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2020.09.14 安全保障

経済制裁の有効性

中村 孝也

米中対立を受けて経済制裁が注目を集めているが、「経済制裁の有効性」にはいくつかの先行研究がある。それらによると、米国の経済制裁による経済的な影響は、少なくともこれまでのところ限定的であったと示されている。

Center for a New American Securityの「THE NEW TOOLS OF ECONOMIC WARFARE: Effects and Effectiveness of Contemporary U.S. Financial Sanctions」は米国の経済制裁を分析したものである。米国の経済制裁の成否については、当報告書では「成功8件、失敗15件、不明1件」と分類しており、期待したような効果は得られていないと結論付けている。また、経済制裁による経済的な影響についても、「制裁が経済面に影響を与えるという明確な証拠はない」と主張している。対GDP比で見た投資額については、制裁1年目、3年目は確かにマイナスの影響が確認されるが、同様にマイナスの影響が想定されるGDPについては、制裁1年目、3年目には逆にプラスの影響が出てしまっている。

一方、「The Impact of UN and US Economic Sanctions on GDP Growth」は、1976~2012年、68ヵ国のケースを対象として、国連と米国による経済制裁の影響を分析したものである。当報告書は、国連による経済制裁は有意に影響しており、実質1人当たりGDP成長率を2.5~3.5ppt押し下げ、その影響は10年間持続したと結論付けている。包括的な経済制裁であれば、GDP成長率を5%超押し下げるなど、より効力は大きいようだ。一方、米国の経済制裁については、7年間で0.5~0.9pptの押し下げにとどまるなど、効力は限定的と結論付けられている。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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