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2019.12.19 特別寄稿

これから日本は韓国とどう向き合うべきか vol.3
元統合幕僚長 岩崎茂氏インタビュー

実業之日本フォーラム編集部

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 Vol.8−「反日」が激化する 韓国の「いま」と「今後」 4つのシナリオ』(9月26日発売)の特集「自衛隊・元統合幕僚長 岩崎茂氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。



自衛隊機へのレーダー照射問題、元徴用工問題、韓国に対する輸出管理など、日韓関係を冷やす出来事が立て続けに起こり、国交正常化以来、両国の関係は最悪の状態だ。一方、急速に台頭してきた中国、核開発を進める北朝鮮と東アジア情勢は不安定さを増している。日本は国益を考えると、韓国とどう向き合うべきなのか。かつて自衛隊制服組のトップを務めた岩崎茂氏に聞いた。


安全保障と経済を結び付け、隣国に圧力をかける中国


尖閣諸島付近で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件が起こった2年後に、スカボロー礁(中国名:黄岩礁)をめぐって中国はフィリピンと対立した。

フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置するスカボロー礁は、古くからフィリピンと中国が領有権を主張していたが、中国の沿岸から遠いこともあり、それまでは両国間に目立ったトラブルはなかった。

しかし、豊富な漁業資源に恵まれているスカボロー礁近海で操業する中国漁船が増え、シャコガイやウミガメを乱獲するようになった。そして、2012年4月、フィリピン軍の偵察機がスカボロー礁近くに停泊している中国漁船8隻を拿捕すると、中国は監視船を急行させて、フィリピン海軍と睨み合うことになった。そして、中国は艦船を常駐させて占拠を続け、スカボロー礁を実効支配してしまった。この直後に中国はフィリピン産バナナの検疫を強化した。大量のバナナは廃棄され、中国へのバナナ輸出はストップした。

この事件の2カ月後に、私はフィリピンを訪問する機会があったが、マニラ市内はもちろん地方都市のいたるところで、バナナが山積みになっていたことをよく覚えている。当時、中国は日本に次いで2番目のバナナの輸出先で、その影響が甚大であったことを目の当たりにした。

フィリピンにとってバナナをはじめとする一次産品の輸出は重要な外貨獲得手段だ。その重要な輸出先である中国が買わなければ、経済に甚大な影響が出る。中国はこうして安全保障と経済を結び付けて、相手国に対して経済的に圧力をかけて締め上げるということが過去散見された。

こうなると、国力に劣るフィリピンはやはり中国に対して言いたいことが言えなくなっていく。ほかのASEAN諸国も同様で、どうしても中国の言い分を認めざるを得なくなりがちだ。なかでも、中国への依存度が高いのはラオスやカンボジアだ。

経済力が大きくなった中国への貿易依存度が高くなると、万が一、関係が冷え込めば、経済的に追い込まれ、安全保障にまで影響が及ぶ事態が起こる可能性が高くなるということだ。


(つづく~「自衛隊・元統合幕僚長 岩崎茂氏インタビュー これから日本は韓国とどう向き合うべきか vol.4【フィスコ 株・企業報】」~)



実業之日本フォーラム編集部

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