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2022.05.16 コラム

子ども5人が死亡…「原因不明の小児肝炎」がこのタイミングで流行している「意外なワケ」
治療薬もワクチンもない(東京慈恵会医科大学 浦島充佳)

浦島充佳

 世界で子どもの急性肝炎が相次いでいる。原因はわかっておらず、その全貌は未だ見えていない。米疾病対策センター(CDC)は6日、同様の肝炎と思われる子どもが米国内で109人見つかり、うち5人が死亡したと発表した。日本でも6日までに可能性のある症状が7人報告されており、さらに増えることが懸念される[1]

 症例報告は英国からが最も多く[2]、英保健当局によると今年1月から今月3日までに163人の患者が出ており、そのうち11人が肝臓移植を受けたという。報告された患者は新型コロナワクチンを接種しておらず、一般的な肝炎ウイルス検査結果は陰性であった。

 患者の多くから下痢や喉の痛みを引き起こすアデノウイルス41型が血液のPCR検査で検出されている。しかし、肝臓組織内にアデノウイルスの存在は確認されていないし、未知のウイルス感染を示唆する所見も観察されていない[3]。つまり、まだアデノウイルスが血液に検知されただけでそれが肝炎の直接原因とは断定できないということだ。そして、仮にアデノウイルス感染症が原因だったとしても治療薬もワクチンも存在しない。

嘔吐や下痢から始まる

 肝炎は発熱、嘔吐や下痢などの胃腸症状からはじまり、多くは咳などの呼吸器症状を伴う。その後尿の色が濃くなり、白目の部分が黄色に変わってくることで感染に気づくことが多い。医師が診察すれば肝臓が腫れていて、血液検査による肝炎の診断をつける。

 ちなみに嘔吐下痢症の原因ウイルスは季節によるが、秋から冬にかけてはノロウイルス、冬はロタウイルス、春から夏にかけてはアデノウイルスが原因となることが多い。

 大なり小なり春から夏にかけてアデノウイルス感染症は流行する。多くはプール熱といって発熱、結膜炎、咽頭炎の症状を呈する。また、肺炎や膀胱炎などを起こすこともあり、その臨床症状は多彩だ。

 アデノウイルス感染症で肝炎がみられるのは免疫不全がある場合で極めて稀だが、最近報告があった子供の肝炎例はいずれも免疫不全が無い。しかし、単に医療者側がアデノウイルスによる肝炎例を見逃していただけかもしれない。

 私も小児科病棟医時代に原因不明の重症肝炎を担当したことはあった。仮にアデノウイルスが原因だったとした場合、なぜ今、重症肝炎が健康な子どもの間で流行しているのか? 世界の研究者が頭を悩ませている。

集団免疫が失われた状態に

 その理由を考えてみよう。まず、1つのウイルス感染症が流行している間は、他のウイルス感染症は流行しづらいことがわかっている。これは、ウイルス干渉という現象だ。

 そのため、新型コロナウイルスが流行しはじめた2年ほど前から、インフルエンザが流行していないようにアデノウイルス感染症も流行していない。そのためアデノウイルスに感染している子どもの数も少なくなり、アデノウイルスに対する集団免疫自体が失われたのではないだろうか。

 したがって現在、アデノウイルスへの免疫を持たない子どもが感染し、患者数が多くなって、その多くは無症状か軽症だが、その極一部が重症化している状態だと考えられる。

次はインフルエンザが大流行する?

 昨年の春から夏にかけて、通常は冬に流行し子どもの肺炎の一因ともなるRSウイルス感染症の患者が急増し、それまで冬に流行していたインフルエンザは2年連続で流行しなかった。そして現在アデノウイルスが流行しはじめている。そうすると、コロナパンデミック収束後に、今度はインフルエンザが大流行する可能性も考えられる。

 RSウイルス感染症に関しては、妊婦がRSウイルスワクチンを接種することで、その子どもへ抗体が移行することが臨床試験で確認されている[4]。ワクチン接種が広く行われれば、子どものRSウイルス感染症の重症化を予防できるようになるだろう。

 いずれにしても「子どもの肝炎」を注視していく必要がある。


[1] 国内初 原因不明の肝炎か 報告相次ぐ海外 症状などわかっていること

[2] Increase in hepatitis (liver inflammation) cases in children under investigation.

[3] Acute Hepatitis and Adenovirus Infection Among Children — Alabama, October 2021–February 2022 MMWR

[4] Prefusion F Protein–Based Respiratory Syncytial Virus Immunization in Pregnancy. N Eng J Med.

浦島充佳

1986年東京慈恵会医科大学卒業後、附属病院において骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。93年医学博士。94〜97年ダナファーバー癌研究所留学。2000年ハーバード大学大学院にて公衆衛生修士取得。2013年より東京慈恵会医科大学教授。小児科診療、学生教育に勤しむ傍ら、分子疫学研究室室長として研究にも携わる。専門は小児科、疫学、統計学、がん、感染症。現在はビタミンDの臨床研究にフォーカスしている。またパンデミック、災害医療も含めたグローバル・ヘルスにも注力している。小児科専門医。
近著に『新型コロナ データで迫るその姿:エビデンスに基づき理解する』(化学同人)など。