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2021.12.03 対談

日本のクリエイター業界で、高品質商品が「あまりにも安く」設定されてしまう本当の理由-根底にあるのは「自信のなさ」?
喜田一成氏との対談:地経学時代の日本の針路(4-1)

喜田一成

ゲスト

喜田一成

株式会社スケブ 代表取締役社長
外神田商事株式会社 代表取締役
株式会社シーズメン CMO(Chief Metaverse Officer)

1990年福岡県生まれ。筑波大学情報学郡情報科学類出身。ハンドルネーム「なるがみ」としてサブカルチャー業界で広く知られており、VRSNSの総滞在時間は4,500時間以上。2013年に株式会社ドワンゴに入社後、3Dモデル投稿サービス「ニコニ立体」を企画・開発。その後合同会社DMM.com、パーソルキャリア株式会社を経て独立。2018年に国内のクリエイターに対して世界中のファンが作品をリクエストすることができるコミッションサービス「Skeb」を個人で開発。2021年2月に「Skeb」を運営する株式会社スケブの全株式を10億円で譲渡。「Skeb」は2021年11月時点で総登録者数160万人を超える世界最大級のコミッションサービスとなる。2021年12月にシーズメンのメタバース事業を統括するCMO(Chief Metaverse
Officer)に就任。

 

聞き手

白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

 

Meta(旧Facebook)がメタバースに「年1兆円の投資」

白井:2021年10月に、Facebookがメタバースへの事業シフトとともに、「メタ・プラットフォームズ」への社名変更と年間1兆円の投資を表明し、世間の耳目を集めました。

デジタル空間において、いま足元で何が起こっているのか、それは今後の未来を示唆しているのか。また、経済のあり方や労働、ひいては国益にどのような影響があるのか。これらをしっかりと検証する必要があると考えています。

メタバースとは、メタ(超)とユニバース(宇宙)をかけ合わせた造語であり、3Dの仮想空間です。

さまざまな解釈が存在しますが、私が理解しているメタバースの定義とは、

①現実世界と仮想空間をリアルタイムにつなげるライブ性があり、

②無制限の参加者を受け入れ、

③異なるプラットフォームやワールド(空間)でデータやアイテムを連携(相互運用性)させることができ、

④プラットフォーム内や周辺サービスでデジタルアイテムの買い物をすることが可能であり、

⑤個人や企業に多様な体験を提供している、

となります。

現在、メタバースと呼べるもので最大のものは、VRChatという3D上のSNSであり、アバターに扮して、さまざまなワールド(空間)を体験したり、他の参加者と会話することができます。

VR(Virtual Reality)は、日本語では仮想現実と訳され、コンピューターで作り出された環境を、あたかも現実であるかのように知覚させる技術です。ヘッドマウントディスプレーを被ることで、高い没入感を得ることができ、SNSやゲームだけでなく、作業現場や教育など色々な分野に使われています。

2021年11月のモルガン・スタンレーのレポートによると、時期の言及はないですが、メタバースの獲得可能な市場規模は8兆ドル(910兆円)と想定しており、また、アメリカの市場調査会社であるEmergen Researchによると、メタバースの市場規模は2028年には8,989.5億ドルに達し、それまでの年平均成長率は43.3%と予想しています。

今回は、クリエイターエコノミーやメタバース空間での第一人者であるSkeb(以下、スケブ)の社長「なるがみ」(インターネット上のハンドルネーム)さんこと、喜田一成さんをお招きしております。

実は、間もなく創業125年を迎える老舗出版社の実業之日本社が、2021年2月、スケブのすべての発行済株式を、スケブの経営者兼オーナーであった喜田さんから取得し、連結子会社化いたしましたが、喜田さんにはスケブの社長を引き続きお願いしております。

世界で人気が加速「VRChat」とは

喜田:実業之日本社が、スケブのクリエイターエコノミーへの支援に対して強く共感してくださったことから、スケブの株式取得に踏み切っていただいたと理解しています。

私のスケブの売却理由としては、従業員の雇用や、スケブの経済圏で生活されている方への責任を果たすためには、大きな企業の傘下に入ったほうが良いと判断したからです。また、メタバース領域への投資資金確保という側面もあります。私は2年で4,500時間以上VRChatに滞在しており、さまざまな問題や可能性を理解することができました。

VRChatとは、バーチャル空間上でほかのプレイヤーとコミュニケーションを楽しめるサービスで、2021年現在、世界で最も接続者の多いVR仮想空間として人気を集めています。運営しているのはアメリカ企業のVRChat社です。

白井:私の場合は、スケブ株式取得を機に喜田:さんとお会いする機会が多くなり、VRの可能性をお聞きしたり、喜田さんの自宅でVRChatをプレイさせていただいたりして、最近メタバースへの興味が湧いてきいたというのが実情です。そこにFacebookのニュースが飛び込んできたわけですが、私としては、インターネットのような巨大な地殻変動であり、未来を全く変えてしまうモノであると感じています。

このような大きな流れのなかで、労働に対する変化も感じることができます。一つは、井上智洋先生との対談でも話題に上ったテクノロジーの進化による失業(技術的失業)であり、もう一つがクリエイターエコノミーです。

インターネットが登場するまでは、一定数出荷しないと多様なコストを吸収できないため、均一な製品を大量生産し、マス広告を投入して販売してきました。しかし、インターネットの登場で、情報の流通コストがほとんどゼロになりました。

商材がデジタルデータであれば、カスタマイズも容易です。また、中央集権型の1対nのコミュニケーションから、分散型のn対nというコミュニケーションの時代となったため、小さなコミュニティに対してでもビジネスが可能となったように思います。これは「ロングテールによる就業」とも言えるでしょう。スケブ事業もその好例だと思っています。

世の中は「コト消費」から「ヒト消費」へ

喜田:スケブは、国内外から日本のクリエイターに対してイラストや音声データを有償でリクエストできる「投げ銭付きお題募集サイト」です。2018年12月に公開し、2021年11月末時点でユーザー総登録者数160万人超、クリエイター登録者数約8万人超、月間取引高約3.5億円の規模に成長しました。

これまでクリエイターエコノミーは、モノ消費とコト消費が支えてきました。「機能的に便利だから、アイフォンを買う」というのがモノ消費で、「オーガニック料理を食べる、スキューバダイビングをする」といった体験の消費がコト消費です。いまは第3の消費方法であるヒト消費が拡大しており、これがクリエイターエコノミーの中核となっています。スケブもその一つと考えて良いでしょう。

ヒト消費は別に新しいものではありません。教祖に依存するという新興宗教やアイドルもその一つです。偶像崇拝全般がヒト消費で、それが大衆化したものがクリエイターエコノミーです。

例えば、YouTubeの投げ銭機能であるSuper Chatですが、この投げ銭機能を使って、大好きなYouTuberを気軽に応援することができます。2020年のYouTube年間Super Chatランキングの世界1位は、日本のバーチャルYouTuberの桐生ココさんでした。先日、引退されたのですが、2020年の投げ銭総額は1億5,000万円超でした。世界ランキングは10位まで公開されているのですが、その多くは日本のバーチャルYouTuberや日本のインフルエンサーです。

デジタル化が進むと、ひとりで製品やサービス、コンテンツを作れるようになる一方、生産者の顔も見えやすくなります。パソコンの性能がよくなり、すばらしいツールで簡単にリッチなコンテンツを作れるような人を応援したくなるのです。

白井:ソフトウェアの能力が高くなり、容易にデジタル上の商品を作れるようになりました。便利なツールがいっぱい登場してきたからこそ、カスタマーとカスタマー、消費者同士がつながって商売ができるようになってきたのでしょうね。

喜田:ゲームがうまくなりたい人のためのコーチングビジネスも流行っています。先日、私も20歳の男の子にレッスン料として10万円を支払い、自分がゲームしているところの録画を見てもらい、指導してもらいました。プールの先生、ジムの先生のような感じです。

クリエイターの「自身のなさ」が値下がりの原因に

白井:品質が高くなれば価格が上がるのが世の常ですが、デジタル空間の財やサービスには、当てはまらない場合もあるように思います。

喜田:そうですね。特に若年層が多いクリエイター業界は、財やサービスの価格が低く放置されています。この価格の下押し圧力の原因は、「クリエイターの自信のなさ」であり、クリエイター自身に「自分の商品なんて」と考えがちな傾向があります。

例えば、高度な技術とセンスを持った人が、「自分の作品なんて大したことないから」と思い、すごく価値ある作品を3,000円で売れば、他のクリエイターが追随せざるを得ず、結果的には価格崩壊を引き起こすのです。

特にデジタルデータの場合は、いくらでも複製できますので、製作者は販売価格がゼロ円でも原価割れにはなりません。

他方、同じ品質や性能であれば購入者は安いものを選びます。これらの構造が価格の下押し圧力を生み、エンドユーザーの手には安価で高品質な商品が届くという市場が形成されているのが、現在の状態であり、ほとんどの人が食べていけない状況、焼け野原になっています。

白井:クリエイターの「自信のなさ」に起因する価格の下げ競争ですね。デジタルデータであれば、コピーもされやすく、価格を引き下げる力が働きやすいのでしょうね。

一方で、先ほどゲームのコーチング代金として1レッスン10万円とお聞きしました。この価格差は何によるものでしょうか。

喜田:これはゲームの持つ性質によるところが大きいです。ゲームの世界にはプレイヤーランキングがあり、ダイヤ、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズのようにランクが分かれています。ランクマッチのようなもので、強い人は強い人と当たる。プロリーグ、アマチュアリーグなどが構造化されており、自分がいまどの位置なのか、どのヒエラルキーにいるのかが客観的に分かります。自分が一番上のランクだと「自分はどうもゲームがうまいらしい。みんなが褒めてくれる」といった成功体験をすることができます。

しかし、クリエイティブの世界では、それがわかりづらい。クリエイティブの世界は、ゲーム業界のようにはヒエラルキーが可視化されないため、プライシングが機能しにくいのです。

クリエイターは、「成功体験」を得ることが大事

スケブによるクリエイターへの還元の最たるものは、売上ではなく成功体験だと思っています。スケブは30秒ぐらいで募集開始できますし、営業活動をしなくても、勝手にリクエストが届くような仕組みを目指しています。

みんなやっているから、とりあえず始めてみると、意外にもリクエストがきた。納品したら、めちゃくちゃ褒められた。「ああ、自分の絵ってお金になるんだ」、という体験に最も価値があるのです。

成功体験があれば、次のステップに進むことができます。「幾らのイラストを描くことができるのか」と、自身の価値を金額で認識するようになります。それは自分が価格を決めて、勝手に値下げしていく値段ではなく、客観的に市場でつけられた数値です。5万円も出してくれる人がいることを実感し、ある日突然、30万円もらえたという体験でさらに自信がつく。「自分はこれで食っていけるかもしれない」という成功体験が一番大事です。

白井:美術の世界にも権威付けを行う仕組みがあり、ヒエラルキーが作られています。まだ生まれてまもないイラストの市場や、生まれたてのVRのアイテムの市場でも、今後マーケットが大きくなるとともに、権威付けする仕組みが普及すれば、マーケットが正常に機能していくようになるのでしょうか。

喜田:将来的には、そのようになっていくとは思いますが、いまからそのような未来を展望して、あらゆる市場参加者が努力する必要があると思います。現状では、クリエイター自身に価格設定を任せると、無闇に価格を下げてしまいかねません。スケブの場合は、機械学習によってシステムが決定したやや高めの金額が標準設定となっている他、クライアントによってクリエイターが設定した金額以上に支払う仕組みが存在しています。

リクエストが来ない期間が続くと価格は徐々に下がっていきます。これはクリエイターが価格を一気に下げることを防ぐためです。また、価格表の掲載を禁じています。こうした設計から、スケブ側が一方的に決めた金額がほぼ流通しているような状態です。スケブが、クリエイター市場の価格決定メカニズムを適正に誘導していると言えるのです。

「クリエイターエコノミー」には2種類のマーケットがある

白井:クリエイターエコノミーが、さまざまな分野で生まれています。マーケットとして成立するのは、どれぐらいの規模と考えれば良いでしょうか。

喜田:ウェブやクリエイターエコノミーのビジネスタイプは2つです。少人数高単価の厚利少売ビジネスか、大人数低価格の薄利多売ビジネスかのどちらかです。スケブのように厚利少売ビジネスだと、ファンが300人いれば成立します。その中の1人が30万円を出せば成立するというマーケットです。

スケブの場合、「石油王」の存在も大きいです。実際の石油王ではありませんが、ポンといきなり現れて、ポンと30万円を支払って、ポンと消えていくという謎のお金持ち。少額しか支払わない人が1万人いるよりも、石油王がたった1人いてくれるだけで成立するのがクリエイターエコノミーです。また厚利少売ビジネスの方が、一般的に取引のトラブルの発生率が少ない傾向にあります。

一方、大人数低価格のビジネスであれば、潜在的な顧客、ファンが1万人いれば成立するでしょう。これはだいたい、サブスクリプションサービスに加入します。YouTubeの有料チャンネル、あるいは海外ではPatreon、国内だとPixiv FANBOXやFantiaと呼ばれるサービスです。ファンクラブのようなもので、月額500円程度のものが多いです。課金することで毎月限定コンテンツを使用できるというクリエイターエコノミーです。

白井:少人数で成立するクリエイターエコノミーは、ロングテールの世界ならではですね。英語圏、中華圏ではもっと大きいでしょうし、もっとマニアックなものでも成立しやすいのではないでしょうか。

喜田:世界的には日本は第3位ぐらいでしょう。第1位がアメリカ、第2位が中国です。日本のクリエイターが中国のビリビリ (bilibili・中国語では哔哩哔哩)(※1)動画で活動しているようなケースも散見されます。日本で流行りにくい理由は、人口が少ないこともありますが、資金移動に非常に強力な法規制がかけられているからでしょう。

ただ、日本のクリエイターエコノミーは、将来的には、ビッグ・テック(Alphabet、Apple、Meta、Amazon、Microsoft)が構築するプラットフォームに吸収されたり、イーロン・マスクのNeuralinkが提唱する、脳に電極を直接埋め込むBMI(Brain Machine Interface)技術のようなものに取って代わられたりすることになると思います。国産プラットフォームが世界を席巻することはないと思います。

実際に、グーグルは、2021年8月、日本の送金アプリ「pring(プリン)」という個人間送金サービスを買収しました。巨大な資本力と高度な技術力を持ち、すでに海外で圧倒的なシェアを持っているグーグルのような企業のほうが、日本の企業よりも上手くいく可能性が高いでしょう。国内ベンチャーあるいは国内の動きの遅い大企業がクリエイターエコノミーに参入した頃には、すでに海外の企業が日本に上陸して、乗っ取ってしまっているのではないでしょうか。

一方、300人という議論はウェブサービスにも当てはまります。300人しかマーケットがない、ビッグ・テックが注目するには小さ過ぎる市場を、日本のベンチャー企業が細々と取っていくという未来は起こり得るでしょう。

白井:藤野英人さんとの対談での議論と似た未来予想ですね。

「質」「量」ではなく、「速度」で評価される

喜田:私はポリゴンテーラーというVRのSNS上の服を販売するプラットフォームの開発を進めていますが、この事業にも、スケブの未来にも、私が圧倒的な自信を持っているのは、おそらくビッグ・テックが参入してこないからです。

白井:しかし、数十年後の世界では、「国民1人1アバター時代」が実現しているかもしれません。

喜田:そのときは私がビッグ・テックの傘下に入っている、バイアウトして資本的には外国企業の傘下になっているということですね(笑)。

白井:日本が、クリエイターエコノミーを戦略的に進めていくには、世界のマーケットを見据えて、どのようなコンテンツが求められているかというのも重要な論点です。また、クリエイターもその点を念頭に置いて活動する必要があるでしょう。

世界における日本のクリエイターの強みは、クオリティの高さとクリエイター人口の厚みにあると思います。

一方、韓国のデジタルコミックのウェブトゥーンは、日本の漫画のような精緻さはなく、非常に粗っぽい仕上がりで、ストーリーも単純ではありますが、スマートフォンで読めるため現代のライフスタイルにマッチしており、世界的に大流行しています。日本の漫画も、マーケットや技術の変化に敏感に対応していかなければ、技術力があっても駆逐されかねないと思います。

日本には高いクオリティのクリエイターが大勢いるけれど、それを活かせる戦略的思考を持った人が育っていないのかもしれません。どうしたら、日本は勝てるのでしょうか。

喜田:いままでの評価軸は「質」か「量」かでしたが、いまは「質」でも「量」でもなく、「速度」です。一つのコンテンツの消費活動にかける時間は年々減っています。「小説家になろう」というサイトが流行っているのは、毎日、通勤時間に、通学時間に、パッと見ることができるからです。3,000文字ぐらいのものが毎日、365日欠かさず更新され、YouTubeの短尺の動画が毎日流されています。毎日投稿されているチャンネルほど伸びるのです。

高品質なものが2年の歳月をかけて完成されるのではなく、雑でもいい、量も少なくていいから、とにかく速度が重要です。毎日コンスタントに更新されることが必要なのです。

むしろ量は少ないほうがよく、毎日1分で終わるもの、ツイッターの4ページ漫画や漫画サイトの単話販売が好まれます。少なくともティーン層のコンテンツの消費は速度の世界であり、ウェブトーンはそれにフィットしています。

白井:ピッコマを展開するカカオジャパンの金在龍社長は「ウェブトゥーンの作品は歴史には絶対残らない」と断言しています。しかし、そこで親しんで、普通の漫画に流入していくことで、漫画文化が生き残っていく力になるはずだというのが彼の話でした。

ただ、誰が儲けるかというと、日本の漫画ではなくて、大量消費を前提に組み立てられ、AIが描くような作品なのかもしれません。大量消費時代に入っているのであれば、精緻な漫画の芸術的な美しさよりも、サササッと読めるというものが求められている。この辺の競争優位の組み立てについても、日本自身が考えていかなければならないのでしょう。


※1:bilibili(ビリビリ、中国語: 哔哩哔哩)は、中華人民共和国の動画共有サイトおよびビデオ、生放送、ゲーム、写真、ブログ、漫画などのエンターテイメント・コンテンツ企業