ロシアのウクライナ軍事侵攻開始から1年が経過したが、戦争終結までの道筋は全く見えない。NATOを中心とする西側諸国の支援疲れも指摘されている。このような中、1月20日、ドイツの米空軍基地においてウクライナ支援国会議が行われ、ドイツ「レオパルトII」戦車のウクライナ供与が大きな議題となった。
レオパルトII戦車は、ドイツ国内のみならず、コソボやアフガニスタンにおける平和維持活動や、トルコ軍のシリアにおける使用という実戦経験を通じ、その有効性が実証されている。現在では、欧州13カ国、カナダ、インドネシア、シンガポールと様々な国の主要戦車となっている。ウクライナがレオパルトIIを強く望む理由は、その性能のみならず、ポーランド、フィンランド、ノルウェーといった近隣国が採用しており、運用やメンテナンスなどの支援を受けやすいことが挙げられる。
レオパルトII供与に関してドイツの動向に関心が高まったのは、単にレオパルトII生産国であったことだけではない。実は、購入国が他国に提供する場合、ドイツの承認が必要という規定がある(第3カ国規定)。同戦車の保有国は、ウクライナに提供したくても、ドイツの承認なしには実施できない枠組みとなっているのである。
1月24日、ドイツ紙「シュピーゲル」は、ドイツ政府がレオパルトIIをウクライナに供与することと、同戦車を保有する国がウクライナに供与を希望した場合に移転承認を出すことを決定したと伝えている。この決定に基づき、ノルウェー及びポーランドが供与を決定している。ドイツの決断の背景には、米国がエブラハム戦車の供与を決定したことがあると伝えられている。
ドイツ政府は、レオパルトIIの操縦訓練に6週間は必要だとしており、すでに関係者の教育が開始されている。レオパルトIIが実戦配備されるのは、早くても3月下旬と見られている。これら戦車が供与されることで、ウクライナ軍が戦闘を有利に進めることでできるとすれば、ドイツはウクライナ戦争のキャスティングボードを握った形になる。ドイツがレオパルトIIの供与を躊躇した理由の一つは、将来ロシアの敗北が決定的となった際に、ドイツがその勝利に貢献したとの理由で、ロシアとの関係が修復不可能となることを恐れたからではないかと推定されている。
ドイツはまさに、自ら定めた規定(第3カ国規定)で、自らを苦しい立場に追い込んだと言える。
ドイツは日本にとって他山の石
今回ドイツが置かれた苦しい立場は、防衛力強化の一環として防衛装備の移転を強化しようとしている日本の安全保障政策に重要な教訓を示している。
昨年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」の中に、「我が国防衛体制の強化」が挙げられ、「防衛装備移転3原則・運用指針」を始めとする制度の見直しがうたわれている。しかしながら、3原則そのものは維持し、運用の透明性等を確保するとの方針が明らかとなっている。ここで言う3原則とは、①移転を禁止する場合の明確化(国際法や国連決議違反及び紛争当事国への移転の禁止)、②厳格審査と情報公開(国際平和貢献又は安全保障面での協力国に限定)、そして③目的外使用及び第三国移転の事前承認である。今回のドイツの決断をこの3原則に照らすと、全てに違反していることになる。
日本はウクライナ支援として、ヘルメットや防弾チョッキを供与しているが、防衛装備移転運用指針の海外移転を認める案件に、「ウクライナに対しては譲渡」という項目を加えることで、整合性を取っている。しかしながら、今後一段と複雑性と厳しさを増す国際環境において、防衛装備品の移転を進めつつ、運用指針に個別具体的に許可事例を積み上げていくやり方には限界がある。
日本の特異ともいえる防衛装備移転に関する考え方は、防衛装備開発の国際的枠組みにも悪影響を与える。昨年12月、日英伊政府は戦闘機共同開発に合意した。公表された共同首脳声明には、同事業を「グローバル戦闘航空プログラム(Global Combat Air Programmer(GCAP))」と呼称、三カ国の防衛基盤を強化することに加え、米国、NATO及びインド太平洋諸国との相互運用性を確保する事がその意義としてうたわれている。2035年までに開発するとされているが、開発した戦闘機をグローバルなマーケットに展開していくことも当然視野に入っているであろう。
その場合、日本の防衛装備移転3原則、特に紛争国への移転禁止や第三国移転の事前承認が大きな障害となる。自らが輸出する戦闘機のみならず、英国及びイタリアが海外に販売する機体にまで移転禁止や事前承認を求めるのか、あるいは本戦闘機を防衛装備移転3原則の対象外とするのか大きな決断を迫られるであろう。
防衛装備移転3原則の前身である「武器輸出3原則」は、平和国家として武器輸出は行わないという理想を体現したものであり、法律としてではなく政府の方針を政令手続きとして執行する事で運用されてきた。そのため、時の政権次第でその性格を大きく変えている。1976年の三木首相の政府統一見解では「武器の輸出を慎む」として、事実上武器輸出を禁止している。2014年に見直された防衛装備移転3原則も、「いかに武器輸出に高いハードルを設けるか」というDNAを色濃く受け継いでいる。
装備武器の高性能化、高額化から新たな装備品の共同開発は国際的な潮流となっており、今後とも増加するであろう。さらに、ウクライナ戦争が明らかにした教訓に、国家の継戦能力は、価値観を共有する諸国と装備武器の相互運用性を高めることにかかっているということがある。ウクライナがNATOと共通する装備体系を保有していれば、ウクライナ支援は、はるかに容易かつ迅速に行われたであろう。
一方で、経済安全保障上、いかにわが国独自、あるいは共同開発した技術を守るかという視点も必要である。そのためには、契約上の縛りをかけるだけではなく、米国からFMS調達した装備品に見られるように、手を付けた場合には破壊される「ブラック・ボックス」化する事や、分解調査する事により同一装備を製造する「リバース・エンジニアリング」といったことを物理的に許さない仕組みが必要であろう。
2月1日、訪日中のストルテンベルグNATO事務総長は、都内で講演を行い、その中で「今日ヨーロッパで起きていることは、明日東アジアで起こりうること」と述べている。レオパルトII戦車の供与を巡って厳しい立場に置かれたドイツの姿は、将来台湾有事を巡って日本が直面する可能性のある姿でもある。防衛装備移転3原則の抜本的見直しを期待したい。
提供:Ukrainian Governmental Press Service/ロイター/アフロ