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2022.07.29 コラム

症状、潜伏期間、感染経路…サル痘大流行の最新調査結果を速報

浦島 充佳

 2022年7月25日と28日、日本国内で立て続けに2例のサル痘患者が確認された。欧米などの75か国で1万6000人余りのサル痘患者が報告されたことを考えると、日本で発生しても何ら不思議なことではない。患者は共に30代男性で健康状態は安定しているという。1人目は6月下旬~7月中旬に欧州に滞在し現地でサル痘と診断された人との接触歴があった。2人目は北中米在住。いずれも国籍は明らかにされていない。

 23日にWHOは欧米を中心に感染の拡大が続く「サル痘」について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したばかりである。「まだわからないことも多いなかで世界中に急速に拡大している」というのが宣言の理由だ。そうであれば、まず正しく知ることが重要だ。

 28日、ニューイングランドジャーナルオブメディスン誌に今年4月から6月までにサル痘を発症した528人の疫学データが16か国43の医療施設から報告された。要点を以下にお伝えしていく。

特徴:98%がゲイあるいはバイセクシュアル男性だった
人種:75%が白人
年齢:中央値38歳(18歳から68歳)
基礎疾患:41%がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していた
性行為感染症(STD): 調査し得た377人中109 人 (29%)で合併していた

 1980年代、エイズが発見された当初はゲイの間で流行る特殊な感染症と認識されていた。この決めつけがかえって男女間での感染を助長してしまった。サル痘のこの報告でも9人はヘテロセクシャルだった。決めつけてしまうと他の可能性を否定してしまうため注意が必要だ。

サル痘疹:95%に認めた
会陰部(73%)
体幹、手足(55%)
顔(25%)
手の平、足裏(10%)

発疹が出現して2つめの発疹が観られるまで5日(2日から11日)
発疹は10個以内のことが多い

 発疹が1つだと医師でも診断するのが難しいかもしれない。また発疹が会陰部にあるだけだと、痛みなどの自覚症状が無ければ本人でさえも感染に気付けないだろう。また5%に発疹を認めていないわけだが、診断した医師は何をもってサル痘を疑いPCR検査を実施したのだろうか。自然治癒するものであれば、世界のサル痘罹患者は現在報告されている人数よりはるかに多いとみるべきだ。

粘膜病変(41%)
肛門直腸粘膜=61人
肛門部の痛み、しぶり腹、下痢などを合併することもあった
のどの症状=26人
咽頭炎、嚥下痛、喉頭蓋炎、および口腔または扁桃腺病変など

 咽頭炎などがあるときは、ここを介した性交渉でも感染し得るということだ。

発疹以外の臨床症状:
発熱62%
無気力41%
筋肉痛31%
頭痛27%
リンパ節腫大56%

 発疹に気付かないと他の風邪などと区別がつき難い。

感染経路:主治医の95%は直接の性行為を含む性的濃厚接触で感染したと述べている。ナイーブな話で立ち入ったところまでは聞けなかったのであろう。しかし、そんな中でも406人(77%)から聴取した結果が以下である。

過去3か月のセックスパートナーの中央値は5人
診断日の前の月に
147(28%)が海外旅行をしていた
169(32%)が前月中にSOPVを訪れていた
103(20%)がプライドイベントなどの大規模な集会(> 30人)に参加していた
106(20%)がケムセックスをしていた

精液:検査し得た32例中29例でウイルスを検知した

SOPV:Sex on Premises Venue(SOPV)は、男性とセックスをする男性(MSM)が現場で出会い、性的関係を築くためのスペースを提供する商業施設。これらには、ゲイの浴場、スパやサウナのない「奥の部屋」や「クラブ」スタイルの会場が含まれる。
プライドイベント:セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)のパレード
ケムセックス:メフェドロンやクリスタルメタンフェタミンなどの薬物に関連するセックス

 セクシャルネットワークで感染が増幅されている。1980年台、アメリカ政府がエイズについてリスクコミュニケーションする際、ゲイ、セックス、コンドームといった言葉を避けた。このことがかえって病気の蔓延に繋がった。感染症対策は時に「差別」につながりやすいため言葉を選ぶ必要があることは理解するが、個人情報に結びつかない事実は公表するべきだ。

潜伏期間:曝露機会が明らかな29人で中央値7 日 (3日から20日)

 今回の調査では発症前の潜伏期間中から感染性を持つか否かまでは判らなかった。私が一番知りたかった点だ。もし、潜伏期間中から感染力を有するとすれば、今後も感染は拡大していくであろう。

診断:発症してからPCR検査が陽性になるまで5日(2日から20日)

 確定診断がつけば感染拡大を阻止できるが、発症から診断がつくまで5日あると、その間に感染が蔓延する。

 日本のPCR検査の体制は大丈夫か。現在、新型コロナで大変な状態なので、いつの間にか日本中に蔓延していたということにならないで欲しい。

治療: 5%が抗ウイルス剤を投与された, 70人 (13%) が入院した 
入院の主な理由は痛みのコントロールで会陰部の痛みを訴えるものが多かった(21人)
軟部組織の二次感染(18人)
咽頭炎の痛みがひどく経口摂取できない(5人)
目の病変(2人)
急性腎障害(2人)
心筋炎(2人)
感染制御目的(2人)
HIVに感染していたからといって入院リスクが高まったということはなかった
サル痘診断時、3人でHIV感染が判明した

 痛み治療や二次感染に対する治療が入院の理由である。

合併症:CD4細胞が低下しているHIV陽性患者3人に喉頭蓋炎が合併するも経口テコビリマットで速やかに改善
心筋炎が2人に合併したが、抗ウイルス薬を内服せずとも7日以内に自然治癒した。
死亡例は無かった。

 テコビリマットはアメリカが天然痘テロを懸念して開発してきた薬物である。35万の化合物から選ばれた薬というから驚きだ。米生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority:BARDA)が長期間にわたって投資し続けてきた成果だ。BARDAは、新型コロナウイルスのパンデミックに対しては、モデルナ、アストラゼネカ、ファイザーなどの製薬企業に巨額の投資を行い、8カ月という異例の速さでワクチン開発に成功した。これが無ければ今頃世界で数千万の命が奪われていたであろう。サル痘でもしっかり存在感を示している。BARDAに倣って日本にもSCARDA(先進的研究開発戦略センター)ができた。将来のパンデミックに向け、日本発の医薬品が開発されることを期待したい。

浦島 充佳

東京慈恵会医科大学 教授
1986年東京慈恵会医科大学卒業後、附属病院において骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。93年医学博士。94〜97年ダナファーバー癌研究所留学。2000年ハーバード大学大学院にて公衆衛生修士取得。2013年より東京慈恵会医科大学教授。小児科診療、学生教育に勤しむ傍ら、分子疫学研究室室長として研究にも携わる。専門は小児科、疫学、統計学、がん、感染症。現在はビタミンDの臨床研究にフォーカスしている。またパンデミック、災害医療も含めたグローバル・ヘルスにも注力している。小児科専門医。近著に『新型コロナ データで迫るその姿:エビデンスに基づき理解する』(化学同人)など。

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