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2023.03.17 経済金融

習近平肝煎りの「軍民融合」…軍用品生産を担う中国の民間企業を一挙公開

実業之日本フォーラム編集部

 習近平(シー・ジンピン)政権による「軍民融合」政策が押し進められている。軍民融合とは軍事コスト削減などを目的として、民間と軍事の技術を融合し技術革新を促すもので、習主席が5年前の第19回党大会で、2049年までに中国は米軍に比肩する「世界一流の軍隊」になると明言してから、国家戦略として進められてきた。

 軍民融合による製品の生産額は伸び続けており、経済分析を行う国の機関である中国投資産業研究所が公表した最新のデータによると、2020年の軍民融合による製品生産額の合計は前年より14.8%増の4兆5700億元(87兆円)だった。

図1:軍民融合政策による製品生産額の推移(兆元)

(出所)中国投資産業研究所

 そのうち民間技術を軍用へ転用した製品の生産額は3兆9600億元(74兆円)で、軍事技術を民用へ転用した製品生産額の6100億元(11兆円)を大幅に上回った。また、2021年時点で軍民融合政策による生産額が1億元(19億円)を超えた民間企業の数は1500社に達している。現在、多くの民間企業がドローン(無人機)やAI(人工知能)、顔認証などといったハイテク技術を使った軍用品開発に乗り出している。

図2:軍用品を生産する民間上場企業
企業名主力製品
北斗星通人工衛星
大立科技電子式試験装置
奥維通信光伝送装置
華力創通ソフトウエア
盛路通信光伝送装置
高徳赤外線赤外線サーモグラフィシステム
亜光科技半導体デバイス
中海達電子式試験装置
金信諾通信ケーブル
火炬電子通信関連部品
全信股フン通信ケーブル
景嘉微電子機器
宏達電子電子機器
上海瀚訊広帯域移動通信システム
鴻遠電子電子機器
睿創微納ディスクリート半導体
電子計測器
新光光電光学システム
インテグレーションサービス
興図新科光学システム
インテグレーションサービス
天箭科技通信端末設備
盟昇電子人工衛星
科思科技電子計測器
智明達電子機器
霍莱沃電子式試験装置
天微電子電子機器
雷電微力監視装置
国光電気電子機器
富吉瑞赤外線専用設備
観想科技電子計測器
ソフトウェア
高凌情報軍事用通信ネットワーク通信設備
華如科技ミリタリーシミュレーション
(出所)中国金融情報サービス会社Windのデータより著者作成

軍の「智能化」を急ぐ中国

 中国はハイテク技術の活用による軍の「智能化」も急ぐ。智能化とは、AIやビッグデータ、クラウドコンピューティングなどといった最先端技術を軍事分野へ応用することで、最終的には戦場の状況分析や部隊の配置、最適な作戦立案などをAIが担うことを目指している。

 それを担う代表的な中国企業が国有IT大手の中国電子科技集団(CETC)と中国電子信息産業集団(CEC)だ。CETCは主に電子情報技術製品・情報サービスの提供を行なっており、2021年の主力事業の収益は2777億9700万元(5.3兆円)、純利益は19.09億元(363億円)だった。米誌が選ぶ世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」で334位にもランクインした中国IT企業の中心的存在だ。CECは、主に通信設備、ソフトウェア、エンジンなどのキーコンポーネント(基幹部品)の開発・生産を行なっており、傘下には監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)を持つ。2021年の主力事業の収益は2358億5400万元(4.5兆円)、純利益は223億2400万元(4252億円)で同番付の354位に6年連続でランクインしている。

図3:2社の基本概要(1元=19円)
中国電科(CETC)中国電子(CEC)
設立年2002年1989年
事業内容ディスプレイ、集積回路、ハイテクエレクトロニクスの生産、情報セキュリティ・情報サービスの提供電子製品、PC製品、通信機器、ネットワークセキュリティの生産
子会社数13社10社
過去3年間の平均売上高(19〜21年)2731.22億元(5兆円)2495.84億元(4.7兆円)
過去3年間の平均営業利益(19~21年)252.24億元(4800億円)34.06億元(650億円)
(出所)中国金融情報サービス会社Windのデータより著者作成
図4:中国電子企業が支配株主の上場企業
企業名持株比率主力製品
振華科技32.73%半導体ディスクリート装置、電話機、電子部品、集積回路、交換機
中国長城42.24%ストレージデバイス、プリンター、コンピューター機器
深科技34.51%電子式試験装置
中国軟件42.38%CRMソフトウェア、CTI音声ソフトウェア、ERPソフトウェア、OAソフトウェア、SCMソフトウェア、OSソフトウェア
彩虹股份不明電子部品関連
深桑達47.57%変電設備、電話機、電子試験計測器
上海贝岭25.32%半導体材料、電話機、集積回路
冠捷科技96.58%ビデオ製品、液晶モニター
南京パンダ29.18%OAソフト、変電設備、低圧電気機器、電子機器
瀾起科技不明データ処理、インターコネクトチップ
(出所)中国金融情報サービス会社Windのデータより著者作成
図5:中国電科企業が支配株主の上場企業
企業名持株比率主力製品
海康威視43.33%半導体ディスクリートデバイス、ストレージデバイス、電子計測器、光学デバイス、智能商用デバイス
衛士通36.01%ファイアウォールソフト、システムインテグレーションサービス、智能商用デバイス
国睿科技66.77%電子式試験装置
声光電科37.93%車体・外装品、電動バイク、エンジン機器、光学機器
普天科技36.37%通信端末機器、人工衛星
太極股份38.87%業界特化型ソフトウェア
電科デジタル37.16%CTI音声ソフト、ERPソフト、OAソフト、業界特化型ソフト
鳳凰光学49.3%光学設備
東方通信43.44%業界アプリケーションソリューションプロバイダー
中瓷電子56%電子セラミックス製品
四創電子47.19%電力変換装置、航空宇宙部品、通信端末設備
天奥電子43.30%通信端末設備
東信和平44.21%集積回路
(出所)中国金融情報サービス会社Windのデータより著者作成

 

立ちはだかる米国の経済規制

 軍民融合政策の遂行には大きな壁もある。中国のテクノロジー企業は、数年前から安全保障に対する脅威をもたらすとして米国による経済規制を受け続けているからだ。昨年の12月に米国は、半導体大手の長江存儲科技(YMTC)や中科寒武紀科技(カンブリコン)など、中国政府とのつながりが強く見られる企業や軍事転用される可能性が高い製品を生産する36もの中国企業・団体を事実上の禁輸リストに追加している。

 米中競争を巡る問題の本質的なポイントは、それが国家間の国防力、経済力、社会統治能力の競争でもあることだ。AIや半導体、ロボット、先端材料といった重要分野への中国資本の流入を阻止したい米国は、今後も中国のハイテク分野を標的とした厳しい制裁を課すと予想される。中国の軍民融合の推進は、険しい道のりとなりそうだ。

写真:新華社/アフロ

実業之日本フォーラム編集部

実業之日本フォーラムは地政学、安全保障、戦略策定を主たるテーマとして2022年5月に本格オープンしたメディアサイトです。実業之日本社が運営し、編集顧問を船橋洋一、編集長を池田信太朗が務めます。

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