2021年1月18日、韓国の文在寅大統領は、大統領府で新年の記者会見を行った。会見で
日本政府に対し賠償を命じた元慰安婦による訴訟の判決(2021年1月8日、ソウル中央地裁)について、「日韓の懸案について外交努力をしている最中に元慰安婦判決が加わり困惑している」と述べ、さらに、徴用工問題について、「日本企業の資産現金化は望ましくない」と述べた。従来の三権分立を盾に「司法の決定を尊重する」立場から「外交努力による解決」へ方針変更したように見受けられる。
2021年1月19日、自民党外交部会(会長:佐藤正久参議院議員)は、茂木敏充外相に対し、「韓国地方裁判所の慰安婦判決に対する文在寅政府への是正措置を要求する決議文」を手交した。佐藤外交部会長は、「慰安婦判決内容は事実を誤認、歪曲し、1965年の日韓請求権協定および2015年の日韓慰安婦合意の内容を大きく逸脱している」と主張した。
さらに、今回の慰安婦判決は、国際通念上一般に認められている主権国家が互いの平等を認め合う「主権免除の原則」をも否定しており、国際法上到底受け入れることがでず、国際司法裁判所への提訴、新駐日大使の事前同意の撤回などの対抗措置を取るよう求めた。ここで、日韓の条約、協定や合意内容について、自民党外交部会(以下、「外交部会」という)の主張をみてみよう。
2018年7月、河野太郎外務大臣は、日韓関係に関する談話を発表した。その要旨は、「1965年、日韓両国は、国交正常化に際して『日韓基本条約』および『日韓請求権協定』を締結し、この合意に基づき、友好協力関係を築くことを締約した。日韓基本条約の第1条では、当時の国家予算が約3.1億ドルの韓国に対し、無償3億ドル、有償2億ドルの経済協力を行うとともに、第2条では、両締約国およびその国民(法人を含む)の財産、権利および利益並びに両国及び両国民の間の請求権に関する問題は『完全かつ最終的に解決』されており、いかなる主張もすることはできないことを定め、日韓関係の基礎としてきた」である。外交部会は、「請求権に関する問題はすべて韓国政府が、韓国内で解決されるべき問題だ」と主張している。
次に、外交部会は、日韓慰安婦合意について次のような見解を示している。2015年12月に岸田文雄外務大臣は、ユン・ビョンセ韓国外交部長官ともに日韓間の慰安婦問題に関して「最終的かつ不可逆的に解決した」ことを確認した。当時、米国のジョン・ケリー国務長官も両国の合意に歓迎の声明を発表している。慰安婦合意の内容は、『日本側が、(1)内閣総理大臣のお詫び、(2)癒し財団の設立への10億円の拠出、を行う一方で、韓国側は、(1)在韓国大使館前の少女像撤去、(2)公館の安寧・威厳の維持、(3)国連等国際社会における非難・批判を控える』というものであり、外交部会は日韓慰安婦問題をすでに「解決済み」の国家間合意として捉えている。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。