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2018.11.08 特別寄稿

金融とブロックチェーン
LONGHASH Japan代表 クリス・ダイ氏インタビューvol.3

実業之日本フォーラム編集部

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年冬号 −10年後の日本未来予想図』(10月5日発売)の巻頭特集「LONGHASH Japan代表取締役 クリス・ダイ氏インタビュー」の一部である。全8回に分けて配信する。



今年2月に設立されたLONGHASH Japanは、分散型ビジネスモデルを可能にするブロックチェーン活用事業の支援を主軸として設立された注目の企業である。今回はLONGHASH Japan代表取締役社長、クリス・ダイ氏に、ブロックチェーンに代表される分散型ビジネスの将来性やその普及に至るまでの課題なども含めて、お話を伺った。


―LONGHASHの考えるインキュベーションサービスは、金融庁のような規制当局と対立するような構造のビジネスとなってしまうのでしょうか。

もちろん、対立しようとか、逆らおうといった意図はありません。私どもはブロックチェーンのように改ざんが不可能な仕組みは、その仕組みの中で自律的にコントロール可能だと考えています。そして、新しい考え方をもって、これからの経済秩序を組み立てなければなりません。

規制する側は、理解するのが難しい技術に対して「怪しい」と考えがちかもしれません。現在のような分散型ビジネスの黎明期を、1990年代のようなインターネットビジネスの黎明期になぞらえて捉える向きもあります。もちろん、両者は類似点が多いのですが、規制当局が抱く危機感はインターネットよりも分散型ネットワークに対してのほうが大きいように感じています。しかし、その危機感には誤解も含まれていますので、粘り強く誤解を解く働きかけを実施していきます。

従来型の中央集権的ビジネスを行う企業よりも、分散型ビジネスモデルのほうが、かえって透明性が高いのです。私どものチームは、中国の某仮想通貨取引所の管理する全ウォレットについて、その残高を洗い出すことに成功したことがあります。そもそもパブリックチェーンに載っているデータである以上、取引所だけで情報を独占することはできません。

むしろ、従来型のビジネスよりも不正を隠すことがはるかに困難な仕組みですので、それをうまく利用すれば本来は規制を強化する必要がないのです。

もし、ブロックチェーン上のトランザクションでイレギュラーな動きがあれば、AI(人工知能)で自動的に検知することも可能になります。これは、アンチ・マネーロンダリングの方針にとっても有効です。規制当局にとっても、コントロールが簡便で、監視の人員を削減できる仕組みといえるのではないでしょうか。仮にトークンエコノミーに対して規制を入れるにしても、やみくもに厳格化するのでなく、分散型モデルに適した規制のあり方を探ることが、これからの日本経済の発展にも資すると思うのです。


―クリスさんは別分野から金融の世界へ参入し、さらにブロックチェーン事業の支援に関わっていらっしゃいますが、金融の世界でブロックチェーン事業のようなリアルビジネスが注目されているのでしょうか。

注目されているだけでなく、金融業界にいた人がブロックチェーン関連ビジネスへ参入する動きが増えています。金融はスケーラビリティの大きさが魅力で、運用によって投じた資金が何倍にも増えていきます。ビジネスでは、「ゼロから1」を立ち上げ、「1から2」へ持っていき、黒字化させていくまでが大変です。事業を軌道に乗せて拡大させていくためには様々な先行投資が必要ですし、従業員も増やしていかなければなりません。一方、金融なら「1から10」へ増やすことは決して難しくありません。仕組みを構築すれば、100にも1000にもできます。

そして、トークンエコノミーをリアルビジネスに組み入れれば、金融の「1を10にできる」スケーラビリティの高さを、ビジネスにも取り込むことができるかもしれません。金融業界からブロックチェーン事業に参入する人が増えているのも、おそらくその可能性を敏感に察しての動きだと私は考えています。


(つづく~「LONGHASH Japan代表 クリス・ダイ氏インタビューvol.4 分散型ビジネスによる変化【フィスコ 株・企業報】」~)

実業之日本フォーラム編集部

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