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2022.06.06 経済金融

香港全世帯に配布も 中国が推進する「コロナに効く漢方薬」の中身
副作用にも注意が必要

実業之日本フォーラム編集部

 ウィズ・コロナ下での経済再開が世界で進むなか、中国では新型コロナウイルスの感染封じ込めを徹底する「ゼロコロナ」政策が依然として続いている。

 2019年12月に中国の湖北省武漢ではじめて新型コロナウイルス感染者が確認されてから3年目に入るが、治療法が確立されていなかった当初は、中国の伝統的な医学である「漢方薬(中国名は中薬・中医薬)」が多くの感染者へ処方されていた。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症患者(疑いも含む)に対しては、症状緩和や重症化抑制に効果が認められていたようだ。

 現在も中国国内における漢方薬の需要は高く、3月以降オミクロン株が猛威を振るった港では、コロナウイルス感染症に効果があるとされる数種類の中国製漢方薬(霍香正気散、金花清感顆粒など)が一時入手困難になったほどだった。また、香港政府は4月、全世帯に向けて「新型コロナウイルス対策グッズ」の配布を開始し、そこには「連花清瘟(れんかせいおん)カプセル」をはじめとした漢方薬が含まれている。

中国では「コロナにも漢方薬」

 中国の伝統的医学に基づく漢方薬は自然界の動植物や鉱物から生成されているため、以前から安全性を求める消費者に需要が高く、現在も一般的な病気に広く使用されている。

 なかでも上述した「連花清瘟カプセル」は、中国当局が2020 年2 月に発表した「新型コロナウイルス肺炎診療ガイドライン(第6版)」において新型コロナウイルス感染症の特効薬として推奨されており、国民からの人気が高い。

 連翹(レンギョウ)、麻黄(マオウ)など13種類の原料からなる「連花清瘟カプセル」は、もともと2003年に中国から重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際に開発された医薬品だ。化合物が1769種類含まれており、有効成分378 種類のうち潜在的な治療効果が期待できるタンパク質は282種類。そのなかで新型コロナウイルスに効果が期待できるものは 55種類もあるとされている。

 ただし、実際の効能については患者の体質や用法・用量によって効果が異なり、吐き気や下痢、嘔吐、腹痛、めまいなど副作用も確認されている。特に、胃腸が弱い人は注意が必要だ。

 中国当局が発表した『新型コロナウイルス肺炎診療ガイドライン』(試行第4版~第7版)では「連花清瘟カプセル」の他にも、咳止め効果が期待される「金花清感顆粒」や、下痢や食欲不振をともなう胃腸型の風邪への効果があるとされる「藿香正気散」などの漢方薬が奨励されている。

海外医療機関にも導入の「連花清瘟カプセル」

 「連花清瘟カプセル」を販売する「石家庄以嶺薬業(以下、以嶺薬業)」は、河北省石家庄に本社を置く民営医薬品メーカーだ。主に心血管・脳血管疾患、風邪・呼吸疾患、悪性腫瘍、糖尿病などの治療に使用される特許漢方薬の研発・生産・販売をおこなっており、化学合成薬の開発や、ホルモン剤、抗がん剤などの研究開発も進めている。

 4月に発表された21年通期業績によると、売上高は前年比15.2%増の101.17億元(約1932億円)で、当期純利益は10.3%増の13.44億元(約257億円)となった。売上高の8.28%を占める研究開発費は8.37億元(約160億円)で業界トップレベルの水準だ。

 決算書によると「連花清瘟カプセル」の販売成績は良好で、21年上半期の中国国内での漢方薬売上高1位を獲得。公的医療市場におけるシェアは33.5%から43.5%まで拡大した。世界約20か国・地域で販売するなど海外での事業展開も進めており、タイやカンボジカンボジア、インドネシアでは感染症指定医療機関にも導入され、多くの患者が投与を受けている。

中国政府が目指す「漢方薬のグローバル化」

 中国政府はここ数年の医薬品改革のなかで漢方薬を支援する政策も打ち出しており、3月に発表した「中医薬発展第14次5カ年計画」のなかでは、漢方薬領域の発展目標や新規プロジェクトの実施計画を公表している。このようにして中国漢方薬の伝承革新や産業化・グローバル化を推進し、中国漢方薬の発展を後押しするものと考えられる。

 中国の医薬品市場は年々拡大を続けており、中国国内医薬品産業統計によると2021年の医薬品市場全体の売上高は3兆3707億元(約65兆円)を達成し、増加率は約5年ぶりに最高値となった。そのうち漢方薬市場の売上高は前年比12.3%増の6919億元(約13兆円)で安定的な成長を見せている。

 中国では2018年から、政府が医療費を抑えるために製薬会社に後発薬の価格を入札で競わせる「集中購買政策」を進めている。その対象となった薬の価格は半分以上に下落しているものの、漢方薬メーカーにとっては同制度は販路拡大の機会となっており、医薬品業界における市場シェアは拡大傾向にある。 なかでも注目度の高い以下の企業は業績が回復に向かっているため、長い目で見れば株価パフォーマンスが期待できるだろう。今後の動きにも目が離せない。

製薬企業年初来リターン主力薬品
同仁堂(tongrentang)−5.29%六味地黄丸(ろくみじおうがん),阿膠 (あきょう)
雲南白薬(Yunnanbaiyao)−21.28%止血や鎮痛の関連製品
広州白雲山(Baiyunshan)−8.69%漢方製剤
中国中薬(Zhongyao)−24.56%漢方製剤「顆粒」製品
5月20日終値より作成

実業之日本フォーラム編集部

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