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2022.04.15 経済金融

米制裁下でも急成長!中国通信3大手「中国移動」「中国電信」「中国聯合」の驚くべき実態

実業之日本フォーラム編集部

農村部にも展開「中国5Gスマホ市場」

中国における5Gユーザー数は、2021年末時点でついに3億5,500万人に達した。中国工業情報化部(工信部)の21年通信業統計報告書によると、21年末時点で中国に142.5万か所の5G基地局が開設され、世界の60%以上を占める最大の5Gネットワークが形成されている。

人口1万人当りの5G基地局数は前年末比で2倍の10.1台に達しており、5Gネットワークへの年間投資額は通信業への固定資産投資の45.6%にあたる1,849億人民元(約3兆6,335億円)となっている。さらに、5Gネットワークは全国のすべての地級市(省と県の中間にある行政単位)や県庁所在地の98%以上、郷・鎮市街地の80%以上をカバーするなど、需要のある農村地域にも徐々に展開し始めている。

中国で拡大を続ける3大通信社を詳しく紹介しよう。

 

通信企業で世界最大の時価総額「中国移動(チャイナモバイル)」

「中国移動」は22年2月時点の携帯電話契約者数が9億6,076万人で、時価総額は通信事業企業で世界最大である。

同社は、①移動体通信事業運営、②固定電話業務やブロードバンドサービス、③5G(第5世代移動通信)商用サービス事業、③産業デジタル化事業(DIC、クラウド、ICT、ビッグデータ、NB-IoT)事業の4つのセグメントで事業を展開してきた。

17年の企業再編を通じて形態を全人民所有制企業から国有独資会社とし、社名を「中国移動通信集団有限公司」へ変更した。21年にはニューヨーク証券取引所で上場廃止しているが、今年1月に上海証券取引所に上場し、その資金調達額は最大487億元(約9,580億円)と過去10年間で中国最大のIPO(新規上場株式)となった。調達資金は5Gネットワーク構築やクラウド・インフラ建設、次世代情報技術の研究開発、デジタルインテリジェンスエコシステムの構築に当てるという。

21年11月に開催された中国移動グローバルパートナー大会で、CEOの董昕氏は「5Gネットワーク事業では56万基の基地局が稼働中。これは国内市場のほぼ半分を占め、世界最大規模である」と表明し、22年末までには5G基地局を60万基以上新設し、既存基地局と合わせて110万基とする計画も明らかにした。

21年の決算報告書では、同社の5G事業による関連投資支出が1,140億元(約2兆2,403億元)に達している。5Gユーザー数は3.87億人と3大国有通信大手トップで、2位中国電信の1.96億人、3位の中国聯合通信の1.55億人に大差をつけている(図1参照)。

 

図1:2021年通年業績の比較(1香港ドル=約15.87円)

 

また、同社が提供する「産業デジタル化」事業のクラウドサービス「移動雲」の売上高は、前年比114%増242億元(約4,760億円)。3年連続3ケタ成長を続けるなど年平均成長率も業界内トップだ。今後3年の予想配当性向は70%に引き上げる方針だという。

 

光ファイバーで中国全土の7割カバー「中国電信(チャイナテレコム)」

「中国電信」は、包括的な情報サービスプロバイダーとしてブロードバンドインターネットアクセス、モバイル通信、産業デジタル化事業、情報技術アプリケーション、固定回線電話サービスを含む、統合型情報サービスソリューションを提供している。

世界最大の固定回線通信事業者として、1億4,400万の固定アクセス回線が稼働しており、モバイルユーザー増加数は4年連続業界1位だ。また、中国最大の光ファイバーネットワークを所有・運営し、国内の各都市では全長83,000 km超の回線を設置することにより、中国全土の約7割をカバーしている。

21年には自社ブランドのオリジナル5Gスマホ「天翼1号」を999元(約1万966円)で販売を開始した。外部接続なしに利用できるスタンドアローン(SA)と外部接続が必要なノンスタンドアローン(NSA)の両方に対応したデュアルモード5Gとなっており、端末本体の性能やメモリーに捉われずにゲームや動画が楽しめるクラウド機能が充実している。また、コールセンターによるアフターサービスは日本語、英語、中国語の3か国で対応しており、日本でも10年以上前からサービスを提供している。

中国電信が提供している「産業デジタル化」事業のクラウドサービス「天翼雲」の21年売上高は前年比102%増の279億元(約5,488億円)と倍増しており、「産業デジタル化」事業全体では、前年比17.8%増の989億4,500万元(約1兆9,464億円)と、全サービス収入の24.6%を占めている。22年には、「産業デジタル化」事業分野への設備投資を前年比の62%積み増し、同社全体で2ケタの増収増益を目指す。

また、本決算の年間配当は1株当たり0.17香港ドル(約2.72円)で、配当性向を従来の45%から60%に引き上げた。今後3年の予想配当性向の目安はさらに70%に引き上げる方針だ。

 

世界30カ国で展開「中国聯合(チャイナユニコム)」

「中国聯合」の業務内容は業界2位の「中国電信」とほぼ同じで、全国で包括的なサービスを展開している。比較的安価なプラン料金が強みだ。香港に本社を置き、「China Unicom Group」として世界30以上の国と地域、170以上の都市で国際通信サービスを提供し、海外市場でも展開している。

また、中国聯合通信が提供している「産業デジタル化」事業のクラウドサービス「聯通雲」の21年売上高は46.3%増の163億元(約3,206億円)で、「産業デジタル化」事業全体では、前年比28.2%増の548億元(約1兆769億円)と、全サービス収入の18.5%を占めている。

 

「安保懸念」で米制裁対象となった3社だが

米連邦通信委員会(FCC)は2022年2月3日までの間に、国家安全保障上の懸念を理由に、国有通信大手3社の中国移動(チャイナモバイル)、中国電信(チャイナテレコム)、中国聯通(チャイナユニコム)の米国での事業免許を取り消す方針を決め、22年3月25日には、安全保障上の脅威となる通信機器やサービスのリストに中国移動と中国電信を追加した。ただし、米国制裁による影響はあるものの、3社とも当面は中国国内での安定的な成長が業績を下支えするだろう。

 

写真:AP/アフロ

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