海上保安庁は、2020年10月15日から11月10日の間、海上自衛隊八戸航空基地において遠隔操縦無人機シーガーディアンの実証実験を行った。シーガーディアンは、米国のジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ社(GA-ASI : General Atomics Aeronautical Systems Inc.)製MQ-9Bの海洋観測仕様の機体である。機体の全長は約12メートル、全幅は約24メートル、飛行速度は時速約400キロ、最高飛行高度は13,000メートル、連続飛行時間は35時間である。一回の飛行で日本の排他的経済水域(EEZ:Economic Exclusive Zone)の外側を1周できる性能を有している。
シーガーディアンは、地上のコントロール施設から遠隔操縦により、地上滑走、離着陸、巡航飛行を行う大型無人機だ。音声による不審船への警告ができ、各種レーダー、自動船舶識別装置(AIS:Automatic Identification System)受信機、光学カメラ、赤外線カメラ、フルモーションビデオセンサーを装備している。これらの機器も地上のコントロール施設からの遠隔操縦により操作でき、衛星通信によるデータリンクなどを介してタイムリーに取得した情報を地上に送信し、海難事故の捜索や不審船の監視に際して、迅速に対応することが可能なシステムである。
今回の実証実験では、三陸沖洋上エリア、日本海エリア、小笠原洋上エリアで計13回、約150時間の飛行が実施された。飛行性能、操縦性能、各種装備機器の機能確認、通信の確達状況などが確認された。今回の実証実験は「海上保安庁体制強化に関する方針(平成28年・2016年12月21日閣議決定)」に基づき、広域海上監視を行う海上保安庁の任務遂行に遠隔操縦無人機の導入が有効なのかを検証するものであった。閣議決定「別紙」には、「我が国周辺海域を取り巻く情勢」について、(1)外国公船、外国漁船による尖閣諸島領域侵入等、(2)外国海洋調査船の活動の活発化、(3)その他の我が国周辺海域における重大な事案(小笠原諸島周辺の中国サンゴ漁船の違法操業、沖ノ鳥島周辺の外国漁船による違法操業、北朝鮮による核実験やミサイル発射)、が示されている。海上保安庁には、領海警備、治安の確保、海難救助、自然災害への対応、海洋調査など海上の安全及び治安の確保という任務を果たすため、関係機関との連携、協力体制の強化を図り、広域の海洋監視体制の強化が求められている。
今回の実証実験では、遠隔操縦無人機の導入が広域の洋上監視に極めて有効であることが証明された。しかしながら、実証実験以前から、日本で遠隔無人機を導入する場合にはいくつかの課題が存在していることはわかっていた。日本国内の航空法は現在、小型ドローンを対象とした飛行承認の手続きや飛行禁止地区の設定など規定されているが、大型遠隔操縦無人機に関する規定が存在しない。シーガーディアンは遠隔無人機の標準化仕様である北太平洋条約機構(NATO)の耐空性要件を満たした型式証明を取得しているが、日本での認証が未整備である。また、日本における遠隔無人機の操縦資格、認証、教育体系も全く存在しない。運用上の観点からは、どこの飛行場を拠点とするか、代替飛行場の選定をどうするか未定である。さらに、本質的な予算の確保や導入費用の考慮も必要となってくる。その他いくつかの懸案事項なども残されているという。
我が国周辺の厳しい海洋環境において海上保安庁の体制強化は、国家の安全にとって急務であり、遠隔操縦無人機の導入は有効な対応策となることを期待し、国を挙げての体制作りを望みたい。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。