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2020.06.25 安全保障

アフターコロナの投資視点

中村 孝也

コロナショック前の経済成長は、世界的な債務拡大に助長されていた面があった。コロナショックが債務の質を悪化させたが、パンデミックという世界的脅威を前に、各国の政府・金融当局は企業への財政、金融支援を積極化させたため、さらに債務は拡大する公算が大きい。損失を借入で賄っているだけではあるが、経済的なショックを和らげるためには止むを得ない面もあろう。ただ、リスクを将来に先送りしていることは変わらない。高い負債比率は良い方向にも悪い方向にも加速度をつける効果があるが、債務が膨張した状態から反転し負の連鎖が回り始めれば、急激な下落を伴って想定以上の価格まで売られることがあり、何回も金融危機のエンジンとして働いてきた。そのリスクは残されているということなのだろう。

債務のサイクルを除外すると、最終的には生産性が長期的な経済成長を決めるという見方も根強い。生産性とは「あるモノをつくるにあたって、生産諸要素がどれだけ効果的に使われたか」を示すものである。米コンファレンス・ボードによれば、地域別に見た2010~17年の全要素生産性は、インド(1.9%)、ロシア・中央アジア・東南ヨーロッパ(1.0%)などで高い。当該地域の投資の魅力はそれだけ高いということであり、生産性の高低に注目して上記の地域に厚めの資金配分を行うというのは一つの考え方であろう。

もっとも「日本の生産性」でも指摘した通り、現実には、生産性は扱いづらい面も少なくない。全要素生産性は「広義の技術進歩率」と言われる一方で、「単なる残差」という悩ましい側面も有している。生産性のうちもっとも広範な概念であるはずの全要素生産性はヒトやモノは捉えているが、カネの観点は欠落しており、そのことは非効率な経済運営をもたらすリスクを孕む。また、「これまでの生産性がコロナショックによる構造変化で影響を受けないか」という点は、より判断が難しい論点である。コロナショックをきっかけに、グローバル化で安い生産拠点と成長市場を求めた今までの「グローバリゼーション型経済」から、デジタルでの効率性を高める「消費者余剰型経済」に転換しつつあるのであれば、「生産性に注目した投資」というのはあくまでも現時点での妥協の産物という面が強いのかもしれない。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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