6月7日、政府は、2022年度夏季及び冬季の電力需給が厳しいという見積もりを踏まえ「2022年度の電力需給に関する総合対策」を決定した。これを見てみると、2022年度夏季の電力需給見通しを、10年に1度の猛暑を想定した需要に対し、安定供給に最低限必要な予備率「3%」を僅かに上回っているものの、7月の東北・東京・中部エリアの予備率は「3.1%」と非常に厳しい数値としている。松野官房長官は記者会見において「数値目標は設定しないが、できる限りの節電・省エネへの協力をお願いする」と国民の協力を要請した。
節電要請が行われるのは7年ぶりとなる。この5年間で、火力発電所の供給力が、廃止や休止によって1600万キロワット(標準家庭換算で約540万世帯分に相当)減少したことが主な原因だ。
しかし、政府は「脱炭素」に向けて再エネへの注力を加速させている。ロシアのウクライナ侵攻前の昨年10月、政府は「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定した。同計画で示された2030年度の発電電力の電源構成は再エネ36~38%(現在20.8%)、原子力20~22%(同4.3%)、LNG20%(同35.4%)、石炭19%(同27.6%)。再エネが大きな比率を占め、太陽光と風力が主力とされている。
ひっ迫する電力需給に対応するだけでも困難なのに、日本は本当に再エネを主力とした電源構成に移行できるのか。
都市経済に詳しく、安倍内閣で内閣官房参与を務めた加藤康子氏は「夕刊フジ」への寄稿で以下のように警鐘を鳴らす。「ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧米諸国がエネルギー政策を見直すなか、日本は『脱炭素』一辺倒で国民に節電を呼びかけ、大企業への使用制限を検討している。エネルギー資源に乏しい日本は、『クリーンエネルギーの幻想』を捨てて、一刻も早く再稼働可能な原発を稼働させ、電気代を抑え、国力の衰退に歯止めをかけなければならない」。また、NHKの取材に応じた国際環境経済研究所の竹内純子理事は「電力の安定供給のためには、再生可能エネルギーの発電量が少ない時に、確実に電力を供給できる火力発電を維持しておく必要があり、国がより強く関与すべきだ」と主張している。
再エネ設備構築への反対運動も相次いでいる。2021年7月3日、記録的な大雨の影響により静岡県熱海市伊豆山地区で大規模な土砂災害が発生した。詳細な原因は調査中であるが、近傍にメガソーラーが設置されていたことから、ソーラー関連施設設置が災害や環境破壊につながる危険性について注目される要因となった。
1月24日、衆議院予算委員会で、自民党高市早苗政調会長は、全国の再エネ問題に言及した。主な主張は、①地元の理解を得られない再エネ開発の問題、②中国資本と関係の深い事業者への対応、③再エネ推進で進む地球温暖化の懸念などであった。
山口県岩国市ではゴルフ場開発用地214ヘクタールのうち110ヘクタールに太陽光パネル30万枚を設置するメガソーラー事業が進んでいる。同事業は数回にわたり売却されて事業主が何度か変わってきたが、これを中国に本社を置く上海電力の100%子会社「上海電力日本」が昨年9月に100%取得した。地元の自治会は、土砂崩れ、土壌汚染、水源枯渇、災害発生時の対処などの懸念から1400人分の署名とともに開発許可見直しの「請願書」を県に提出した。山口県の森林課は「事業者が変わるごとに審査しているので問題ない。外資かどうかは審査対象ではないので見直しはしない」との回答している。
昨年9月から、自衛隊基地や原発など安全保障上重要な施設に対して土地利用規制法が施行されたが、重要施設から1キロが「注視区域」に指定されるだけで、本件のように自衛隊、米軍基地から15キロ離隔すると土地取引に制限をかけることは難しい。中国には「国防動員法」があり、すべての国家機関、社会団体、企業、事業体および公民は、平時において、法律の規定により動員準備業務を完遂することになっている。110ヘクタールという広大な敷地を活用し、電波傍受、電波妨害、ドローンを使用した航空偵察が可能な距離に所在する本施設が中国資本の下にあることは、安全保障上の大きな問題点だと言えよう。
大阪府住之江区咲州太陽光発電所も上海電力が運営している。地元摂津市の松本暁彦市議は、①当初の入札に参加していなかった上海電力が事業に参入するのは入札制度の信頼や意義が失われる。②咲州メガソーラーは、市職員でも立ち入りできず、大阪港の入り口に立地するため港湾管理が行き届かなくなる恐れがある。③WTOルールでは、一定の条件を満たせば、外国資本も入札に参加できるが、電力のような重要インフラを外国企業に委ねるのは、安全保障上の観点から問題がある、と指摘している。
再生可能エネルギーについては、太陽光発電だけでなく、風力発電についても問題が発生しているようだ。国際基本問題研究所理事長の櫻井よしこ氏は、5月19日の公式ホームページに「富山県入善町の洋上風力発電に参入する中国企業」について、その危険性を提起している。中国の発電業者が、発電機を設置する海域の風力、海流、海底地形などを調査でき、最大で30年間その海域を占有し、調査する権利を有することに対する危惧の表明だった。櫻井氏は、「政治家は危機のアンテナを張り巡らせ、国防力強化だけでなく、国土も海洋も中国に奪われないための法整備を実現せよ」と警鐘を鳴らしている。
6月11日の産経新聞は「風力発電の風車が航空自衛隊のレーダーに影響を及ぼす懸念が浮上、防衛省が対応に苦慮。探知機能に障害が発生するなど深刻な問題が起きる可能性がある」と指摘している。装備の性能に係ることから、防衛省は具体的な問題点を明らかにしていない。航空自衛隊は全国28カ所に警戒管制レーダーを設置し、24時間態勢で警戒監視をおこなっている。全国の風力発電の設置数は21年末時点で、約2500基であり、今後さらなる増加が予想される。防衛上の問題を理由に風車設置を制限する法律はいまだに整備されておらず、安全保障上の盲点となる可能性がある。
ロシアのウクライナ侵攻に伴い、欧州諸国は、ロシア産天然資源への依存度低下を目標とするエネルギーのサプライチェーンの見直しを進めている。このあおりを受け、原油価格が高騰し日本経済への悪影響が懸念されている。すでに示されている第6次エネルギー計画はロシアのウクライナ侵攻を織り込んだものではない。現在の世界情勢を受けて、日本のエネルギー戦略の一部を軌道修正する必要が生じてくるだろう。原発再稼働を含めたエネルギー政策の抜本的な見直しは喫緊の課題である。その際、再生エネルギー施設建設がもたらす安全保障上の脅威にも気配りしなければならないだろう。