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2022.06.08 経済金融

エネルギー価格高騰で好調 世界で採掘権を獲得する中国資源大手「五鉱資源」とは

実業之日本フォーラム編集部

 昨年から世界のコモディティー(商品)市場では、資源・エネルギーなど鉱物資源の価格が急騰している。新型コロナワウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起きてからというもの、それを受けた各国の経済活動の制限によって一時的な停産・減産や人手不足が発生し、サプライチェーン(供給網)は混乱を極めていた。新型コロナのワクチン接種が進むにつれて経済は正常化に向かうかと見られていたが、今年2月にロシアによるウクライナ侵攻が勃発。世界経済はさらなる打撃を受け、物流コストが増加し深刻な供給不足に陥った。これが鉱物資源価格を押し上げた要因だ。

非鉄金属大手「五鉱資源」、過去最高益に

 中国のエネルギー産業(原油・天然ガス・石炭など)は、生産能力過剰や市場需要停滞により長期にわたって低迷していたが、記事冒頭で述べた要因により業績が伸び始めている。下図は中国資源大手企業の21年度通年業績だが、このなかで特に業績が好調だったのがコングロマリット企業(複合企業体)の中国国有資源大手「五鉱資源」だ。

企業名売上高売上高前年比純利益純利益前年比
中国石油49兆7000億円1.4倍1兆7553億円3.9倍
中国アルミ5兆1300億円1.5倍952億円5.7倍
中国神華6兆3800億円1.4倍9570億円1.3倍
江西銅業8兆4200億円1.4倍2973億円1.5倍
北方レアアース5800億円1.4倍381億円5.0倍
紫金鉱業4兆2800億円1.3倍2970億円1.4倍
五鉱資源5400億円1.4倍847億円11.3倍

 同社は政府系の非鉄金属企業として、世界各地で主にアルミニウム、銅、掘削などで使われる鋼管である金属ケーシングの探鉱、開発、掘削を行っており、中国国内で使われる多くのアルミナ(酸化アルミニウム)をまかなっている。

海外鉱山の採掘権を次々獲得

 「五鉱資源」はオーストラリアのドゥガルドリバー亜鉛鉱山、コンゴ民主共和国のアンビル鉱山、ペルーのラスバンバス銅山などの採掘権を獲得するなど、海外鉱山の探査・開発を積極的に展開。タングステン、アンチモン、ビスマスなどといった希少金属の資源量は世界首位で、銅、亜鉛、ニッケルの資源量・産出量も世界トップレベルだ。

 買収・合併企業統合業務
2009年17億米ドルでOZミネラルズ(オーストラリア)を買収銅、金、銀を含む鉱石
2010年Minerals and Metals Group(オーストラリア)を買収亜鉛、銅、鉛、金、銀など
2012年13億米ドルでアンビル社(コンゴ民主共和国)の株式90%を取得銅精鋼、銀精鋼の開発
2014年中国国有投資会社2社と共同でラスバンバス銅山プロジェクト(ペルー)を全株取得大型銅鉱山

 同社は2020年度に6470万米ドル(約82億円)の損失を出していたが、昨年度の売上高は前年比40%増の42億5500万米ドル(約5400億円)、純利益は約6億6700万米ドル(約847億円)と、大幅な増収増益により過去最高益を達成している。好調な商品相場や、オーストラリアのドゥガルドリバー亜鉛鉱山やローズベリー鉱山からの採掘量を増やしたことが主な要因だ。

住民の抗議活動により、採掘中止も

 なかでも銅産出量世界9位のペルー・ラスバンバス銅山は、昨年だけで20.47億米ドル(約2617億円)の利益を出しており、これは「五鉱資源」の純利益全体の75%に相当する。

 同社の最大の収益源であるラスバンバス銅山だが、昨年末から地元住民らの環境問題をめぐる抗議活動によって鉱山への道路が封鎖され、採掘が中止となっている。2月に操業再開に向け動き始めたものの、4月には再び中止となり、再開の目処は立っていない。

今年度も大幅に生産拡大予定

 このようななか、同社は2022年度中期経営計画で下期に向けた生産目標を示している。ペルーでラスバンバス鉱山に次ぐ2番目の鉱山カルコバンバでの採掘を開始し、銅精鉱の生産量を約30万ドン~32万トンまで増産。さらに、コンゴ民主共和国のキンセベア鉱山から精製銅を5万トン生産、オーストラリアのドゥガルドリバー亜鉛鉱山とローズベリー鉱山から亜鉛精鉱を22万5千トンから25万5千トン生産する模様だ。生産拡大により、業績のさらなる向上が見込まれる。

続く、伝統的エネルギー需要

 米利上げ加速をめぐる流動性逼迫やウクライナ危機のなか、今年度上半期における各国のエネルギー需要は回復傾向にあった。グリーンエネルギーへの転換が急がれてはいるものの、短期間では依然として伝統的なエネルギーへの需要が高水準で推移すると予想される。

実業之日本フォーラム編集部

実業之日本フォーラムは地政学、安全保障、戦略策定を主たるテーマとして2022年5月に本格オープンしたメディアサイトです。実業之日本社が運営し、編集顧問を船橋洋一、編集長を池田信太朗が務めます。

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