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2018.12.21 特別寄稿

アマゾンも不安要因がないわけではない
アマゾン・エフェクトの脅威vol.6

実業之日本フォーラム編集部

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年冬号 −10年後の日本未来予想図』(10月5日発売)の特集『アマゾン・エフェクトの脅威』の一部である。全9回に分けて配信する。



米アマゾン・ドット・コムの急成長・急拡大による市場での混乱や変革。一大現象となっているアマゾン・エフェクト。実店舗からオンラインへと消費者購買行動が移行し、米国内の百貨店やショッピングモールが閉鎖に追い込まれるなど、既存の消費関連企業に衝撃をもたらした。同社のさらなる買収や事業拡大は他の分野にも広がっており、その影響で収益低下が見込まれる「アマゾン恐怖銘柄指数」なるものまで設定された。アマゾン・エフェクトとはいかなるもので、これから日本にもどのような影響を及ぼすことになるのか。アメリカで起こったことを検証しながら考察してみた。


アマゾンは低所得者を見限り始めた!?


急激に巨大化したアマゾンに綻びがないわけではない。日本でもECコマースの荷物の急増で、大手宅配便業者が悲鳴を上げ、送料が上がる事態になったことは記憶に新しい。

もともとは2013年に、アマゾンの配送を引き受けていたSGホールディングス<9143>(佐川急便)が運賃の値上げを求めたところ、交渉は決裂。佐川急便が撤退すると、ヤマトホールディングス<9064>(以下、ヤマト)が参入した。しかし、業界最大手のヤマトをもってしても増え続けるアマゾンの荷物を捌くことには苦労し、現場はパンク状態となった。深刻なドライバー不足や長時間労働を解消するために、「サービスを維持するためには適正な運賃をいただく必要がある」として、2017年10月1日に値上げに踏み切った。

じつは、同じ事態はアメリカでも起こっている。2017年のクリスマスシーズンには、約8500万人いるとされるプライム会員に対して約束している「注文から2日後の配達」が守られないケースが多発した。日本と同様に大手宅配業者がキャパシティを超える配送量に対応できなかったためだ。注文量が増えるシーズンで、こうした事態が慢性化すれば、顧客の不満は蓄積していくだろう。

他方、アマゾンの末端で働く従業員の低賃金が社会問題になっている。オハイオ州内のアマゾン従業員の10%がフードスタンプに頼らざるを得ない貧困に喘いでいることが表面化したほか、低所得者層向けに設定されたプライム会員の月払い料金を大幅に引き上げるなど、低所得者層に厳しい施策が増えている。

買収したホールフーズでも問題が起こっている。買収直後には大幅値引きを行っていたが、その後は目に見えて大幅値引きは減った。それだけでなく慢性的に商品が不足する事態に陥っているという。さらに従来は地産地消に力を入れていたホールフーズだが、買収後にその方針を放棄して、不評を買っている。こうしたことが重なり、一部の顧客からアマゾンに対する不満を募らせている人が増えているという。

また、ウォルマート&グーグル連合だけでなく、そのほかの大手小売りチェーンも黙ってはいない。スーパーマーケットチェーン・クローガーは、2013年からスマホを活用したモバイル決済アプリ「スキャン、バッグ、ゴー(Scan,Bag,Go)」を試験導入していた。

店内にあるスキャニング端末で商品バーコードを読み込ませることで、端末とレジを同期させ簡単に会計ができるシステムで、商品をそのままエコバッグに詰め込み、支払いまで完結するシステムだ。2018年1月にアマゾンは無人ストア「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」をシアトルで開店したが、ライバルたちは生き残りをかけるため、このように先進的な取り組みでアマゾンを先行しているケースもある。アマゾン・エフェクトへの恐怖が、ライバルたちを本気にさせたのだ。 飛ぶ鳥を落とす勢いが続くアマゾンだが、ロジスティクスの綻びや、低所得者排除を強める動きへの批判、そして本気になったライバルたちの反撃が強まっていることなど不安要因がないわけではない。



(つづく~「アマゾン・エフェクトの脅威vol.7 クラウドサービス分野にも影響が広がる【フィスコ 株・企業報】」~)

実業之日本フォーラム編集部

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