2020年11月19日、三井E&S造船の玉野艦船工場で海上自衛隊平成30年(2018年)度計画護衛艦(30FFM)「くまの」の命名・進水式が挙行された。海上幕僚監部は、本艦型の艦種記号を「FFM」とし、諸外国の同程度サイズの艦艇が使用する「FF(フリゲート)」に加え、機雷戦「Mine Warfare」の「M」および多機能を意味する「Multi-Purpose」から「M」を冠して新たな艦種記号「FFM」を付与したと説明している。「くまの」は2022年3月、海上自衛隊(海自)に引き渡される予定である。同型艦は毎年2隻ずつ建造し、旧型護衛艦の入れ替えを含め20隻以上の建造が計画されている。
艦名は奈良県、和歌山県、三重県を流れる1級河川「熊野川」に由来し、海自としては「ちくご型護衛艦10番艦」に続く2代目の艦名となる。「くまの」は、全長133.0メートル、全幅16.3メートル、深さ9.0メートル、喫水4.7メートル、基準排水量は3,900トン、乗員数は約90名、主機関がガスタービンエンジンとディーゼルエンジンの組み合わせで出力7万馬力、速力で約30ノット、建造費が約470億円である。従来艦と比較すると、省人化に努めて船体はステルス化・コンパクト化する一方で、調達コストはかなり抑制されており、従来護衛艦と一線を画した多任務対応の画期的な艦艇である。
「くまの」は30大綱(平成30年(2018年)12月18日閣議決定「平成31年(2019年)度以降に係る防衛計画の大綱」)に基づいて、省人化技術を駆使して従来艦艇の乗組員の約半数の90名で運用する予定だ。また、防衛省によるとクルー制の導入が計画されており、3隻の護衛艦に対し、4組のクルーを配置し、3組が稼働中に1組を休養させ、検査や修理以外の停泊期間を短縮し艦艇の運用効率の向上を目指す考えだ。また、レーダー反射面積の低減と上部構造物にも傾斜角を持たせ、さらに甲板上の構造物や投揚錨機器など露頂物の艦内への収納によりステルス性の高い構造としている。
「くまの」は従来の艦艇の指揮・通信、情報収集機能、対空戦・対水上戦、対潜戦能力に加え、機雷戦能力を有している。様々な要因により機雷掃海部隊の規模縮小が検討され、さらに掃海部隊に水陸両用戦能力の追加付与が検討されている。掃海艦艇の減勢後も所要の機雷戦能力を維持するために、さらには島嶼戦闘における対機雷戦を遂行するために本艦の機雷戦での活躍が期待されている。対機雷戦のための新型ソーナーシステム、機雷排除用水上無人機(USV : Unmanned Surface Vehicle)および機雷捜索用水中無人機(UUV : Unmanned Underwater Vehicle)の導入など、新たに機雷戦のための運用能力が付与されている。
菅義偉首相は2020年10月の初外遊で、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領と会談し、防衛装備品や技術協力に向けた協議を推進することで合意した。報道によると、両国の防衛相がテレビ会議を行い、南シナ海におけるインドネシアの防衛強化のため日本からの護衛艦供与が計画されているという。そして、その俎上に挙がっているのがこの「30FFM」とのことである。これが実現すれば、安倍晋三前首相による2014年の「防衛装備移転三原則」決定後、初めての艦艇の輸出となる(2020年8月フィリピン国防省と三菱電機<6503>との間で警戒監視レーダーの輸出契約が成立している)。防衛装備品の輸出は、輸出相手国と防衛上の緊密な信頼関係が構築され、国内の防衛基盤の拡充や調達価格の抑制に繋がるというプラスの面がある。しかし、もし輸出護衛艦が「30FFM」に決定される場合には、最新鋭の護衛艦の防衛技術や防衛秘密が第3国に漏洩する可能性があるという懸念を解消しなければならないだろう。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。