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2022.04.07 経済金融

日本EC市場とはここが違う!中国の「急拡大中ネットショップ」を徹底解析

実業之日本フォーラム編集部

成長続く「中国ネットショップ市場」

1月27日に国家統計局が発表した統計データによると、中国における2021年のオンライン小売額は前年同期比14.1%増の13.1兆元で、伸び率は前年より3.2%拡大した。そのうち、実物商品オンライン小売額は前年同期比12.0%増の10.8兆元となり、初めて10兆元の大台を突破した。消費財の販売額を示す社会消費品小売総額(2021年は44兆823億元)は24.5%を占めており、中国のオンライン小売市場は依然として堅調であることが示された。

中国インターネット・ネットワーク情報センターが発表した「第48回中国インターネット発展状況統計報告」によると、2021年12月時点で中国オンラインショッピングの利用者は8.42億人に達し、オンラインショッピングの利用率は81.60%、年間新規ネットユーザーは5,968万人の増加となっている(図1参照)。

 

図1:2018.6-2021.12 ネット通販の利用者数・利用率(単位:万人)

出所:中商情報網(ASKCI)

 

中国でのECプラットフォーム市場は「淘宝網(タオバオワン)」、「京東(ジンドン)」、「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」の3大IT企業を中心に競争が激化している。この3社を詳しく見てみよう。

 

国内トップシェア、アリババ系「淘宝網(タオバオワン)」

電子商取引サイト「淘宝網」はCtoCのショッピングサイトとして、2003年からアリババグループによって運営が開始された。2021年時点で年間アクティブユーザー(AC)数は9.25億人に達しており、同年の年間取引額は8119兆元、1ユーザーあたりのトランザクション(取引額)は9,200元となっている。

「天猫(テンマオ)(旧 淘宝商城)」は2011年に「淘宝網」のスピンオフ事業として開始された国内ECサイトで、2021年末時点で63.5%以上の国内トップシェアを占めている。天猫は統合型B2Cプラットフォームとして直営事業のネットスーパー「網上超市」を展開し、そのほかブランドメーカーや代理商、中小テナントなどに出店参入、オンライン決済や物流、データ分析などのサポートによるサービス費や広告収入、売上手数料収入を収益源としている。

2014年には中国国内以外との取引を目的として越境ECである「天猫国際」を開設し、海外の商品を専門に取り扱うモールとして事業を展開している。ここでは海外での実店舗運営型の企業を対象とする小売業販売許可を取得しなくても中国国内でビジネス展開することが可能であるため、多くの日本企業が中国国内へのEC参入目的で利用している。

2021年時点で世界の87か国や地域において約29,000以上の海外ブランド商品を取り揃えており、計5,800以上のカテゴリーをカバーしている。同年10月時点で「天猫国際」において新規出店したブランド数は前年比120%超の伸び率となった。

 

シェア第2位は、テンセントが大株主「京東(ジンドン)」

京東(ジンドン)は天猫に次いで、市場シェア第2位の統合型直営 B2C 通販企業である。中国テクノロジー大手テンセント・ホールディングスは二大株主として17.5%の株式を保有している。

京東はFBAサービス(通販に必要な商品の保管や発送などの代行サービス)を導入しており、統合型サプライチェーンサービスの強化に応じ、コスト削減を目指している。

また、2009年初頭から全国的な物流体制の構築を開始し、287都市の市内配達所を3,000か所(2021年時点)に増やした。翌年には「211限時達」(午前11時までに注文した商品は、その日に配送できることを保証している)配送サービスを始め、スピーディーな配達を実現している。さらに、365日24時間サポートサービスと「アフターサービス100点」体制(返品処理を受けた時点から100分以内に解決策を提案する体制)を完備している。

 

「農村地域」で新規ユーザーを獲得

京東の2021年通期業績によると、21年時点の年間アクティブユーザー数は5.7億人で、年間で1億人増加している。

増加した1億人のうち、洛陽などの経済規模が比較的大きい地方である三線都市やそれ以下の都市、農村地域で獲得した新規のユーザー数が70%を占めている。また、同年の農村地域におけるオンライン購入件数は2019年の5.3倍に増加し、年間平均成長率は131%に達した。

同社は主に中高級市場に注力しており、大型電化製品や家具などの製品売上が収益に大きく寄与している。2017年からは企業構造改善やビジネスモデル転換に資本投入を拡大しており、事業業態全般をデジタルテクノロジー化するため4年間で合計約800億元を投入した。そのほか、商品調達やインフラ建設、技術研発、物流構築、従業員報酬と福利厚生、マーチャント支援などの業容改善による総支出額は約2兆元を超えている。

2021年通期業績では年間取引額は9516兆元に達しているものの、アフターサービスと品質保証においてのコスト支出が引き続き重しとなり、株主に帰属する当期純利益は-36億元(前年同期は+497億元)となった。全体の業績水準はアリババ社より低い。

 

農産物と消費者をマッチングする「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」

拼多多(ピンドゥオドゥオ)は、低価格販売が強みのB2C 通販企業だ。同社はデジタル技術を活用した農業施策を通じて、消費者ニーズと農産物のマッチングプラットフォーム構築での事業展開を目指している。

主な収益源は「直営事業の収入」、「多多買菜アプリによるコミッション収入」、「広告料収入」の3つで、「共同購入」体制によって安価な商品を促すことにより、ユーザーのアクティブ率やスティッキネス(粘着性)を引き上げ、結果的に広告収入を押し上げている。

「共同購入」とは、モール内で共同購入者を募集している掲示板から欲しい物の募集に参加したり、WeChatや微博などのSNSを通じて知り合いやフォロワーから協力者を募ったりして、達成すると商品を低価格で購入することができる仕組みだ。また、毎月開催される特別キャンベルイベントも広告費収益増に貢献している。総売上高に占める2021年の広告収入は77.28%の725.63億元で、2020年の80.61%よりやや減少した。

2021年の年間取引額は前年比で46%増の2.44兆元、同年の年間アクティブユーザー(AC)数は前年比10%増の8.687億人に達している。1ユーザーあたりのトランザクションは2,810元で、アリババ社の3分の1に相当する。テンセントが同社の15.6%の株式を保有しているため、モール内の支払い方法は「WechatPay」に限られており、「AliPay」の利用はできない。

 

図2:2021年の通期業績比較

※「独身の日」とは、中国で毎年11月11日に祝われる独身者の日
※アリババ通年業績は5月中旬に発表予定

 

急速なデジタル化で、「ライブコマース」事業も加速

中国企業は、消費のアップグレード、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、人工知能、ブロックチェーンなどのデジタル技術の急発展に伴って、2016年頃から大手EC企業を筆頭に新たな事業戦略として「ライブコマース」へシフトし始めた。

ライブコマースとはライブ配信とeコマースを結びつけた造語で、配信者がライブ動画を通じて商品を紹介しながら直接販売する仕組みだ。

「第48回中国インターネット発展状況統計報告」によると、2021年のショートビデオユーザーの利用者数は9.34億人で、インターネット利用者全体の90.5%を占めている。ライブコマースの利用者数は前年比8652万増の7.03億人、全体のインターネット利用者の68.2%となっている(図3参照)。

 

図3:2018年6月~2021年12月 ライブコマースの利用者数・利用率(単位:万人)

出所:CNNIC「第48回中国インターネット発展状況統計報告」

 

コロナ禍においてライブコマース市場がさらに大きくなるにつれて、消費者の買物スタイルも多様化・多面化してきている。また、消費者はECネット通販に限らず「抖音(TikTok)」、「快手(Kuaishou)」や「小紅書(Red)」などのショート動画コンテンツ系のプラットフォーム領域にも続々と参入しており、それが企業の新たな成長の原動力にもなっている。

 

インスタとAmazonの合体?「小紅書(シャオフォンシュウ)」とは

アリババ総研の試算によると、2021年のライブコマースによる取引総額(GMV)は約2兆元と急速に成長し、前年比で伸び率は90%になる見込みだ(図4参照)。

 

図4:ライブコマースによる取引総額(GMV)

 

中国の三大ライブコマース・プラットフォーム「淘宝(タオバオ)」、中国版TikTok「抖音(ドウイン)」、「快手(クアイショウ)」は、中国における消費者購買決定に影響力を持つインフルエンサーである「KOL(Key Opinion Leader)」を使い、商品・サービスなどの情報を紹介・販売している。

「小紅書(シャオフォンシュウ)」は他のEコマースプラットフォームとは異なり、SNSアプリ&口コミサイトとしての機能とEC機能を同時に持つアプリを提供しているユニコーン企業だ。

インスタグラムのように、ユーザーが自分の趣味に基づいてお気に入りのコミュニティやアカウントをフォローし自分で記事や画像、映像を投稿することができ、お気に入りの商品をそのままアプリ内で購入・決済することもできる。2021年までのユーザー数は3億人に達し、月間アクティブユーザー数は1.4億人にのぼる。ユーザーは1990年代と1995年代生まれの層が最も多い。

「Eコマース」と「ライブコマース」の普及に伴い、EC市場はまだまだ拡大するだろう。中国商務部によると、2021年12月時点で中国が持つ海外倉庫は2,000ヶ所以上で、その総面積は1,600万平方メートルを超える。海外倉庫の世界展開も徐々に拡大しているということだ。また、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどの新興国市場も積極的に開拓しており、現地の電子決済手段やインフラの急速な発展がオンライン小売業の成長をさらに後押ししている状況だ。

 

農村地域発展にも貢献するEC

中国でのECの普及は、農村を含めた後進地域の生産力を飛躍的に向上させ、住民のライフスタイルをも変化させ、中国地域経済を促進させている。

中国政府は「ライブコマースが就業促進や内需拡大などの面で、中国経済に積極的な効果を与えている」と評価している一方で、「ライブコマースの商品品質と規定管理規範」に従うよう義務付けた。中国EC市場が拡大する中で、政府による政策指導や管理強化、法整備、経営体制強化も順次進められていくだろう。

 

写真:Alamy/アフロ

実業之日本フォーラム編集部

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