2021年6月24日、陸上幕僚監部は、「令和3年度豪州における米豪英軍との実動訓練『タリスマン・セーバー21』の概要」を公表した。この訓練の目的は、豪州において豪陸軍、米及び英海兵隊と実動訓練を実施し、部隊の水陸両用作戦に係る戦術技量の向上並びに4カ国の連携の強化を図ることである。訓練期間は、2021年6月25日から同年8月7日の間であり、陸上自衛隊からは水陸機動団第2水陸機動連隊が参加する。陸上幕僚監部は、本訓練の特色として「(1)豪州において実施する豪陸軍、米及び英海兵隊との4カ国による初の実動訓練である。(2)豪軍艦を使用して、豪陸軍等参加各部隊と水陸両用作戦に係る訓練の実施である」と発表した。前回実施した「タリスマン・セーバー19」は日米豪3カ国であったが、今回初めて英国が加わった。
2021年6月25日、岸防衛大臣は定例記者会見において、調整中であると前置きした上で、「本訓練の一環として、日米豪軍のほか、カナダ・韓国を加えた5カ国の艦艇による海上作戦の実施も計画されている(筆者注:前回タリスマン・セーバー19においては護衛艦「いせ」及び輸送艦「くにさき」隊員約500名が参加している)。わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中で、訓練をつうじた自衛隊の即応性の向上や、同盟国・同志国との連携強化を重視し、島嶼防衛能力の一層の向上を図り、『自由で開かれたインド太平洋』のビジョンを共有する国々との結束を深めていく」と決意を述べている。
2021年6月1日、豪国防軍当局によると、「今回の訓練には、従来の米豪軍の部隊に、日、英、加、韓、ニュージーランドの兵士が参加し、フランス、インド、インドネシアがオブザーバー参加を予定している。豪統合作戦本部長のグレッグ・ビルトン中将は、外国兵力約1,800人を含み1万7,000人が今回の訓練に参加する。現在感染が拡大している新型コロナウイルスのパンデミックのため、今年の訓練の規模は例年よりも限定的になる」と昨年の2万人の訓練規模が縮小される見込みだと述べた。
一方、2021年7月2日、陸上自衛隊と米陸軍は、鹿児島県奄美市の奄美駐屯地で、陸自と米陸軍の最大規模の日米共同訓練「オリエント・シールド21」の訓練の一部を報道陣に公開した。今回、公開されたのは、両部隊の防空共同指揮所の運営と両軍のパトリオット、陸自中SAM(中距離地対空誘導ミサイル:Surface-to-Air Missile)の展開訓練であった。今年の訓練には、陸自中部方面第8高射特科群、米側は沖縄県嘉手納基地の第38防空砲兵旅団など陸自約1,400人、米陸軍約1,600人、合計約3,000人が参加している。
訓練状況を視察したジョエル・B・ヴァウル在日米陸軍司令官は、「地域の潜在敵対勢力に対し、われわれの共同能力の高さで、日本のどこでも一体的な防衛ができることを示すことができた」と訓練の意義を強調した。また、吉田陸幕長は「奄美は南西諸島の主要な島で国防の重要拠点である。日米の高射部隊が真剣に訓練に取り組み、日米の共同対処の実効性が確実に向上している」と訓練の手応えを語っている。
防衛省は5月に日米豪及び仏と4か国共同訓練「ARC21」を実施した。陸上自衛隊は、離島防衛を想定し、陸上自衛隊と仏陸軍、米海兵隊とともに宮崎、鹿児島両県にまたがる霧島演習場などで着上陸演習を行い、報道陣に公開している。海上自衛隊も米海軍、豪海軍、仏海軍の艦艇と防空訓練、対戦訓練、着上陸訓練などを主要訓練とする日米豪仏共同訓練を実施している。
2021年7月1日、中国の習近平国家主席は、中国共産党創立100周年記念式典において、「軍事力に基づく強国実現」を強調した。わが国周辺の安全保障環境は厳しさを増しつつある。そのような中、防衛力の充実強化は喫緊の課題であるが、一朝にして成就できるものではない。さらに、中国やロシアという大国に対し、日本一国で軍事的侵攻を抑止するような体制を構築するのは非現実的である。多国間共同訓練の実施は、我が国の抑止力を向上するために、大きな効果が期待できる。ACSA(物品役務相互援助協定)や「武器等防護のための武器使用の適用」など限定的とはいえ、集団防衛の体制作りが行われている。今後は、憲法改正や同盟関係の樹立などさらなる強固な国家関係の構築が必要になるものと考えられるが、当面できるだけ多くの国と共同訓練を積み上げていく必要があるだろう。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。