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2022.03.24 経済金融

中国「独禁法」規制強化へ、ハイテク企業業績の足かせに

実業之日本フォーラム編集部

「独占禁止法」めぐり巨頭IT企業への影響

2021年下半期に施行された「独占禁止法」による規制強化の影響を受け、香港市場のハイテク株指数が下げ止まらない中、多くのハイテク企業の株価の下落率は一時-70%を超えた。2022年に入り、ハイテクセクターは底入れから反転の兆しが見られていたが、ウクライナ危機の影響や米証券取引委員会(SEC)による会計監査問題を巡り、中国企業が上場廃止の可能性があるとして、ハンセン指数は7年ぶり安値水準(18235.48ポイント)まで暴落した。

16日に開催された中国国務院(政府)の金融安定発展委員会の会合で劉鶴・副首相の「市場に有利な政策を積極的に打ち出す」などの発言が市場を支え、ハイテク株が22%(+770.97ポイント)急騰した(図1参照)。

また、今月は中国企業の通期決算発表がピークを迎え、大手ハイテク企業の業績に注目が集まりそうだ。

 

図1. ハンセンテック指数(HSTECH)チャート

※3月16日の終値より作成

 

中国「BAT」とは?大手IT3社の概要と21年Q4決算比較

中国のハイテク業界では、影響力を持つハイテク企業を「BAT」と略称している。「BAT」とは、(1)百度(Baidu)、(2)アリババ(Alibaba)、(3)テンセント(Tencent)、この3大IT企業の頭文字を取った言葉であり、IT企業の「三巨頭」とも呼ばれている。

 

(1)百度(バイドゥ)

百度は中国国内の最大の検索エンジンを提供する持株会社である。中国ではGoogleは利用できず、百度の検索エンジンは「中国のGoogle」として、中国において70%を超える市場シェアを占めるまでに成長している。2021年末には、百度アプリ「手机百度」において、1日あたりのアクティブユーザー数(DAU)はユーザー全体の77%で、月間ユーザー数(MAU)は6.22億人を突破した。

百度はグループ企業とし「百度APP」、「AI Clound」、AI自動車開発「Apollo」、VOD配信サービス「愛奇藝」など多岐にわたり事業を展開している。同社は、2021年の年次書簡「株主への手紙」の中で李彦宏CEOは、自動運転事業への研発支出は10年間で約1,000億人民元に上ると言及した。

3月1日に発表された2021年通期決算では、売上高は前年同期比16%増の1,245億元で、うち主力事業の売上高は同21%増の952億人民元であった。非広告売上高は前年同期比71%増となり、なかでも特にAIクラウド事業の伸びが顕著だった。

主力事業にかかる研究開発費は前年比21.4%増の221億元に上り、主力事業の売上高の23%を占めた。

 

(2)阿里巴巴(アリババ)

アリババとは、「ECサイト」を展開するIT企業で、電子商取引サイト「淘宝網(Taobao.com)」をCtoC型ショッピングサイトとして運営している。長年の急発展に伴い、電子マネーサービス「支付宝(Alipay)」、BtoC越境ECの「天猫(tmall)、天猫国際」、ソフトウェア開発会社「阿里軟件(Alisoft/AliClound)、物流会社「菜鳥網絡(Cainiao )」、メディア・エンター系「AliPicture」などの会社を設立または買収し、企業のビジネスモデル作りとしてエコシステム(生態圏)を確立した。それ以外にも幅広い分野に投資を拡大している。

「淘宝網(タオバオ)」はCtoCとしてECサイトを展開しており、年間アクティブユーザー(AC)数は9.25億人に達している。「天猫」はもともと「淘宝網」からのスピンオフ事業として開始された国内ECサイトである。2021年末時点では既に63.5%以上のシェアでトップ1位になっている。2014年に開設された「天猫国際」は海外の商品を専門に取り扱うモールとして、実店舗運営型向けの小売業許可などを取得せずに中国国内で販売可能の海外版ECサイトである。多くの日本企業が中国国内への越境ECのために活用しているECサイトである。(次の記事で詳細紹介)

中国では、オンラインショッピングの発展につれて、オンライン決済サービスもECビジネスに不可欠な決済手段として日常生活に浸透している。Alipay(アリペイ)は2004年末に「淘宝網」サイトでオンライン決済方法としてサービス提供を開始している。アリペイはQRコードを読み取るだけで決算ができ、日々の買物や公共料金、保険料の支払いのほか、投資や資産運用の金融商品などもQRコードで対応することができる。また、残高運用で利息や投資収益を得られることが、ユーザーのアクティブ率やスティッキネス(粘着性)を引き上げることに繋がった。

同年の12月に、アリペイはアリババグループから独立し、2014年に金融子会社「Ant Financial」として正式に設立された。主な経営業務は貸出、資産運用、保険、信用評価 など多様なサービスを提供する複合的な金融機関に進化し、貸出ビジネス事業が同社最大の収益シェアを占める事業となる。2021年時点でアリペイの年間アクティブユーザー(AC)数は約8億人、年間決済取引額は118兆人民元と大幅に増伸している。

2021年11月にAnt Financialは香港と中国本土「科創板」での同時IPOを行う計画で、時価総額2000億ドル以上を目指すところであった。だが、IPO前日に、経営権33%保有している馬雲氏による金融当局を批判する発言で両市場でのIPOが延期になった。そのほか、親会社のアリババも「独占禁止法違反」により182億人民元の罰金が科せられた。国内のIT業界で最も巨額な罰金を支払わされた。これ以降、中国ハイテク企業への統制強化や政治指導が強く打ち出されることとなった。

 

(3)テンセント

テンセントは、1998年起業時に手掛けたサービスのインスタントメッセンジャー「QQ」を軸に急速に成長している投資持株会社である。その後、スマートフォンの普及とともに、PCベースであったQQをアプリ化して「WeChat」が登場した。同社の特徴は、コミュニケーションツールとしてWeChatpayの決済機能も搭載されている。月間のユーザー数は11.6億人(国内版と国際版を合わせた数字)を超え、中国で最も使われるコミュニケーションツールとなっている。

同社は、「WeChat」アプリサービス以外、モバイルゲームの開発も事業の成長エンジンとして企業収益に大きく寄与している。2021年第3四半期決算書では、ゲーム事業の売上高は前年同期比1%増の296億元、全体の収益の32%に寄与している。国内市場では未成年者のゲーム利用時間に関する規制強化の影響で低い伸び率になった一方、海外市場の売上高は前年同期比34%増の132億元で、海外収入はゲームの総売上高の約30.8%に貢献している。中国政府のゲーム規制のさらなる強化が進むなか、テンセントの将来の業績に与える影響に注目したい。

 

図2. 2021年第4四半期決算の比較

※時価総額は3月23日の終値で計算

 

上記の図表によると、3社とも横並びで増収減益になったが、バイドゥの時価総額は他の2社に及ばない状況が継続している。同社の「バイドゥクラウド」事業の売上高は前年同期比60%増の52億元、通年の総売上高は同64%増の151億元と大幅に増加したものの、「アリババクラウド」の第4四半期決算(264.31億元)と比較すれば、わずか5分の1に相当する収益であった。

 

「共同富裕」を遂行する中国、規制強化の狙いとは

今後のハイテク企業の発展は、引き続き「独占禁止法」による影響が大きくなることが見込まれる。昨年、政府が発表した声明「規制・統制強化の5か年計画」により、今後5年間は、産業・企業への規制強化を深く継続して進めていく考えを示した。

コロナ禍の厳しい経営環境のもとで独占行為への規制強化を施策することは、国内での高い成長で様々な問題を一気呵成に解決したいという背景もあるではないか。2015年に「互聯網+(インターネットプラス)行動計画」が発布されて以来、「インターネットプラス」の推進をあらゆる産業と連携してきた。ここ数年間、これらの「BAT」を含む多くの大手企業は、イノベーション創出を目標とし、「エコシステム」という新たな業態を形成し、中小規模企業への資本投入や拡充、企業間での業務提携・合併により急激な発展を遂げてきている。その反面、基盤となる大きなボリュームを占める小規模事業者または小売業界においては不況に陥るなど、直接大きな影響が及んでいる。当面、政府は資本バブルを防止する一方、「独占禁止法」が施行されることにより、企業の急ピッチ発展の過熱を調整し、企業間で安定かつ秩序ある発展に導くことに繋がるかもしれない。

政府による掌握・統制との間でバランスを取ろうとすれば、中長期的には、企業間の経済活動を安定的に成長させ、高いシナジー効果を発揮することになるだろう。これも「共同富裕」という理念の遂行と見ることもできよう。

写真:Top Photo/アフロ

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