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2022.10.05 経済金融

TikTokだけじゃない!世界最強ユニコーンのバイトダンス、いよいよ香港上場か

実業之日本フォーラム編集部

 企業価値が10億ドル(約1300億円)を超える未上場企業「ユニコーン」の企業価値評価額ランキングで、今年も中国企業が首位を守った。中国の調査会社、胡潤研究院は8月30日、「グローバルユニコーン企業ランキング」を発表し、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する字節跳動(バイトダンス)の評価額を、2年連続で首位となる1875億ドル(約26.8兆円)と算出した。

評価額1000億ドル越え、ヘクトコーン企業「バイトダンス」とは?

 バイトダンスとはどんな企業なのか。同社は中国でのスマートフォンの普及を背景に2012年に当時29歳のエンジニア張一鳴(チャン・イーミン)氏が設立し、同年8月にキュレーションニュース配信アプリ「今日頭条(ジンリートウティアオ)」の提供を開始している。

 従来のキュレーションアプリがユーザーのフォローした情報をもとに関連情報を表示する仕組みだったのに対し、今日頭条ではユーザーのフォロー設定だけでなく、アプリを操作している間の行動に関する情報も収集し、人工知能(AI)によってユーザーに最適なコンテンツを配信する仕組みを取り入れた。フォロー設定している情報しか取れない従来の仕組みではユーザーにとって未知の新しいコンテンツに出会うことが難しいが、上記の仕組みでは可能になる。これが人気を博し、現在の月間アクティブユーザーは2.96億人にものぼる。

 2016年には、キュレーションアプリで開発したAIによるリコメンド機能を備え、15秒ほどの縦型動画を簡単に作成し投稿することができる動画配信サービス「抖音(ドウイン)」の提供を始め、翌年にはその海外バージョンであるTikTokの提供を開始。さらに同年11月には米動画配信サービスの「ミュージカリー」を買収し、海外のユーザーの獲得にも成功した。

 同社はショート動画投稿の「抖音」事業と「TikTok」事業、エドテックブランド「大力教育(Dali)」、企業向けオフィスツール「飛書(フェイシュ)」、クラウドサービス「火山引擎(Volcano Engine)」、ゲームブランド「朝夕光年(Nuverse)」の6つの事業を展開している。2022年現在、世界で11万人以上の従業員を擁し、150以上もの国と地域で事業を行う。

TikTokのDL数、フェイスブックを抜いて1位

 なかでも圧倒的に強いのがやはりTikTok・抖音事業だ。月間利用者数(MAU)は2017年9月のリリース開始からたった6年間で10億人を突破しスマートフォン向けアプリとして世界首位に上り詰め、2020年にはフェイスブック(FB)を抜いて世界で最も多くダウンロードされたアプリとなった。2020年12月時点での中国国内でのデイリーアクティブユーザー(DAU)は約6.8億人を突破。2022年現在、世界のインターネットユーザー48億人のうち、20.83%がTikTokを利用している。

 米調査会社Sensor Tower によると、2022年現在のダウンロード数は全世界で35億回を超えており、これを達成したアプリは米Metaが提供する「WhatsApp」、「フェイスブック」、「フェイスブックメッセンジャー」、「インスタグラム」の4つ以外では初だ。

 ショート動画アプリは他にも存在するが、なぜTikTokはこれだけのユーザーを獲得できたのか。その強みは、上記のAIによるリコメンド機能だ。

 まだフォロワーや閲覧数が少ない動画でもAIがユーザーの嗜好とマッチングすると判断すれば掲出される仕組みで、そうして掲出された動画に対するユーザーの行動(離脱・滞在の時間)のデータから、ほかのユーザーに対して掲出するかどうかがさらに判断されていく。すでに多くのフォロワーや閲覧数を持つコンテンツしか掲出できないサービスと比べて、後発で参入しても、ユーザーの嗜好に合ったコンテンツが作成できるのであれば多くのユーザーに作品が表示されやすい。AIによるリコメンドは、「見る」側には新たなコンテンツとの出会いをもたらし、「見せる」側には後発の参入障壁を下げる効果をもたらすのだ。

 そもそも短時間かつスマートフォンでの閲覧に特化することで動画作成のハードルは下がっているのに加え、ファン層やランキングが固定化しやすいYouTubeなどの既存サービスよりも後発の新規参入者にとっての拡散のチャンスを大きくしたことから、若い世代がさかんに独自コンテンツを公開するようになり、ユーザーとの関係性が高まった。

 技術とサービス設計が高度に合致したサービスと言えるだろう。

コンテンツを見て商品が欲しくなる「興味EC」を導入

 バイトダンスといえばTikTokのイメージが強いが、それだけではない。たとえば「ドウイン」ユーザー向けのネット通販「抖音電商(ドウインEC)」も好調だ。同サービスで実現するのは、興味を持ってから購入するまでを同じアプリのなかで一気に完結できる新しいEC形態「興味EC(インタレクトコマース)」だ。

 これまでユーザーは、SNSで紹介されている商品が欲しければ、別途、Amazonや楽天市場などのECサイトでキーワード検索を行って商品を購入していた。しかし、ドウイン内で流れる動画やライブで欲しい商品が紹介されたら、他のECサイトに移動せずとも貼り付けられたリンクをクリックするだけで、すぐに商品を購入することができる。このように、ユーザーが目当ての商品を検索するのではなく、コンテンツを見ることで商品に興味を持ち、購入をする流れを作ることができるのが「興味EC」の強みだ。日本企業でもカネボウ化粧品が主力ブランド「KANEBO」商品をドウイン内でのライブ配信で販売し始めている。

 さらにキャッシュレスサービス「抖音支付(ドウインPay)」もスタートさせており、自社のECで商品を購入してもらい、決済も自社サービスを利用してもらうことでユーザーの囲い込みを狙う。2021年末時点でドウインECに出店した企業や個人事業主は1000万件を超えている。

 2020年の中国最大のネット通販セール「独身の日」では、初参加ながら期間中187億元(約3100億円)の取扱高を記録した。2021年の年間取扱高は数千億元規模に達すると見られている。バイトダンスは2021年の中国の年間GMV(総売上高)の具体的な金額を公表していないが、報道によると7000〜8000億元(約14.4兆円~16.5兆円)に達した模様だ(2020年は約10.3兆円)。

ライブコマース売上は、年1兆円超え?

 バイトダンスは未上場企業であるため正式な決算発表はリリースされていないが、中国メディアの報道によると、2021年の総売上高は前年比70%増の580億ドル(約8.3兆円)だった。そのうち、オンライン広告事業は約2500億元(約5.1兆円)、ライブ配信で商品を販売するライブコマース事業は約600~700億元(約1.2~1.4兆円)に達している。

 2020年の総売上高が前年比111%増の343億ドル(約4.9兆円)だったことに比べると伸び率は鈍化しているが、オンライン広告全体で占める割合は70%近くを占めており、「ドウイン」は依然として同社の収益ドライバーであることがわかる。

 さらに電子商取引(EC)事業を拡大するため、「今日頭条」、動画配信サービス「西瓜視頻」、検索エンジン「頭条検索」、ネット辞典「快懂百科」をドウイン事業内に組み込む。また観光や飲食、スポーツ業界にも進出し、業容拡大する模様だ。これによる収益増加も見込まれる。

 なかでも生活用品のまとめ買いサービス「ドウイン本地生活」は堅調で、中国テクノロジー評価会社「36クリプトン」によると、今年上半期のGMVは約220億元(約4488億円)で、1~3月期が100億元(約2000億円)超、4~6月期が110〜120億元(約2200〜2400億円)だった。今年の通期目標GMV「500億元(約1兆円)」達成も近そうだ。

再び香港上場を目指す可能性

 TikTokを巡っては、2020年にドナルド・トランプ米大統領(当時)が利用者の氏名や位置情報、交友関係などの個人情報が中国にわたる可能性などの安全保障状の脅威があるとの理由で、米国事業の売却を命じる大統領令に署名し、米企業に売却するなら存続させるとの圧力をかけていた。しかし、中国政府がこの売却案への懸念を示し重要技術の輸出や海外移転する「技術リスト」を12年ぶりに改訂したことで、異例の売却劇が幕を下ろした。

 一時米国による圧力にもさらされ世界の注目を集めたバイトダンスだが、現在、2020年に断念した香港市場への上場を再び実行する動きが出てきている。というのも、現在バイトダンスが中国本土・香港で保有する複数の子会社の社名は「ドウイン」に変更されおり、さらに今年4月にはバイトダンスの最高財務責任者(CFO)にハイテク企業のIPO(新規株式公開)経験が豊富な米大手法律事務所スキャデン・アープスの高準氏を迎えているからだ。これらの動きから、バイトダンスはドウインなどの国内事業を取りまとめ、「ドウイン集団」として上場することを改めて検討している可能性が高い。バイトダンスのこれからの動きに注目したい。

実業之日本フォーラム編集部

実業之日本フォーラムは地政学、安全保障、戦略策定を主たるテーマとして2022年5月に本格オープンしたメディアサイトです。実業之日本社が運営し、編集顧問を船橋洋一、編集長を池田信太朗が務めます。

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