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2022.09.07 経済金融

侮るなかれ、中国EVの日本進出 産業転換期の隙をつくBYDの「恐るべき画策」

実業之日本フォーラム編集部

 中国のEV乗用車がついに日本に参入する。中国の電気自動車(EV)大手・比亜迪(BYD)が7月21日、日本の乗用車市場への進出を発表した。同社は日本向けに2015年から商用のEVバスの展開を始め、現在は国内シェアの7割を占める。これを足がかりに乗用車EVを展開する。23年から3車種を販売開始する。

 BYDは現在、欧州を中心とした世界70か国以上で、中国政府が普及を促進する「新エネルギー車(以下、新エネ車)」を展開している。今後、中東やアフリカ、アジア、北米にも進出予定だ。中国における「新エネ車」とは、電気自動車(EV)・家庭で充電可能なプラグインハイブリッド車(PHV)・燃料電池車(FCV)の3種類を指し、ハイブリッド車(HV)は含まれない。BYDは乗用車EVを今年1~6月までに30万台以上売り上げ、米テスラに次ぐ世界2位に躍り出た。

 では、なぜ今、あえて日本に進出するのか。日本国内の乗用車市場におけるEVシェアは1%にも満たない状況が続いており、その小さな市場の中にはトヨタ自動車を筆頭とする国産メーカーが並んでいる。しかし、今後、世界と同様に日本の自動車市場も否応なく内燃機関車からEVへシフトしていく内燃機関車に経営を最適化している国産メーカーがEV展開で遅れていることを横目に、BYDはその有望市場に対して先手を打った。

独自開発「ブレードバッテリー」とは?

 2023年に発売予定の3車種は、中型多目的スポーツ車(SUV)「ATTO 3(アットスリー)」、コンパクトタイプの「DOLPHIN(ドルフィン)」、中型セダン「SEAL(シール)」だ。この全てにBYDが独自に開発した電池「ブレードバッテリー」が搭載されている。

 ブレードバッテリーとは、安全性が高く、安価で、寿命が長いという特徴を持つ「リン酸リチウムイオン電池(LFP)」の一種で、長方形の平たい形状をしている。LFP電池にはエネルギー密度が低いという欠点があるが、ブレードバッテリーを効率よくEVの床下に重ねて敷き詰めることでそれを補った。床下に適切な大きさの形状をしたブレードバッテリーを搭載することは、車体に強度を持たせることにもつながっている。これにより、車体の軽量化を達成し、かつ空間利用率も上げることができた。

3車種の価格を予想

 23年1月に発売予定のSUV「アットスリー」はバッテリー容量が58.56キロワットの1タイプ展開で、中国や海外で発売されている同モデルの容量とは若干異なる。日本仕様に近いオーストラリアで発売されている同車の販売価格は約445万円だが、これは中国での販売価格(約332万円)より約1.34倍高い設定だ。日本でもオーストラリア同様の価格設定となる可能性が高い。

 これに加え、EVなどの購入費用を補助する「CEV補助金(2022年度の場合、EVの電気を建物で利用するV2H対応可能なもので最大85万円)」を勘案すると、400万円前後で購入できそうだ。

 中国オーストラリアシンガポール日本
バッテリー容量49.92 kWh
60.48 kWh
50.1kWh
60.4kWh
60.5kWh58.56kWh
航続距離(NEDC)430 km
510 km
410km
480km
480km485km
(WLTC※自社による
実測値)
航続距離(EPA換算推計値)約344km
約408km
約287km
約336km
約336km約433km
価格13万7800元
(約276万円)
16万5800元
(約332万円)
4万4381 AUD
(約417万円)
4万7381 AUD
(約445万円)
18万4888 SGD
(約1812万円)
約450万円
※EPA換算率:EPA/ NEDCは0.7、EPA/WLTCは0.89
※為替レート:1元=20円、1AUD=94円、1SGD=98円

  

23年中旬に発売が予定されているのが、コンパクトタイプの「ドルフィン」だ。中国での商品展開は「活力版」・「自由版」・「时尚版」・「骑士版」の4タイプ。バッテリー容量は活力版が30.7キロワットで、その他の上級3タイプはいずれも44.9キロワットだ。日本ではバッテリー容量44.9キロワットのスタンダードモデルと、バッテリー容量58.56キロワットのハイグレードモデルの2種類が販売される。

 価格はどうなるか。44.9キロワット車の中で最もグレードの低い「自由版」の中国販売価格は約208万円で、最もグレードの高い「骑士版」は約244万円だ。ドルフィンが低価格路線で導入されることも考慮すると、日本では200万円後半〜300万円前半の価格設定となることが予想される。こちらもCEV補助金分を差し引くと、200万円台中盤で購入できそうだ。

 23年下旬に発売が予定されているのが、ハイエンドの中型セダン「シール」。中国でも今年5月に発表されたばかりの最新モデで、スポーティでエレガントなデザインが特徴的だ。日本では82.56 キロワットのモデルのみが販売される。駆動方式は後輪駆動(RWD)のスタンダードモデルと、四輪駆動(AWD)のハイグレードモデルの2種類だ。

 中国での販売価格はRWD(82.5キロワット)が約520万円で、AWD(82.5キロワット)は約574万円だ。同じようなスペックにテスラの「Model3」があるが、日本ではRWDが596万円、AWDロングレンジモデルが約709万円で販売されている。BYDの知名度はまだ日本では低いため、これよりもやや安い金額で提供されるかもしれない。

   
3車種の比較
ATTO 3 DOLPHIN(ドルフィン) SEAL(シール)
スタンダード ハイグレード スタンダード ハイグレード
タイプ ミドルサイズ
e-SUV
コンパクトハッチバック セダン
駆動方式 FWD FWD RWD AWD
全長/全幅/全高 4455/1875/1615(mm) 4290/1770/1550(mm) 4800/1875/1460(mm)
最大出力 150kW 70kW 150kW 230kW 160kW
(フロント)
230kW
(リア)
バッテリー容量 58.56kWh 44.9kWh 58.56kWh 82.56kWh
航続距離(WLTC) 485km 386km 471km 555km
航続距離(EPA換算推計値) 約433km 約345km 約421km 約496km
日本発売予定時期 2023年1月 2023年中頃 2023年下半期
予想価格 450万円前後 200万円台後半 300万円台前半 600万円台後半 700万円台
同タイプの中国での販売価格 約332万円
(60.48kWh)
約208万円
(44.9kWh)
約244万円
(44.9kWh)
約520万円
(82.5kWh/RWD)
約574万円
(82.5kWh/AWD)

 

日本メーカーの脅威に

 BYDは25年までに日本全国に100店舗を展開し、乗用車販売のほかアフターサービスや急速充電までできる環境を整える予定だ。品質やアフターサービスに厳しい日本人に認められたなら、世界に誇れるブランドイメージの確立につながる。

 かつて「安かろう悪かろう」と言われた中国製品に対する感覚を、今の若者は持っていない。高性能で手軽な値段で購入できるEV車は、中国ブランドに対する負の印象を持たない若者たちから一定の支持を集める可能性がある。EVに経営を最適化して「攻め」に集中する中国メーカーを、守るべきものの大きい日本勢はどう迎え撃つか。BYD日本進出の一報が投じた一石の生んだ波紋が、自動車産業の裾野を広がっていく。

写真:AP/アフロ

実業之日本フォーラム編集部

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