が国でも欧州各国にとっても大変なことである。果して、バイデン大統領は内外に問題を抱えながら、双方に適切な対応がとれるのであろうか。大変、憂慮すべき事態である。もし、中間選挙で上院・下院で負けることがあれば、バイデン政権は更に弱体化し、高齢であることも考えれば、交代する事も考えられる。大変深刻な事態である。

バイデン政権は、昨年3月に「暫定国家安全保障戦略」を示し、中国に対する基本認識こそ公表しいているものの、未だに「国家安瀬保障戦略(NSS)」、「国家防衛戦略(NDS)」及び、これらに続く各種安全保障政策を示していない。是非、早期に決定、同盟国にもそれを示し、世界が抱える問題に協力し、また任務分担、相互補完し、対応することを強く望む。

(3)中国の不安定と躍進

習近平主席にとって、今年はこれまで以上に重要な年である。今年は習近平主席の2期目の終わりであり、3期目のスタートの年である。前述のとおり、習近平が再度、国家主席に就くことは確実であろう。しかし、習近平体制が盤石かと言えば、必ずしもそうとは言えない。私は、不満を持っている側近や共産党幹部も、それなりに多いのでないかとみている。昨年末の「中国人民日報」に、改革開放路線に関する記事が掲載された。最近の中国経済の低迷を心配する内容である。が、真の狙いは別にありそうである。経済成長が鈍っている理由は、単純でなく、いろいろな要因が考えられるものの、この記事が指摘したいのは、最近の習近平主席の経済政策であろう。これまでの中国は、鄧小平主席以来「改革開放政策」を採用し、他国に類を見ない経済成長を遂げてきた。江沢民主席や胡錦涛主席も忠実にこれを実行し、世界2位の経済力を持つに至ったのである。しかし、習近平主席はこの「改革開放政策」を徐々に変更している。時代に合わせた変更かもしれないが、単に鄧小平色を消すためかもしれない。今回の「中国人民日報」の記事は、この様な習近平主席への批判と思われる。中国の機関紙である「人民日報」にこの様な記事が掲載されることは、政権内部にもかなり不満が蓄積されている証左かもしれない。習近平主席の三期目は確実であろうが、決して盤石でないし、順風満帆な状態でもないと考えられる。中国も不安定要因を孕んでいるのである。

習近平主席の3期目は本年秋から2027年までである。彼の2つの「夢」の実現には、4期目も必要である。その為には、不満分子をも説得できる成果(手柄)が必要である。北京オリピック・パラリンピックの成功も1つの成果である。ただし、これだけでは十分ではない。習近平主席は、オリ・パラ後、早速、次なる成果に向けた動きを開始する事が考えられる。

以前、「中国新聞」に、習近平主席が着任後「六場戦争」なるものが掲載されたことがある。2020年から向こう40年間に予測される戦争の記事である。この40年間で6つの戦争が考えられるとの報道であった。この中の最初の戦争は、習近平主席が、事ある毎に発言している「台湾」である。中国にとって、台湾は中国の核心的利益である。最初の戦争は、2020-2025年で「台湾」を統一する戦争である。この場合、「戦争」と言いても単純に「Hot War」の事だけでなく、あらゆるタイプの戦いを意味している。中国の戦略の基本は、「伐謀」であり、「三戦(心理、世論、法律戦)」である。所謂、孫子が言う「戦わずして勝つ」事が最も善であるとの考え方である。また、1999年に当時空軍の大佐であった喬良、王湘穂の両名が書いた「超限戦」(21世紀の新しい戦争)からも中国の戦い方を理解する事が出来る。この著書の中では、「今後の戦いは総力戦」であり、「(軍事のみならず)あらゆる手段の組み合わせ」を使って勝利する、と記載されている。「あらゆる手段」とは、ある時は相手方の基幹インフラを機能マヒさせ、またある時には経済市場を混乱させ、事前に仕組んだパソコンやネット・ワーク網を機能不全にし、心理戦で相手方を不安に陥れ、ありとあらゆる手段で相手方を混乱させ、最後に軍を投入し、勝利するというものだ。所謂、従来の様な武力による戦闘をしなくても相手方を意のままに操ることが出来れば、犠牲者も少なく、善の善、即ち「最善」な戦い方になる。

昨今、台湾に関しては、いろいろな危険性が指摘されている。その多くは、台湾に対する武力侵攻を想定している。私は、敢えて否定はしないが、その確率はかなり低いと考えている。しかし、習近平主席にとって「台湾」を意のままに出来なければ、「夢」が叶わない。かつて馬英九氏(台湾国民党)が台湾総統を務めていた時代があった。彼は、中国との経済関係を重視し、比較的大陸(中国)寄りの政策をとっていた。現在は、蔡英文総統(民進党)が多くの国民の支持を集めているものの、未だに国民党を支持する勢力は健在である。「香港」を見れば、習近平主席がこの勢力を使わない手はない。当然、習陳平主席には、敢えて武力に訴える選択肢もあるが、前述のあらゆる手段を駆使する戦い、即ち、例えば、海・空軍力(空母等の頻繁な航行、戦闘機・爆撃機の周回飛行等)による適度な威嚇・示威行動と、前述の三戦、時に世論戦、心理戦、経済力等を組み合わせ、かつサイバー攻撃等を駆使すれば、戦わずして、台湾への「一国二制度」の適用は可能になるかもしれない。習近平主席にとっては、非常に重要な時期にさしかかっている。失敗は許されない。迂闊に武力を行使すれば、最悪の事態では多くの中国人に犠牲者が出る可能性がある。そうなれば、彼は失脚するしかない。彼は、敢えてそんな危険を冒すのだろうか。

我々は、当然武力攻撃も想定しながら、あらゆる攻撃を考えながら中国対応を考えないといけない。今年の中国は、以前にも増して危険な要素を孕んでいる。中国は、いつでも、どこでも「空白」を探している。政治・経済・軍事・宇宙・金融・文化・エネルギー・法律等々、ありとあらゆる分野を監視し、「空白」を見つければ、侵入し、我がものとする。我々は、「対話」は閉ざしてはいけないが、決して油断してはいけない。最大の警戒をもって対応すべきである。

4)我が国の状況、特に安全保障分野

岸田政権は、コロナ対策も国民からの支持を貰い、支持率が比較的安定している。しかし、今年の見通しが必ずしも明るいわけではない。最大の不安定要因は、Covid-19問題である。この対応如何によっては、支持率も急降下する事もあり得る。そして、前述した様に、我が国は、昨年に続き今年も国政選挙(参議院選挙)が控えている。この選挙結果次第では、何が起こるかわからない。現与党が政権を失うことはあり得ないが、もし、参議院で与党が半数以上の議席を確保できなければ、「ねじれ国会」となり、国会運営がかなり困難になることが考えられる。

選挙以外にも、課題は沢山ある。最大の課題は、経済活動の再生である。コロナの為に我が国の経済のみならず、全世界の経済が低迷している。この状態が、既に2年続いているのである。経済は動かないものの、各国とも莫大な負債を抱えながら、コロナ対策に資金を出している。我が国も各国も、経済が疲弊している。これを早急に回復させないといけないが、有効な手段が見つかっていない。

次に、外交であるが、今年は「日中国交正常化50周年」の年である。大きな節目である。我が国は北京オリンピック・パラリンピックは外交的ボイコットをするが、経済を復活させる為に中国の市場を活用せざるを得ない。大変難しい舵取りが必要であるが、我が国は是々非々で臨むべきである。尖閣諸島周辺の中国公船への対応やチベット・新疆ウイグル地区での人権問題等には毅然たる態度で臨むべきである。

そして、安全保障である。昨年から「国家安全保障戦略(NSS)」の見直し作業が始まっている。今後の我が国の方針を決める大変重要な作業である。昨年岸田政権が発足した際、「経済安全保障大臣」が新設された。最近の経済・技術分野に着目した「経済安全保障」を司る大臣である。昨年末から「経済安全保障」に関係した法律策定の作業も進み、今年の通常国会に当法案が提出される見込みである。大変、素晴らしいことである。今回のこの様な一連の安全保障関連の議論の中心は、矢張り、如何に今後の中国に対応するかである。この中では、「超限戦」等を考えれば、我が国や同盟国やパートナー国に対し、ありとあらゆるアプローチ(攻撃)がある事を想定し、ある特定の部署のみが完璧でも意味がなく、国家として強靭な体質になることを視野に入れた戦略、そして法律、計画になることを願っている。

今通常国会では「経済安全保障法制」が成立し、年末までに「NSS」、そして、「防衛計画の大綱」(又は「国家防衛戦略」)、「中期防衛力整備計画」が策定される予定である。

それぞれの内容について、今回は言及しないが、昨年から議論されている、「台湾」への態度を明確にすることと、昨今の我が国近隣国が極超音速弾道弾や低高度・不規則飛翔飛行する弾頭の開発・配備している事に鑑み、防御能力には限界があり、「長距離打撃能力」の保有の是非に関する議論を行い、我が国の多くの国民の賛同が得られる「結論」に達することを願って止まない。

その「結論」が、我が国の「意志」であり、「決意」である。仮に、我が国に手を出そうとする国があるならば、そのような国に我々の「決意」を伝えるのが「経済安保法制」であり、「NSS」、「大綱」、「中期防」である。

危機管理の要諦は「抑止」である。そして、もし、仮に、「抑止」が破れ、事態が起こった場合には、普段から備えた能力を遺憾なく発揮し、「行動(戦う)」する事である。(令和4.2.2)

岩崎茂(いわさき・しげる)

1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:ロイター/アフロ