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2022.08.29 外交・安全保障

観艦式、7年ぶりに招待も 「韓国軍への不信感払しょく」には道のり遠く

末次 富美雄

 松野博一官房長官は23日、11月に実施が予定されている海上自衛隊主催「国際観艦式」に、韓国軍を招待したことを明らかにした。「観艦式」はおおむね3年に一度、総理大臣を観閲官として神奈川県沖の相模湾で実施している。今年は、海上自衛隊創設70周年記念として多数の海外艦艇を招待する「国際観艦式」として開催する。

 2019年に予定されていた観艦式には、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、シンガポール、インドに加え初めて中国が招待され、ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦「太原」が日本を訪問した。台風による災害派遣に備えるために観艦式そのものは中止されたが、「太原」は横須賀(神奈川県)と晴海(東京)に入港し、在日中国人から熱狂をもって迎えられている。この観艦式に、韓国軍は招待されていない。

「旭日旗問題」と「火器管制レーダー照射問題」

 日韓の間には、元慰安婦や元徴用工問題に加えて竹島という領土問題があり、政治外交上の懸案となっていることは周知のとおりである。しかしながら、北朝鮮や中国という共通の脅威に直面している両国には、安全保障上の課題に対しては政治とは一線を画して協力するという共通理解があると、防衛省関係者は認識していた。

 この考え方に冷水をかけたのは、2018年10月に開催された韓国主催の国際観艦式における「旭日旗問題」と2018年12月に起きた「火器管制レーダー照射問題」であった。前者は、韓国軍が韓国入港にあたって海上自衛隊護衛艦の識別旗である「自衛艦旗(旭日旗)」の使用を自粛するよう申し入れたもので、後者は日本の排他的経済水域(EEZ)において警戒監視中の海上自衛隊哨戒機(P-1)に韓国駆逐艦が火器管制レーダーを照射した事実を否定し、逆に自衛隊哨戒機の低空飛行を批判したものである。

自衛艦旗は「国家の顔」

 歴史問題や両国国民の感情問題とは別に、純軍事的観点から見ると、この2つの出来事は重大な問題をはらんでいる。

 自衛艦旗(旭日旗)は、国際法上軍艦として掲揚を義務付けられている標識であることに加え、国家が戦争に敗れて降伏する際に、軍艦旗(自衛艦旗)を降ろすことが常識となっている、いわば「国家の顔」ともいえる存在である。

 2018年10月4日の記者会見において、当時防衛省統合幕僚長だった河野克俊氏は「海上自衛官にとって自衛艦旗は誇りとしての旗だ。降ろしていくことは絶対にない」と強調しているが、これは武装集団として常識的な考え方を示したものだった。韓国軍の軍人・退役軍人がそのことを認識していなかったはずは無い。知っていながら、軍人として常識に欠けるような政府の決定に、唯々諾々と従ったことが大きな問題なのである。

 もちろんシビリアン・コントロール(文民統制)の観点から政治家の決定に従うのは当然のことではあるが、これにより自衛官の韓国軍人に対する信頼が一気に低下したことに疑いの余地はない。

事実そのものを否定した韓国防衛省

 「火器管制レーダー照射問題」はさらに根が深い。防衛省は各種データを示し、海上自衛隊の哨戒機が韓国駆逐艦から火器管制レーダーを照射されたことを明らかにしている。これに対し、韓国国防省はその事実を否定するだけではなく、逆に日本の哨戒機の低空飛行を非難するという態度に出ている。

 事実の解釈についての意見の相違によって対立することは理解できる。中国も南シナ海における米軍哨戒機の低空飛行をしばしば非難している。しかしながら、火器管制レーダーの照射という事実そのものを否定することは、武装集団としての存在意義を傷つける行為だ。

 これは、たとえば日米韓が北朝鮮の弾道ミサイル対処のため共同部隊を編成した際に、警戒監視を割り当てられている韓国艦艇が日本に向かう弾道ミサイルを探知しても、適切な通報や処置を実施せず、「探知していない」、「気がつかなかった」と言われかねないということだ。そのような武装集団と行動をともにすることはリスクでしかない。

文在寅前政権、レーダー照射を是認していた?

 これを巡っては、韓国紙の中央日報が18日、上述の韓国軍によるレーダー照射問題が発生したあとに、当時の文在寅(ムン・ジェイン)前政権が「日哨戒機対応指針」として、2回警告しても近接する自衛隊機には火器管制レーダーを照射して対抗するよう規定していたことを報じている。

 一方で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)現大統領は、日本の植民地支配からの解放を祝う8月15日の「光復節」における演説で、日本を「普遍的価値を共有するパートナー」とし関係改善に意欲を示している。このことから、中央日報の報道が何らかの意図を持ったものである可能性は否定できない。しかし、韓国国防省は事実関係の確認に対する回答を拒否しており、指針が現在でも有効な可能性がある。

 そもそも、火器管制レーダーの照射は、韓国も参加する「西太平洋海軍シンポジウム」で合意されている他国艦艇と予期せず遭遇した際の行動基準「海上衝突回避規範(CUES)」において、砲やミサイルの照準と並んで避けるべき行動に規定されている。つまり、韓国は日本を特に危険な存在として意識し、日本に対しては国際的な決め事をも破ることを是認していた可能性がある。

尹新政権、低迷する支持率どう乗り越える?

 ロシアのウクライナ侵攻や中国の台湾周辺における大規模演習、北朝鮮の挑発的な発言などという日本周辺の国際情勢を鑑みると、日韓が協力を進める必然性はこれまで以上に高まっている。新たに発足した尹政権は日韓関係改善に意欲的で、バイデン米政権も、激化する米中対立を受けて日韓関係が緊密化することを強く望んでいる。

 一方で、韓国政府が国際観艦式の参加のために、尹政権の低迷する支持率や野党が優勢な韓国国会をどう乗り切るかは見通せない。安全保障上の観点からは、日本が主催する国際観艦式への韓国軍の参加は良いアピールとなる。日本は、日韓関係で積みあがった「恩讐(おんしゅう)」を超えて、韓国との関係改善に踏み出すべきだろう。

軍同士の信頼回復には努力が必要

 一方で、酒井良海上幕僚長は23日の記者会見で、韓国軍の国際観艦式招待について、「多国間(マルチ)の枠組みで招待したもの。旭日旗問題とレーダー照射問題は二国間で整理・解決されるべき」と述べ、自衛隊側の韓国軍への不信感が依然として残っていることを示した。不信感の払しょくには時間がかかるだろう。

 おりしも、多国間海上演習「環太平洋合同演習(RIMPAC=リムパック)」終了後の今月8日から14日までの間は、ハワイ周辺海域で日米豪韓加5か国共同のミサイル警戒演習「パシフィック・ドラゴン」が行われた。当面は、このような多国間の枠組みを通じて軍同士の信頼関係を回復させていくしかない。

 日韓が協力して周囲の脅威に対抗していくまでには、政治、外交上の恩讐を超えたうえで、さらに軍同士の信頼回復という地道な努力を積み重ねる長い道のりが待っている。

末次 富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。

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