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2022.03.28 コラム

新型コロナ、夏には普通の生活に?第7派到来で予想できる「良いシナリオ」と「悪いシナリオ」
東京慈恵会医科大学 浦島充佳

浦島充佳

新型コロナがパンデミックとなって2年余り、日本は六つの波を何とか乗り越えてきた。当初、ワクチンさえ創れば集団免疫を獲得して落ち着くと思われた。ところが、未だに感染は落ち着いてはいない。その理由として、遺伝子変異というウイルス側の要因とワクチン後免疫減衰というヒト側の要因が挙げられる。これから先、どうなるのであろうか?第7波は来るのか?科学的エビデンスに基づきどう対策するべきかを考えてみたい。

「変異のたびに」感染力は増している

新型コロナウイルスは常に変異を繰り返しているが、中でも感染力が強くなる変異を起こすことで従来株と置き換わる。逆に、新しい変異株に置換するということは感染力が従来株より強くなったことの証左でもある。感染力が強ければ患者数は急増する。実際、従来株-アルファ株-デルタ株-オミクロン株と感染拡大速度とピーク時患者数、ともに悪化の一途をたどっている(図1)。

日本では、オミクロン株の流行ピークを越えたものの未だに多くの人が発症し続けている。3月26日時点で累計6,342,265人、およそ20人に1人がコロナに感染しているが、その内4,608,838人、すなわち73%が今年に入ってからの発症だ。南アフリカのデータから判っていたように、オミクロン株の感染力は強いが重症化率は低い*¹。しかし、コロナ流行とは無関係に1月から2月にかけては風邪をこじらせて高齢者が亡くなりやすい時期だ。そのため、オミクロン株は比較的軽症とは言え流行した時期が悪かった。その結果、デルタ株時に匹敵する死者数がでた。

図1.東京都における新型コロナ流行曲線(著者作成)

 

感染者数、死亡者数はNHKのまとめたデータ*²:ワクチン接種率はour world in data*³; 飲食・娯楽の人流減少率はgoogle mobility data*⁴より 水色は東京都の直近1週間の人口10万人あたりの感染者数 臙脂色は東京都の死者数_1日ごとの発表数 抹茶色は東京都の飲食・娯楽の人流減少率を示している。グレー部分は緊急事態宣言か蔓延防止等重点措置期間を示している。

 

オミクロンは「BA1からBA2へ」置き換わりが進んでいる

クリスマス頃より1月にかけてヨーロッパ諸国はオミクロン株の波に襲われた。日本より1カ月早い。感染者数は2月になって急速に減少したものの、2月末から3月に入って再上昇している。その原因として、同じオミクロン株ではあるがBA1からBA2に置き換わりが進んでいる点が挙げられる(図2)。BA2はBA1より感染力が強いことは前々から指摘されてきたので、想定内の事象だ。

日本でも2月初旬をピークに感染者数が減少傾向にあるが、最近下げ止まっている。ヨーロッパの1カ月遅れであること、日本でもBA2の割合が増えつつあること、3月22日から蔓延防止等重点措置が解除されたこと、桜見のシーズンであること、4月は年度初めで宴会が催される機会が多いことなどを考えると4月に入り感染者数は増えるであろう。ただし、英国のようなゆっくりとした増加が予想される。

図2.人口100万人当たりの1日あたりの感染者数の推移(7日間移動平均)*⁵:2021年11月1日~2022年3月25日まで: およそのBA1からBA2への置き換わりを重ね合わせた。

 

急がれる「ユニバーサルワクチン」の開発

2022年1月25日、ファイザー社は1,420人を対象としたオミクロン株ワクチンの第3相臨床試験を実施することを発表した*⁶。同社は1月10日のCNBCのインタビューに「2022年の前半に試験の結果がでるだろう」と回答している*⁷。しかし、アルファ株-デルタ株-オミクロン株と4~6か月で置き換わってきたことを考えると、オミクロン株ワクチンが開発される頃には、オミクロン株の流行は収束傾向を示し、また次の変異株が出現していれば「イタチごっこ」の状態だ。そのためオミクロン株に特化したものよりは、変異をしても有効な「ユニバーサルワクチン」の開発が期待されている。

 

今すべきは「高齢者への3回目接種」

オミクロン株に対してファイザーあるいはモデルナのワクチン2回接種では不十分である。しかし、3回目のブースター接種をしたとしても2回接種と比較して発症をせいぜい半減するに過ぎない*⁸。従来株に95%有効であったことと比較すると、オミクロン株の発症をワクチンで予防するという考えを改めるべきだ。

3月25日、英国保健省は「65歳以上の高齢者に3回目のブースター接種をすることで、オミクロン株感染により入院するような重症例を90%減らすことができた。しかし、その効果は接種後14週間保たれるが、15週以降に85%と低下しはじめる」ことを発表した*⁹。つまり、オミクロン株に対して3回目ブースター接種をすることで、発症を十分予防できないが入院や死亡を9割減らせる、しかしその効果は4カ月を待たずして減衰しだすということだ。

 

「4回目接種」は必要?

3月24日、岸田首相は国会答弁での新型コロナワクチンの4回接種5月開始を検討していることを明らかにした。はたして4回接種は必要なのだろうか?

日本時間の3月17日、イスラエルの研究グループがニューイングランドジャーナルにオミクロン株に対する4回目の効果を発表した*¹⁰。4千人近い医療従事者の中からコロナ感染既往がある人と抗体が十分ある人が除外され、1050人を対象とし、ファイザーのワクチン、モデルナの4回目接種を受けたそれぞれ154人、120人と年齢(20代~80代)を合わせて残りから抽出した対照群(308人、239人)を比較した。2回接種と比較して3回接種によりオミクロン株に対する抗体価は見事に上昇した。ところが3回接種と比較して4回接種は多少上がった程度であり、数か月して低下してきた免疫を維持する効果はあるものの、3回接種のときほど大きな予防効果は期待できないことが判った。実際、発症リスクを30%(ファイザー)から11%(モデルナ)しか減ずることができていない。

上記結果は働く世代が対象である点、解釈には注意が必要だ。1月31日の記事で紹介したように「60歳以上では3回よりも4回接種によりオミクロン株の感染が半減、重症化も3分の1以下」となったという報告もある*¹¹。この点を踏まえ、イスラエルでは3回接種から4か月以上経っている60歳以上の高齢者、あるいは免疫不全者、そしてこれらの人と同居している、あるいは接する医療従事者や介護関係者などを対象に4回目の接種を推奨している*¹²。

 

ワクチン先進国イスラエル「感染者増のワケ」

イスラエルはワクチン政策をどこの国よりも強力に推し進めてきた。その背景には2020年末より感染者数、死亡者数共に急増した苦い経験がある。今回のオミクロン株流行についても年末の時点で3回接種が5割を超えていた。それにもかかわらず感染者数が急激に増え始め、その結果年明け早々から4回目の接種を開始することになった。感染者数の増加は米英そして日本の比ではなかった(図3)。オミクロン株に対しては3回目のワクチン接種でさえも、その効果がわずか4か月しか持たなかったことを示している。あまりにも早くからワクチン接種を開始したため、このことがかえって仇となった格好だ。

図3.人口100万人当たりの1日あたりの感染者数の推移(7日間移動平均)*¹³:2020年1月29日~2022年3月25日まで

 

オミクロン株では重症化し難いとはいえ、患者数がこれだけ急増すると、やはり死者数も増える。イスラエルの死亡者数は米国と同じレベルまで上がった(図4)。

図4.人口100万人当たりの1日あたりの死亡者数の推移(7日間移動平均):2020年2月19日~2022年3月25日まで

 

第7波到来で予想される「良いシナリオ」「悪いシナリオ」

第7波が来る可能性はある。それがBA2によるもので、今にもはじまろうとしているとすれば、楽観的なシナリオが考えられる。高齢者には3回目ブースター接種が一定程度浸透したタイミングであり、重症者や死亡者が出難い。一方、子どもから中年までは今と同じペースで感染するとすれば、国民のかなりの割合が免疫を持つことになり、集団免疫を得られる。そうすると、第7波は非常にゆるやかな山となり、病床を逼迫させずに社会経済活動を維持できる。したがって、良いシナリオは、「4月以降BA2による揺り戻しの第7波が発生するものの蔓延防止措置を発出せずとも乗り切ることができ、それ以降も大きな波は発生しない」だ。夏以降、徐々にではあるが普通の生活に戻れるかもしれない。

一方、全く新しい変異株が出現すれば悪いシナリオが考えられる。振出しに戻ってしまうからだ。これを予想することは困難だが、今まで4~6カ月で憂慮するべき変異株が出現していたことを考えると夏から秋にかけてあり得るか?

危機管理はいつも悪いシナリオを念頭にするべきだ。よって、高齢者と基礎疾患を持つ人、またこれらの人々と接する医療従事者、介護関係者、同居家族を中心に3回目接種から4~6カ月以上経ったら4回目接種を始めるべきである。ワクチン接種の意義が集団免疫を得ることではなく重症化予防であれば、上記にあたらない人たちはインフルエンザワクチン同様、希望者だけでもよいのではないだろうか。


*¹ Madhi SA, Kwatra G, Myers JE, et al. Population Immunity and Covid-19 Severity with Omicron Variant in South Africa. N Engl J Med. 2022 Feb 23:NEJMoa2119658. doi: 10.1056/NEJMoa2119658.

*² 都道府県ごとの感染者数の推移https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-widget/#mokuji1

https://ourworldindata.org/explorers/coronavirus-data-explorer?zoomToSelection=true&time=2020-03-01..latest&facet=none&pickerSort=asc&pickerMetric=location&Metric=Confirmed+cases&Interval=7-day+rolling+average&Relative+to+Population=true&Align+outbreaks=false&country=USA~GBR~CAN~DEU~ITA~IND

*⁴ https://www.google.com/covid19/mobility/?hl=ja

*⁵ Our world in data より作図した。https://ourworldindata.org/coronavirus

*⁶ Pfizer and BioNTech Initiate Study to Evaluate Omicron-Based COVID-19 Vaccine in Adults 18 to 55 Years of Age. https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-biontech-initiate-study-evaluate-omicron-based

*⁷ Does the world need an Omicron vaccine? What researchers say. https://www.nature.com/articles/d41586-022-00199-z?utm_source=Nature+Briefing&utm_campaign=5a09adda49-briefing-dy-2022031&utm_medium=email&utm_term=0_c9dfd39373-5a09adda49-46883274

*⁸ Abu-Raddad LJ, Chemaitelly H, Ayoub HH, et al. Effect of mRNA Vaccine Boosters against SARS-CoV-2 Omicron Infection in Qatar. N Engl J Med. 2022 Mar 9:NEJMoa2200797. doi: 10.1056/NEJMoa2200797.

*⁹ https://www.gov.uk/government/news/covid-19-variants-identified-in-the-uk#full-publication-update-history

*¹⁰ Regev-Yochay G, Gonen T, Gilboa M, et al. Efficacy of a Fourth Dose of Covid-19 mRNA Vaccine against Omicron. N Engl J Med. 2022 Mar 16. doi: 10.1056/NEJMc2202542.

*¹¹ Preliminary Data Analysis: Effectiveness of the Fourth Dose for Older Adults 60 Years of Age and Older. https://www.gov.il/en/departments/news/23012022-01. 23.01.2022

*¹² Fourth Vaccine Dose https://corona.health.gov.il/en/vaccine-for-covid/4th-dose/

*¹³ Our world in data より作図した。https://ourworldindata.org/coronavirus

浦島充佳

1986年東京慈恵会医科大学卒業後、附属病院において骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。93年医学博士。94〜97年ダナファーバー癌研究所留学。2000年ハーバード大学大学院にて公衆衛生修士取得。2013年より東京慈恵会医科大学教授。小児科診療、学生教育に勤しむ傍ら、分子疫学研究室室長として研究にも携わる。専門は小児科、疫学、統計学、がん、感染症。現在はビタミンDの臨床研究にフォーカスしている。またパンデミック、災害医療も含めたグローバル・ヘルスにも注力している。小児科専門医。
近著に『新型コロナ データで迫るその姿:エビデンスに基づき理解する』(化学同人)など。