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2022.01.05 コラム

新型コロナパンデミック:今冬オミクロン株の影響は如何に?
東京慈恵会医科大学 浦島充佳

浦島充佳

1年を通して亡くなる人の数が最も多いのは1月だ。一方、最も少ないのは6月である。昨年の1月は14万人(1日当たり4,500人)が亡くなったが、6月は10万9千人(1日当たり3,600人)だった。その差は3万1千人である。コロナ前もこの傾向は変わらない。2019年1月は13万8千人、6月は10万1千人が死亡した。その差は3万7千人だ。

今年の大寒(最も寒い時期)は、1月20日から2月3日と予想されている。この時期、新型コロナでなくともインフルエンザなどの急性気道感染症がピークとなる。「風邪は万病の元」と昔から言われるが、風邪がきっかけで肺炎になったり持病が悪化したりして命を落とす高齢者は多い。その結果1月の死者数が最も多くなる。新型コロナも元は風邪のウイルスで、大寒に大流行することは想像に難しくない。

毎年同じ月で比較すると年々死亡者数が増えてきている。これは日本の高齢者が増えているからだ。昨年1月から2月にかけて新型コロナで亡くなった人は多かった。しかし、最近10年間のトレンドでみると、新型コロナのパンデミックだったからといって極端なピークにはなっていない(図1)。新型コロナ感染がみられるようになった2020年1月から翌年10月までの間に258万人が死亡している。これに対して日本の新型コロナによる死者数は1万8千人、すなわち全死亡の0.7%に過ぎない。99.3%は新型コロナ以外の理由で死亡しているということだ。また、新型コロナの流行中、インフルエンザによる死者数は激減した。この相殺により、日本における新型コロナの影響は最近10年のトレンドから予想される範囲内に収まっている(図1の赤線の範囲)。一方、アメリカでは既に82万人以上が新型コロナに罹って死亡した。国によって歴然とした違いがある。しかし、日本で少ない理由は、遺伝的なものなのか、ほとんどの日本人がマスクをするなど他者に迷惑をかけまいと努力している結果なのか、それとも他の因子なのか、複合要素なのか、未だ分かっていない。

図1.日本における月間総死亡数の推移(2010年1月から2021年10月まで)

2011年3月の死亡者数が多いのは東日本大震災の影響である。

年末頃よりオミクロン株の市中感染が増え始めた。欧米では市中感染が始まってから1~ 2週間程度で突然オミクロン株のオーバーシュート(感染爆発)のフェーズに入っている。日本においても新型コロナ陽性者数が1月2日は553人だったが、3日は782人、4日1268人、5日2491人と急増し始めた。最悪1日で倍のペースで増えるとしたら8日には2万人に達する計算になる。昨年8月20日に1日25,992の発症があったが、遅くとも来週中には記録を更新するのは間違いない。ゲノム解析結果が追い付いていないが、おそらく10日くらいでオミクロン株に置き換わるだろう。

では、今冬日本の新型コロナ感染状況はどうなるだろうか?危険因子は以下だ。第一に、先に述べたように1月は新型コロナが流行せずとも死者数が増える。ましてやオミクロン株のオーバーシュートと重なれば最悪の事態もあり得る。第二に、多くの高齢者のワクチン予防効果は切れている。高齢者に対して3回目のブースター接種を2月から始めてもオミクロン株のオーバーシュートには間に合わない。第三に、オミクロン株の感染力の強さだ。仮にデルタ株よりオミクロン株の方で重症化率が低かったとしても感染者数が極端に多ければ、死亡者数は増える。そこでキーとなるクエスチョンは「オミクロン株の重症化率がデルタ株と比較してどれくらい低いか?」だ。

12月30日、南アフリカの重症化率に関するデータがJAMA(アメリカ医師会雑誌)に発表された[1]。下表でおおまかに第1波は従来株、第2波はベータ株、第3波はデルタ株、第4波はオミクロン株である。第3波までは50代が年齢の中心であり、半数以上が何らかの合併症を持っていた。一方、第4波時、すなわちオミクロン株流行時では年齢の中央値が30代で合併症は3人に1人に満たない。ワクチン接種率は24%であった。デルタ株の第3波と比較して確かに重症化率は低く入院期間も半分以下である。これは比較的若い人が多く、若ければ重症化しても死には至らず回復したためかもしれない。実際、死亡率も29%対2.7%で10分の1未満であった。しかし、患者数がデルタ株時の10倍など極めて多くなれば、計算上は死亡者の絶対数もデルタ株並に増える。また入院患者の2.7%が死亡するということは、単なる風邪として高を括るわけにはいかない。ICU入院率もおよそ4割減程度なので、オーバーシュートすれば病床逼迫に至る可能性は高い。

表.南アフリカの時期別新型コロナ重症化率

実際、発症率に比べて死亡率は低かったのだろうか?オミクロン株の流行が最も早く始まった南アフリカの新型コロナ発症率と死亡率の推移を見てみる(図2)。夏のピークはデルタ株である。発症率に比べ死亡率が高いのが分かる。12月に入りオミクロン株がオーバーシュートしたが17日にピークアウトしている。発症率のピークから死亡率のピークは2~4週間遅れるのが常だ。死亡率は未だにジリジリと増え続けている。どこまで増えるか判らない。しかし、オミクロン株の死亡率はデルタ株の時と比べて数分の1程度まで低いことは間違いなさそうだ。

図2.南アフリカの人口100万人あたりの新型コロナ発症率(PCR陽性者)数(移動平均)と死亡率(移動平均)(2021年6月1日から2022年1月4日まで)

南アフリカに続いてオミクロン株の急増がみられたイギリスはどうだろうか?南アフリカとはスケールが違うので注意いただきたいのだが、デルタ株のときとは比べものにならないくらいオミクロン株患者の増加スピードが速い(図3)。しかも、未だに垂直といってもよいようなスピードで増えている。死亡率がどうなるかの判断も時期尚早だ。しかし、発症率が増減する割に死亡率の増減が極めて緩やかで両者がほとんど連動していなのがイギリスの特徴といえる。これはワクチン、特に3回目のブースター接種を国民の半分が済ませた効果なのではないだろうか?つまり、ブースター接種でデルタ株もオミクロン株も重症化を一定程度抑えることができるということだ。このことは病床逼迫を回避するのに大いに役に立つ。イギリス保健当局は、オミクロン株に感染した場合の入院(重症化)リスクが3回目のブースター接種により88%も減少することを発表した。一方、2回のワクチン接種で72%のリスク減だが、2回目接種から半年以上経つと52%にその予防効果は低下することも付け加えた。オミクロン株が30代と比較的若い人の間で広がるとすれば、日本の若い世代は接種から半年以内が多く、よって日本では欧米よりも重症者が出難いかもしれない。

図3.イギリスの人口100万人あたりの新型コロナ発症率(PCR陽性者)数(移動平均)と死亡率(移動平均)(2021年6月1日から2022年1月4日まで)

我が国日本はどうか?まず、イギリスのグラフとは桁が違う点、ご注意いただきたい(図4)。日本では昨年夏、オリンピックパラリンピックの真ん中で発症率のピークを迎えた。それでもイギリスのピークよりは小さいものであった。1カ月遅れて死亡率のピークが現れたが、イギリスではその数倍の状態が慢性的にダラダラと続いている。日本国内でみると大変な状況であったが、海外と比較すると奇跡的に新型コロナの発症率と死亡率を低く抑えている。少なくとも現時点までは。

図4.日本の人口100万人あたりの新型コロナ発症率(PCR陽性者)数(移動平均)と死亡率(移動平均)(2021年6月1日から2022年1月4日まで)

皆さんはサージキャパシティという言葉を聞いたことがあるだろうか?サージとは高波のことだ。重症患者の高波が病院を襲うと医療スタッフや人工呼吸器が足りなくなり、平時であれば助けられる命を助けられなくなってしまう。また、医療スタッフが次々と感染しても患者を引き受けられなくなる。軽症患者は自宅あるいは療養施設、酸素の必要な中等症以上は病院に入院、重症はエクモや人工呼吸器を使える大病院にトリアージすることが重要だ。勝負の時が迫っている。

浦島充佳

1986年東京慈恵会医科大学卒業後、附属病院において骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。93年医学博士。94〜97年ダナファーバー癌研究所留学。2000年ハーバード大学大学院にて公衆衛生修士取得。2013年より東京慈恵会医科大学教授。小児科診療、学生教育に勤しむ傍ら、分子疫学研究室室長として研究にも携わる。専門は小児科、疫学、統計学、がん、感染症。現在はビタミンDの臨床研究にフォーカスしている。またパンデミック、災害医療も含めたグローバル・ヘルスにも注力している。小児科専門医。
近著に『新型コロナ データで迫るその姿:エビデンスに基づき理解する』(化学同人)など。


[1] Maslo C, Friedland R, Toubkin M, Laubscher A, Akaloo T, Kama B. Characteristics and Outcomes of Hospitalized Patients in South Africa During the COVID-19 Omicron Wave Compared With Previous Waves. JAMA. 2021 Dec 30. doi: 10.1001/jama.2021.24868.