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2022.11.04 外交・安全保障

「言わせず」「考えさせず」を加えた非核5原則の愚、有識者会議では核議論を早急に

末次 富美雄

 ロシアのウクライナ侵攻開始から9か月を迎えようとしているが、戦争が終結に向かう兆しはない。むしろ、ロシアは核使用に関する曖昧な発言を繰り返すとともに、最近では「ウクライナが汚い爆弾を使用する可能性がある」との不確かな情報を喧伝している。

北朝鮮のミサイル発射は続く

 北朝鮮の動きも活発だ。北朝鮮が10月以降に発射した弾道ミサイルを含む各種ミサイルは、過去に例を見ない頻度と数となっている。3日には射程1万キロメートルを超える大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星17」を発射。当初、日本上空を飛翔(ひしょう)し、太平洋に落下したと見られていたが、失敗に終わった。

 北朝鮮は2017年11月29日、射程1万㎞を超える大陸間弾道ミサイル「火星15」の試験に成功し、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が「核体制の完成」を宣言した。「射程15000㎞を超える核先制、報復攻撃能力の高度化」は、北朝鮮国防開発5か年計画の主要事業であるため、今後も発射は継続される可能性が高い。同時に、超大型核爆弾や小型核爆弾開発のための核実験も行うだろう。

非核5原則と言われても仕方ない?

 日本の対応はどうか。岸田文雄政権は厳しい安全保障環境を乗り切るため、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を設置し、10月末までにすでに2回開催した。

 ウクライナ戦争が始まってからというもの、ロシアは天然ガスや小麦などの穀物を武器化し、北大西洋条約機構(NATO)を中心とした西側諸国はそれに経済制裁で対抗している。あらゆるものを武器とする戦争が現実のものとなっており、政府の認識は当を得ていたと言えよう。

 「第1回有識者会議」の資料のなかでは、日本周辺の国家(中国、ロシア、北朝鮮)が持つ弾道ミサイルと核戦力に対する懸念が示された。とくに、米露の新戦略兵器削減条約(新START)の枠組みに入らずに核弾頭増強に専念する中国を注視する必要がある。中国は2030年までに少なくとも1000発の核弾頭を保有し、米露に匹敵する核大国となると予想されているのだ。

 日本への核の脅威が高まるなか、10月に行われた「第2回有識者会議」の資料に「核による威嚇」への対応として記されているのは「米国の核抑止」だけだった。脅威を認識しながら自らは何もせず「米国頼り」というのは、あまりにも無責任と言わざるをえない。

 岸田首相は「非核3原則は日本の国是」と主張するが、「議論もせず、考えもしない」のは、最近ちまたで言われている「非核5原則」にほかならない。非核5原則とは、「持たず、作らず、持ち込ませず」の3原則に「言わせず」「考えさせず」を加えたものだ。

米国頼りもたいがいに

 米国防省は27日、「国防戦略」、「核体制の見直し」、「弾道ミサイル防衛見直し」の戦略3文書を公表。「核体制の見直し」については、中国、北朝鮮、ロシアの核を抑止し、必要であればこれに対応する能力やコンセプト、展開、訓練を統合し、同盟国や友好国との関係を強化する。さらに、核抑止に関する「意思決定」、「戦略的メッセージ」、「その他の活動」について、韓国、日本、オーストラリアと実務的な協議を進展させる模様だ。

 これに対して外務省は、10月28日にホームページ上で外務大臣談話を掲載し、日米拡大抑止協議を含むさまざまなレベルで核抑止について緊密に協議する方向性を明らかにした。

 核兵器という、人間の生活だけではなく人類の文明の破壊をも招きかねない危険な兵器の使用について、日本としてはなんのコンセンサスも持たないまま「日米拡大核抑止協議」に委ねて良いのか。疑問が残る。

核抑止は容易に破られる

 ウクライナ戦争がNATOとロシアの戦争に拡大しないのには、相互に「核の抑止」が効いているからだという見方がある。一方で、ロシアや北朝鮮による核の恫喝(どうかつ)は、核抑止が片方の考え方で容易に破られる危険性を示してもいる。核兵器を保有せずNATOの集団防衛の枠組みも適用されないウクライナが、ロシアから一方的軍事侵略を受けている現実を注視する必要があるだろう。

議論すらしないのは危ない

 日本に対するアメリカの「核の傘(核兵器による拡大抑止)」の実効性を高めるためには、米国の核体制の見直しに示された「核兵器使用の意思決定手順」を明確化し、日本の領域での核使用への日本の意思を反映することが必要だ。そして、日本における核抑止の実効性を確保していることを周辺諸国に明確に示す「戦略的コミュニケーション」も求められる。

 前述した外務大臣談話では、米核体制の見直しのなかの「核兵器の役割低減」という言葉が取り上げられ、「核兵器のない世界」という日本の取り組みを広げる観点から評価すると記されていた。唯一の被爆国である日本が核兵器廃絶に向けて取り組む重要性に異論はない。しかしながら、厳しい安全保障環境を見た場合、現実と理想のバランスを取ることもまた重要だ。

 日本の安全保障に核をどう位置づけるか。国民的議論の呼び水として、有識者会議では核論議を慫慂(しょうよう)する提言が出されることを期待したい。

末次 富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。

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