当局のゲーム規制強化の影響で、中国国内のゲーム産業の成長が鈍化している。2021年12月に出された「中国遊戯産業報告(中国音像・数字出版協会中国遊戯出版工作委員会、中国遊戯研究院が発表)」によると、2021年の中国のゲーム市場全体の売上高は前年比6.4%増の2965億1300万元(約5.9兆円)で、伸び率は前年から14ポイント近く低下した。
背景には、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要の反動減やヒット作の伸び悩みの他、21年7月から行われた新作ゲームの承認停止(中国でゲーム販売をする場合、当局の承認が必要)やその翌月に発表された18歳未満のオンラインゲーム利用を1週間で計3時間へ制限することなどゲーム規制が強化されたことがある。この影響で、2021年の中国のゲーム売上げ上位20社のうち6社が減収となり、新作ゲームの承認停止に伴う企業の倒産は1万4000件を超えた。
企業名 | 総売上高(億円) | ゲーム事業・売上高(億円) | 総売上高の前年比 |
テンセント | 112,450 | 34,993 | 16% |
ネットイース | 17,587 | 12,608 | 19% |
BiliBili(ビリビリ) | 3,874 | 1,023 | 62% |
三七互娯(37Interactive Entertainment) | 3,252 | 3,252 | 12.6% |
世紀華通 | 2,790 | 2,329 | -7.0% |
完美世界 | 1,706 | 1,485 | -16.7% |
ネットドラゴン | 1,405 | 722 | 14.6% |
キングソフト | 1,284 | 622 | 14.0% |
捜狐(そうふ) | 1,124 | 863 | 11% |
IGG | 1,044 | 1,044 | 11% |
崑崙万維 | 983 | 156 | 4.8% |
吉比特 | 923 | 903 | 68.4% |
神州泰岳 | 862 | 662 | 19.98% |
中手遊 | 802 | 722 | 3.6% |
遊族網絡(YooZoo) | 642 | 642 | -31.9% |
心動網絡 | 542 | 400 | -5.1% |
創夢天地 | 522 | 461 | -17.9% |
恺英網絡 | 482 | 482 | 53.9% |
巨人網絡 | 422 | 421 | -4.2% |
知明星通 | 361 | 361 | 5.7% |
承認は今年4月に再開され、8月までの間に241作品を承認した(内容は下図参照)ものの、売上げが2社合わせて国内ゲーム市場の約8割を占める首位の騰訊控股(テンセント)と2位の網易(ネットイース)の新作ゲームは未だ販売許可が降りておらず、理由も公表されていない。
・4月11日公開の承認作品数は45。ゲーム大手百度(バイドゥ)の作品も承認された。
・6月7日公開の承認作品数は60。「米哈游」や「完美世界」、「英雄互娯」など中堅ゲーム会社の作品が多い。
・7月12日公開の承認作品数は67。ゲーム会社「遊族網絡」や「bilibili(ビリビリ)」、「創夢天地」の作品が多い。
・7月30公開の承認作品数は69。ゲーム会社「三七互娯」や「吉比特」、「TikTok(ティックトック)」の作品が多い。 (テンセントやネットイースはこれら全てに含まれていない。)
海外展開で生き残り目指す
そんななか、一部の中国のゲーム企業は海外市場へ進出することで生き残りを目指す。前述の「中国遊戯産業報告」によると、中国企業の海外市場全体での売上高は前年比16.6%増の180億1300万(約3538億円)ドルで、大きく増加。また、2021年の展開対象国・地域数も増えている。大きな市場は依然として米国、日本、韓国だが、この3年で3か国の売上げが全体に占める割合は低下傾向にあり、それ以外の国での売上げの割合が相対的に高まっている状況だ。
国内市場依存を脱却へ
売上首位のテンセントもその一つだ。テンセントは国内市場依存の脱却を目指し、海外市場で急成長を見せている。テンセントの国内市場での売上高は、2020年は前年比20%増だったのに対し2021年は前年比6%増の1,288億元(約2.6兆円)と減速したものの、海外市場での売上高は同社のゲーム事業全体の31%にも及ぶ。今後も海外展開を加速する計画だ。
日本漫画得意、中堅「中手遊」も海外進出で急成長
中堅ゲーム会社の海外進出も堅調だ。なかでもドラゴンボールなど日本漫画を題材としたゲームを得意とする「中手遊」の成長は著しく、売上高は前年比73.6倍の4億5800万元(約80億円)に達し、これは収益全体の約11%にも及ぶ。同社は以前から作品の著作権管理を厳重に行なってきた。
テンセント、海外市場を席巻
ゲーム業界のトレンドを分析するNewzoo(ニューズー)が発表した「2021年世界のゲーム企業売上高ランキングトップ10位」をみてみると、ゲーム事業の売上高が前年比9.9%増の332億ドル(約4.4兆円)に達したテンセント(中国)が首位を獲得している。続くソニー(日本)は182億ドル(約2.5兆円)、3位のアップル(米国)は153億ドル(約2.1兆円)。中国国内でテンセントに次ぐ売上げを誇るネットイース(中国)は6位にランクインした。10社の総売上高は1260億米ドル(約17兆円)で、市場全体の年間収入の約65%を占めている。
大規模買収続く、世界のゲーム大手
また、世界のゲーム市場では過去に類をみない額での買収が行われるなど、業界の大規模再編の動きが見られる。1月には、米マイクロソフトが米ゲーム大手アクティビジョン・ブリザードを687億ドル(9.2兆円)で買収することを発表。さらに同月、ゲームソフトメーカーの米Take-Two Interactive は米モバイルゲーム老舗Zynga(ジンガ)の全ての発行済株式を総額127億ドル(約1兆4600億円)で買収することを公表した。これによる売上げランキングの変動が予想され、競争は激しさを増すだろう。今後の動向に目が離せない。
写真:ロイター/アフロ