2021年6月13日、イスラエル国会は、全120議席のうち賛成60、反対59、棄権1の僅差で野党勢力8党による連立政権を承認した。イスラエルは、通算15年間におよぶベンヤミン・ネタニヤフ首相の支配が終わり、大きな政治的転換点を迎えた。新政権では、極右政党「ヤミナ」の党首である元国防相のナフタリ・ベネット氏が2年間首相の座につき、その後ヤイル・ラピド外相と交代することになっている。地元メディアによるとベネット氏は裕福な米国からの移民で敬虔なユダヤ教徒であり、イスラエル軍の精鋭である特殊部隊に所属していた軍歴を持っているとのことである。
一方、2021年6月19日、ロイターは「イラン内務省は、イブラヒム・ライシ司法府代表(60歳)が大統領選に当選したと発表した。任期は4年、就任は8月で、保守強硬派による政権は8年ぶりとなる」と報じた。ライシ師は全体の約62%の得票を集めたが、今回の選挙では護憲評議会が事前審査で改革派や穏健派の立候補を認めなかったため、この選挙結果はある程度予想されていた。日本貿易振興機構(JETRO)によると「イラン学生世論調査機関(ISPA)は、6月13日から14日に5,094人を対象に世論調査を行った。『選挙に必ず参加する』と答えたのは州都で32.9%、それ以外の都市部で42.9%、地方部で51.3%となり、ISPAは当日の投票率を約42%と予想した」と報じ、ほぼこの通りの投票結果となったようだ。体制への支持度を示す投票率は最終的に約49%と低迷し、前回の73%には遠く及ばない過去最低の結果であった。
イスラム教シーア派法学者のライシ師は、一貫して司法畑を歩み、2014年に検事総長に就任している。ライシ師は、1988年、投獄されていた政治犯約5,000人の死刑執行を監督した委員会構成員4人のうちの1人であり、強硬な体制維持派として有名である。米国は、2019年、ライシ師に対し、この時の大量処刑や2009年の争乱弾圧に関する人権侵害を理由に、個人制裁を科している。一方、ロイターによると、「ライシ師は、米国のイランへの制裁解除に向けて、経済再生のため、核合意復帰には前向きに対応する態度を示していると言われている」とのことである。ライシ師は、最高指導者ハメネイ師に絶対の忠誠を誓い、ゆくゆくは第3代目の最高指導者の地位を窺っていると言われているが、核合意への復帰など、米国の制裁解除による経済再生を第一優先に取り組むものと見積もられている。
中東情勢に大きく影響するもう一つの大国、サウジアラビアの動きにも注目が集まっている。サウジアラビアとイランは、2016年断交後初めて、2021年4月9日、イラクのバクダッドで関係改善の最初の協議を行った。イラン政府高官は「対話と協調の新たな段階に入った」と歓迎の意を表した。
サウジは、イエメンの内戦に軍事介入し、親イラン民兵組織フーシと戦ってきたが、7年目を迎えた内戦の長期化で、戦費が膨らみ経済を圧迫し始めてきている。さらにトランプ政権はイエメン内戦に関してサウジを全面的に支援してきたが、バイデン政権は、2021年2月にフーシの「テロ組織指定」を解除し、4月にサウジ軍事支援の停止を表明、4月下旬に停戦を促すため特使を派遣している。バイデン政権は、オバマ政権同様、カショギ記者の殺害に、ムハンマド皇太子が深く関与したと主張しており、サウジに対し厳しい外交姿勢を貫いていると言えよう。
サウジとイランという中東2大国の緊張緩和は歓迎するが、今後、両国が反米、反西側自由陣営で結束していくことは避けたいシナリオであろう。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
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