実業之日本フォーラム 実業之日本フォーラム
2022.05.30 コラム

次のパンデミックはサル痘か?感染者の「発疹・体液・飛沫への接触」避けて

浦島充佳

 米疾病対策センター(CDC)は18日、最近カナダを旅行した男性がサル痘に罹患していたことを公表した。現在入院隔離されているこの患者の容体は安定しており、接触した人たちもCDCの観察下にある。

致死率は「最大10%」

 サル痘は簡単に言えばサル固有の天然痘で、まれにサルから人に飛び移り感染症を引き起こす。

 罹ると、インフルエンザのように発熱や頭痛、筋肉痛、背中の痛み、倦怠感が出始め、やがてリンパ節の腫れをともなう。1~3日後には顔に水疱(水ぶくれ)が出現し身体に広がるが、2~4週間で自然に治癒する。致死率は天然痘よりは低いものの、1%から最大で10%に達する。しかし、既に撲滅された天然痘に比べると桁違いに軽症である。

天然痘に似ている

 人類を苦しめてきた天然痘とはどんなものだったのだろう。

 紀元前1157年に死亡した古代エジプトのラムセス5世のミイラには、天然痘患者特有の膿胞(のうほう)がある。したがって、彼は天然痘に感染して死亡したものと考えられており、同時にこれは、人類はいにしえより身分を問わずこの感染症に苦しめられてきたことを物語っている。実際、20世紀前半までは世界で毎年数百万もの人々がこの感染症に罹って死亡していた。

 天然痘の感染力は強く、潜伏期間は7日〜17日と長い。致死率はワクチン未接種者が30%で、接種者でも10%と極めて高かった。そのため、天然痘患者が出てくると世界各国に瞬く間に分散してしまう。一方で、国民全員に接種せずとも濃厚接触者にワクチンを接種するだけで間に合うという利点もある。

頭が割れそうに痛い…

 発症すると突然の高熱と倦怠感が現れる天然痘だが、小児はけいれん、成人ではせん妄状態に陥ることもある怖い感染症だ。患者の多くは「頭が割れそうに痛い」と訴え、背中の痛みも伴うこともある。

 高熱は2~3日後に多少下がり、水疱瘡(みずぼうそう)のように水を含んだ斑状の発疹が顔から出現し始め、手足に広がる。そして再び発熱が1週間程度続き、発疹は四肢に広がっていく。その後、1週間かけて解熱し、かさぶたができる。全経過はおよそ3週間だ。水疱瘡との違いは体幹には水疱があまりでないことと最後まで瘡蓋になり難い点である。

 また、皮疹が出現してから24時間経つ前に咽頭の発疹が現れ、患者は咽頭痛を訴える。この期間は、患者の唾液に天然痘ウイルスが多く含まれているため、飛まつ感染しやすい。

 特徴的な発疹がでる前から感染力を有し、診断がついたときにはすでに複数名に感染させている可能性がある。したがって、早期診断早期隔離だけで封じ込めることは理論上不可能だ。

 2003年にパンデミックとなったSARSでは発症後4日以降に感染性を帯びる。したがって、発症3日以内に診断して入院隔離すれば感染が広がらない。一方、新型コロナでは発症の2~3日前から他者に感染させ得るので、診断がついて入院隔離しても既に複数名に感染させているかもしれず、封じ込めることはできない。よって、天然痘はSARS型というよりは新型コロナ型ということだ。

 このように初期時点で感染力が強い場合は、ワクチン接種がとても重要になってくる。

天然痘は撲滅済

 上述のように天然痘はとてもやっかいな感染症だったが、1796年に英国の医師エドワード・ジェンナーが天然痘ワクチンの開発に成功し、人類は天然痘に対抗する武器を手にした。

 世界保健機関(WHO)は1967年から米国の医師ドナルド・ヘンダーソンを中心として天然痘撲滅キャンペーンを始め、1977年の東アフリカのソマリアで報告されたケースを最後に発生は途絶えた。WHOは1980年に天然痘の撲滅を宣言している。

 重篤急性呼吸器症候群(SARS)は2003年に一旦封じ込められたものの、コウモリの体内で進化を遂げたのち2019年新型コロナウイルスとなって再び我々の前に現れた。一方で、天然痘ウイルスはヒトからヒトにしか感染しないため、理論上は一旦撲滅されれば二度と我々の前に姿を現すことはない。実際に1977年以降、天然痘患者は出ていない。

アフリカ渡航歴なくとも感染

 これに対し、サル痘はサルからヒトに感染するため、主にナイジェリアなど西アフリカや中央アフリカで散発的に発生していた。

 近年ではアフリカへの旅行客が感染するケースがみられていたが、ここ2週間はアフリカに旅行していないにもかかわらず、サル痘に罹患するケースが出ている。まずスペインやポルトガル、イギリスで数名が報告され、その後カナダやアメリカに広がっている模様だ。イギリスでサル痘と診断されたのは7人で、1人が感染している疑いがある。

 5月26日時点で欧米を中心(加えてイスラエル、UAE、カナダ)とする20か国で100人以上がサル痘の診断あるいは疑いがもたれている。最近欧米で発生したケースは少なくとも現時点では皆病態は安定しているようだ。また、新型コロナのように患者数が急増する兆しがない点も安心材料である。

 ナイジェリアへの渡航歴がある1人以外はアフリカへの渡航歴が無く、渡航歴のある感染者と接点もない。また、まだ詳細情報は不明だが、2人の家族例を除いては感染者同士の接点はなさそうだ。

 4人の患者はゲイ、バイセクシュアル、あるいは男性間性交渉経験者だったというイギリスからの報告もあり、エイズが広がった初期の頃と似たパターンだと言えよう。こう考えると、輸血や輸血製剤も危険だ。

動物からの感染ではない

 アメリカでは2003年に47人のサル痘感染者が報告されているが、そのときはアフリカからペットとして輸入した動物からプレーリードッグに感染が広まり、そこからヒトに感染している。つまりヒトからヒトへの感染ではなかったということだ。

 しかし、今回の感染事例ではペットや動物からの感染は報告されていない。

不明確な感染経路

 憂慮するべき点は、ロンドンなど一部の地域で感染が広がっているにもかかわらず、いつ誰からどのように感染したかわかっていないということだ。

 ひょっとすると私たちは氷山の一角を見ているだけで、すでに大都市を中心に感染が広がっているかもしれない。次のパンデミックの火種になるか否か、なるとしたら新型コロナのように急拡大するものではなく、エイズのようにゆっくりと蔓延するのではないか?いずれにしても、引き続き注視していく必要がありそうだ。

浦島充佳

1986年東京慈恵会医科大学卒業後、附属病院において骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。93年医学博士。94〜97年ダナファーバー癌研究所留学。2000年ハーバード大学大学院にて公衆衛生修士取得。2013年より東京慈恵会医科大学教授。小児科診療、学生教育に勤しむ傍ら、分子疫学研究室室長として研究にも携わる。専門は小児科、疫学、統計学、がん、感染症。現在はビタミンDの臨床研究にフォーカスしている。またパンデミック、災害医療も含めたグローバル・ヘルスにも注力している。小児科専門医。
近著に『新型コロナ データで迫るその姿:エビデンスに基づき理解する』(化学同人)など。