2021年4月12日、米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、「衛星写真の分析の結果、北朝鮮東部・新補の造船所にあるSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)実験用のバージ船(内陸水路や港湾内で重い貨物を積んで航行するために作られている平底の船舶)からミサイル発射管が除去され、発射管の整備またはSLBM取付けが可能な他の発射管への交換が行われた可能性がある」との分析結果を発表した。また、アメリカのCSIS(戦略国際問題研究所)は、4月7日までに撮影された衛星画像を公開し、「北朝鮮でSLBMの実験に向けた長期的な準備が進められている可能性がある」と発表した。
また4月13日には、米国のランド研究所と韓国の外交安保シンクタンク・アサン研究所が、「北朝鮮核兵器の脅威への対応」という共同研究の報告書を発表し、「北朝鮮は2027年までに、最大240個の核兵器と数十基のICBMを保有する事が可能だ」と発表した。これは、核物質生産量に基づく推計であり、現状の30~40個(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute推計)から、6年後には前出の保有量になるという見積もりに基づいている。報告書は、北朝鮮が今後の外交交渉を有利に進めるためにも、今年中に核実験と弾道ミサイル発射を再開する可能性が高いと見ている。
防衛省の分析によると、北朝鮮はSLBMを搭載できる潜水艦の開発も進めている。北朝鮮は、弾道ミサイル1発を搭載可能なコレ級潜水艦1隻を保有していると見られていたが、朝鮮中央通信は、2019年7月にSLBM 3発搭載可能なロメオ級潜水艦の改修が行われ、金正恩総書記が視察している映像を公開した。この改修が実現すると、弾道ミサイルによる攻撃手段が多様化し、衛星からの探知を避けながら隠密性を保持することで、弾道ミサイルの残存性が向上することになるだろう。潜水艦発射の「北極星」の射程は約1,000キロメートル、「北極星3」の射程は約2,000キロメートルと見積もられ、日本を含む東アジア全体が射程圏内に入ることになり、周辺国にとって大きな脅威になる。
その一方で、北朝鮮の潜水艦は、朝鮮半島を遠く離れて活動した実績がない。潜水艦が潜航して航行するためには海底地形や水温分布などのデータが必要だが、その蓄積がないためだと推察されている。また、北朝鮮はこれまで、「ユーゴ級」や「サンオ級」などの数百トンクラスの小型潜水艇の建造を手掛けてきているが、3,000トン級の大型潜水艦の建造にはかなり高度な技術が求められることから、北朝鮮の造船の技術水準に疑問が投げかけられているようだ。いずれにしても、北朝鮮は国家存続のため、金正恩体制維持のため、引き続き、SLBMをはじめとする核やミサイルの開発を継続し、必要に応じ外交交渉手段として活用してくるものと見積もられる。我が国としては、その動静を注意深く監視していかなければならない。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
写真:新華社/アフロ