本稿は「韓国慰安婦判決など最近の日韓諸問題(1)」の続編となる。
今回のソウル中央地裁の判決について佐藤正久自民党外交部会長は、「『慰安婦動員を計画的、組織的に行い原告たちを誘拐や拉致し、慰安所に監禁したまま常時的な暴力、拷問、性暴行に露出させた』との判決文は、事実誤認どころか、事実を大きく歪曲しており、この日本政府の立場と相容れない判決内容に基づいた『主権免除は適用されない』との判断は到底受け入れられない」と主張した。
第2次世界大戦中のドイツ軍の蛮行に対しドイツとイタリアが争った国際司法裁判所の判決は、「ドイツが強行規範(国際社会全体として絶対に破ることが許されないルールを、ある国家が破れば、例外的な措置が認められるという国際法上の概念)に違反していたとしても主権免除は否定できない」という判例が示されており、韓国の判決は主権免除の解釈を逸脱していると言えそうだ。主権免除の原則から、日本政府は訴訟に応じず、控訴もしない方針だ。このまま放置すれば、判決は〇月23日に確定し、韓国にある日本の国有財産の差し押さえという事態も考えられる。
2021年1月11日、長崎県五島列島南西に位置する女島の西140キロに位置する日本の排他的経済水域(EEZ)で地質調査をしていた海上保安庁の測量船「昭洋」が韓国海洋警察の警備艇により「調査の中止」を要求される事件が発生した。この海域は両国のEEZが重なり合う海域であり、外交ルートを通じた双方の抗議が続いている。日韓両国は、1998年に「漁業に関する協定」を締結しているが、EEZについては領土問題があり合意に至っていない。2018年12月の海上自衛隊の哨戒機P-1に対する火器管制レーダー照射事件の再現にならないことを望みたい。
2021年1月20日、韓国の大統領府は、チョンウィヨン外交安保特別補佐官を外交部長に起用し、「米国のバイデン新政権発足に合わせ、外交に新たな活力を吹き込む」と発表した。文大統領の年頭記者会見での日本に関する発言内容は、「司法判断の尊重」という従来の主張と異なるものであった。米国のバイデン新政権発足にともない将来の米韓関係への配慮があるのか、東京オリンピックを利用した南北朝鮮宥和への布石なのか真意は不明である。バイデン新政権発足により、日韓に横たわる諸問題が解決の方向に動き出すかもしれない。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。