2020年10月、エドワード・ルトワック氏(米戦略国際問題研究所上級顧問)は、『今日、多くの専門家、ジャーナリスト、メディアが論じている「米中対立」は、すでに過去の話だ。現在進行しているのは、アメリカ主導の「海洋同盟と中国との戦い」なのである』と主張した。中国を巡る各国との対立はさらに激化し、2020年10月から12月の僅か2ヵ月の間に、南シナ海、東シナ海での力による現状変更および新疆ウイグル自治区や香港での民族弾圧や人権侵害に対し、日米豪印各国、ASEAN諸国、さらに英仏独各国までもが具体的行動を表明し、対中包囲網構築に動きだすという地殻変動が起きている。これに関連した各国の動きなどをみてみよう。
10月1日、茂木敏充外相はフランスのルドリアン外相、ドイツのマース外相と協議を行い、東シナ海、南シナ海情勢について「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携を強化することで一致した。この動きに関連して11月10日、岸信夫防衛大臣はドイツのクランプ・カレンバウアー国防大臣と東シナ海、南シナ海の地域情勢について意見交換し、引き続き、綿密に連携していくことを再確認した。さらに11月30日、フランス海軍参謀総長ピエール・ヴァンディエ大将が防衛省の岸防衛大臣を表敬訪問し、日仏間の防衛協力・交流をさらに進展させていくことで一致した。
10月6日には東京で日米豪印外相会議(Quad:2019年ニューヨークにて第1回会合実施)が開催され、新型コロナウイルス対策を含め、東シナ海、南シナ海への海洋進出を活発化させている中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋構想」の実現に向けた連携の強化を確認した。この合意に基づき、11月3日~6日、11月17日~20日の期間には、インド洋およびアラビア海において4ヵ国の海軍が参加する「マラバール2020共同訓練」が実施され、4ヵ国の結束状況を内外にアピールした。さらに11月17日にはオーストラリアのスコット・モリソン首相と菅義偉首相が首脳会談を行い、安全保障面の協力強化を確認した。そして自衛隊とオーストラリア軍の相互訪問時の法的地位などを定める「日豪円滑化協定」を締結した。
また、11月14日にはASEAN諸国、日本、アメリカ、中国などが参加した東アジアサミットが開催された。中国による海洋進出により緊張が高まっているとして、去年の「いくつかの懸念に留意する」よりさらに強い表現で、「複数の首脳から深刻な懸念が提起された」との議長声明が盛り込まれた。11月18日にはファイブアイズ(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の外相は、中国が香港に対し言論弾圧を行い、国際義務違反を犯しているという「非難声明」を発表した。
12月5日にフランス軍は、尖閣諸島など離島の防衛・奪還作戦に繋がる日米軍との共同訓練を2021年5月に計画していると公表した。日米仏の艦艇および陸上部隊が集結し、着上陸訓練により中国をけん制し、対中包囲網の強化を内外に示すものだ。さらに、同日、英海軍が最新鋭「クイーン・エリザベス」空母打撃群をインド・太平洋に派遣し、長期間滞在させる計画が明らかになった。在日米軍の支援を受けつつ、愛知県の三菱重工<7011>小牧南工場において艦載機F35Bの整備性についての確認も視野にいれているようだ。
12月13日、ドイツのカレンバウアー国防相は、日本やオーストラリアなどインド太平洋諸国との連携を強化するため海軍のフリゲート艦1隻を派遣すると報じた。中国の南シナ海での領有権主張に強い警戒感を示しており、日本を含め周辺国との共同訓練を行う計画であり、中国の南シナ海の軍事拠点化などの現状変更の試みに対し、海洋秩序の維持のため、今後も深く関与していく方針を示したものだ。
日米豪印の4ヵ国、ASEAN諸国、そして英仏独3ヵ国が加わった国々が対中包囲網を構築している。一方、中国は、10月5日、国連総会第3委員会(国連総会の6つの主要委員会の1つであり、主に社会開発や人権問題について取り扱う委員会)において張軍国連大使が北朝鮮、イラン、キューバ、南スーダンなど26ヵ国を代表してアメリカと西側諸国による「人権侵害」を批判している。前述の「非難声明」に対しても、中国外務省の趙立堅報道官は、「ファイブアイズ5ヵ国は目玉を突かれないよう注意せよ」と外交儀礼上極めて非礼な暴言を吐いた。人権を重視する民主主義的価値観を有する国々と、高圧的で自己中心的な全体主義的価値観の国との対立となるのだろう。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。