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2022.04.20 経済金融

中国にEV車ブーム大到来、中国EVメーカーが「テスラを超える日も近い」と言えるワケ

実業之日本フォーラム編集部

すでに中国は「電気自動車(EV)」の分野で世界最大の輸出国になっている。中国汽車工業協会によると、2021年の輸出台数は前年比2.6倍の約50万台以上。ドイツは約23万台、米国は約11万台、日本は約2.7万台だった。中国のEV輸出が増加したのは、欧州市場向けの輸出好調によるものだ。

 

ウクライナ危機で値上げ実施も、需要増加に期待感

中国汽車工業協会が2月18日に発表したデータによると、中国での1月新車販売台数は前年同月比0.9%増の253万台だった。そのうち「新エネルギー車(以下、新エネ車)」は前年比135.8%増の43万台で、全体の販売量を牽引している。「新エネ車」とは中国特有の定義で、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHV)・燃料電池車(FCV)の3種類を指し、ハイブリッド車(HV)は含まない。

ロシア・ウクライナ情勢の影響でEV生産に必要なニッケルやリチウムなどの資源価格が高騰したため、現在中国国内の20社以上のEVメーカーが値上げに踏み切っている。また22年末には中国政府の新エネ車への販売補助金支給が打ち切られる予定だ。そんななか、中国政府の育成・支援政策によって急成長を遂げた新エネ車事業を行う企業らは、各自のマーケティング戦略に積極的に取り込みながら事業展開している。今後も実需増加が期待されるEV市場で、勢いを増す4社を紹介しよう。

 

3月の各車種の価格調整(1元=約19.54円)

 

ウォーレン・バフェットが注目「BYD」

BYD(比亜迪)は1995年に中国・深圳で携帯電話向けリチウムイオン電池メーカーとして創業したのち、03年に経営難に陥っていた国営自動車メーカー「西安秦川汽車」を買収して自動車製造を始めた。22年4月には化石燃料自動車の生産を全面的に終了することを公表し、現在は全面的にEV生産にシフトしている。事業は「商用車・電気バス製造」、「車載電池メーカー」、「電気自動車製造・販売」、「電子部品製造」の4つに区分されており、電子部品製造事業では主に車載用チップ- IGBT を取り扱う。

また、半導体事業にも力を入れてきたBYDは21年5月、子会社の半導体メーカー「比亜迪半導体有限公司」が深セン証券取引所の新興企業向け市場「創業板」に上場することを発表した。

BYDが世界で注目されるきっかけとなったのは、2008年に有名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社がBYDに2億3,200万米ドル(約290億円)を出資し、株式の約10%を取得したことだ。この出来事がきっかけとなりBYDは世界から注目を集める自動車メーカーとなった。

 

欧州でも人気のSUVシリーズ

BYDのEVは「秦(チン)」、「宋(ソン)」、「唐(タン)」、「元(ユアン)」など歴代の中国王朝名を付けたものが有名だが、それらのシリーズのSUV(多目的スポーツ車)タイプはEV大国のノルウェーを初めとした欧州諸国へも輸出されている。欧州に1,000台出荷されている「唐」シリーズは、中国国内より高い値段で販売されており、その売上げは好調だ。

今年2月には新型電気自動車のコンパクトSUV「元 Plus(ユアン プラス)」が中国とオーストラリアで発売され、中国では今年の元旦からたった1か月余りで約2万件のオーダーが入るほどの人気ぶりだった。

BYDの新型電気自動車 コンパクトSUV「元 Plus(ユアン プラス)」

 

「テスラ越え」も夢じゃない

米テック系メディアClean Technicaによると、21年の世界のEV販売台数は前年比108%増の650万台。トップは米EV大手テスラで93.62万台、BYDは前年比220%増の59.39万台で2位につけている。中国国内の販売台数は9年連続でBYDがトップを独走中だ。BYDは22年の販売目標を150万台に設定し、さらに販売価格が50万〜100万元(984万〜1968万)以上のハイエンド市場も開拓する予定だ。

出所:CleanTechnica

 

4月3日発表の生産販売速報によると、22年3月のBYDの新エネ車生産台数は前年比416.96%増の10.67万台、販売台数は前年比422.97%増の10.49万台で大幅に増加していることがわかる。また、テスラの22年1~3月期の総出荷台数は31万台だが、これはBYDの累積受注台数40万台を大きく下回っている。今後のテスラとBYDの動向に注目したい。

 

EV市場を席巻する3大新興メーカー「蔚小理」

また、中国では新興EVメーカーが次々と生まれている。その中でも14~15年に創業し20年に成長軌道に乗った企業である「蔚来(ニオ)」、「小鵬(シャオペン)」、「理想(リーオート)」の3社が有名で、まとめて「蔚小理」とも呼ばれている。

写真(上)「理想(リーオート)」、(左下)「小鵬(シャオペン)」、(右下)「蔚来(ニオ)」のEV

 

香港および米国市場に上場を果たしている3社の21年の販売台数はほぼ同水準だった。21年通年業績では3社とも微増収となり、「蔚来」は前年比で赤字幅が縮小、他2社の赤字幅が拡大した。主原料の価格高騰や膨大な研発費用の投入が収益減少につながっている。また、中国新興EVメーカーが自動車製造のみで収益を上げるのは難しい状況だ。

「中国版テスラ」とも称される「蔚来」は、テスラと同様に中高価格帯EVを製造しており、他3社より高額だ。一方、「BYD」や「小鵬」、「理想」などの企業では主に中低価格帯EVを製造している。

 

通年業績比較(1元=約19.54円)

2021年販売台数(1元=約19.54円)

 

写真:AP/アフロ

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