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2022.07.28 安全保障

太平洋・南シナ海を舞台とした米中ほか各国の知られざる「軍事外交」
― JNF briefing by 末次富美雄

末次富美雄

 「今」の状況と、その今に連なる問題の構造を分かりやすい語り口でレクチャーする「JNF Briefing」。今回は、元・海上自衛官で、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令などを歴任、2011年に海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官した実業之日本フォーラム・末次富美雄編集委員に、「軍事外交」の視点で、太平洋・南シナ海における海軍艦艇の活動が意味するものは何なのかについて解説してもらった。

 「軍事外交」という言葉は、あまりなじみがないかもしれません。これは、軍隊を外交のツールとして使うことを指します。防衛省は「防衛外交」という言葉を使用していますが、内容は同じです。「軍事外交」は相手を破壊するという軍事力の直接的使用ではなく、平時におけるプレゼンスや軍隊が持つ影響力を外交に生かすというものです。

 次の図で示しているのは、現在、太平洋・南シナ海において各国の海軍艦艇の活動状況です。

 欧州方面におけるロシアのウクライナ軍事侵攻が注目されていますが、南シナ海および太平洋でも各国海軍艦艇が活発に活動していることが分かります。

 これらの活動を軍事外交という側面から見ますと、1つには、力の誇示、力を相手に見せつける行動があります。米軍空母「レーガン」の機動部隊やオーストラリアの潜水艦の南シナ海における活動はプレゼンス、存在の誇示に該当すると考えられます。米海軍駆逐艦のパラセル諸島における「航行の自由作戦」や台湾海峡通過もアメリカの外交方針を力で示したと言えます。他の軍事外交としては、二国間および多国間での共同訓練があります。これは、軍を使用した関係強化と言えます。

 上海沖では、中国とパキスタンの海軍共同訓練が7月10日から13日まで実施されています。

太平洋のパラオ共和国周辺では「パシフィック・パートナーシップ2022」が海上自衛隊や米海軍等が参加した訓練が実施されています。

 また、ハワイでは「RIMPAC 2022」という26カ国が参加する大規模訓練が実施されています。

 本日は、この中で、上海沖で行われました中国・パキスタン海軍共同訓練、それと、パラオ共和国において実施されています「パシフィック・パートナーシップ」について解説していこうと思います。

 次の図は、中国・パキスタンの海上演習「SEA GUARDIAN 2」について、中国解放軍報が報じた内容をまとめたものです。同演習は7月10日から13日までの間行われました。

 参加部隊は、中国の東部戦域軍のジャンカイⅡを含めた艦艇3隻および潜水艦、早期警戒管制機、戦闘機、ヘリコプターが、パキスタン海軍からはフリゲート艦(タイムール)が1隻でした。訓練項目は、文化・スポーツ交流と海上訓練(水上射撃、対潜船、対空・対ミサイル戦)と報道されています。

 次の図はパキスタン海軍艦艇を分析したものです。

 パキスタン海軍のタイムールは中国のジャンカイⅡ級FFGを基に設計されたと認められます。一部装備が異なっています。

 英国IISS(国際戦略研究所)がまとめている年鑑『ミリタリー・バランス』には、各国海軍の艦艇等の保有状況が掲載されていますが、2021年度版のパキスタン海軍にこの船は載っておりません。最新式の船だろうと思われます。

 なお、対空射撃の目標と推定される標的機の発射シーンが公開されておりました。この標的機を見ると、海上自衛隊が使用している高速無人標的機BQM-74Eに非常によく似た標的機です。この標的機を見るかぎり恐らくは亜音速の標的と推定でき、現在主流となっている、超音速のミサイルに対する訓練は実施されていないということが判明しました。

 パキスタン海軍艦艇が、どのように海上訓練に参加したのか不明でありますが、中国とパキスタンの関係緊密化というものがうかがえます。

 次の図に示しているのは、パキスタン海軍の主要艦艇です。

 潜水艦はフランス製、フリゲートもアメリカのペリー級、イギリスのアマゾン級という西側装備で占められていましたが、2006年から中国のジャンウェイⅡ級、さらには今回、新たなジャンカイⅡと思われるものの新しい装備と中国製にシフトしつつあります。後方支援や整備を考えるとどちらかに統一したほうが効率的です。

 軍の装備と国家間の依存度というのは高い相関性を示すということが言われていますがパキスタン軍の装備には注目が必要だと思います。

 次の図は、パシフィック・パートナーシップ(PP)の概要を示しています。

 パシフィック・パートナーシップは、2007年から米海軍を主体として東南アジア、南太平洋および太平島嶼国で行われています。各国政府、軍、国際機関、NGOと協力して、参加国との連携や、災害救援活動の円滑化などを図る活動です。インドネシアの津波やフィリピンの台風被害において円滑な災害支援ができたのは、PPの成果だと評価されています。

 パシフィック・パートナーシップは、文化交流のような軍の活動ではないものも含んでいる点に特徴があります。

 昨年実施されたPP2021は、コロナの影響からオンラインで実施されましたが、軍楽隊の演奏の配信や人道支援・災害救援セミナーを中心に実施されています。

 2014年のPPでは海上自衛隊の揚陸艦「くにさき」や空自Ⅽ-1が参加し医療や輸送に係る技量支援の向上というものが図られています。この訓練には自衛隊だけではなく、NGOの方々も参加して、自衛隊の艦艇に寝泊まりしていろいろな活動をしています。

 図は、ことしのパシフィック・パートナーシップ(PP22)の概要を示しています。

 実施期間は、7月15日から昨日の19日までとなっています。海上自衛隊の護衛艦「きりさめ」はIPD第2水上部隊となっていますが、これはインド・パシフィック・デプロイメントの略称です。現在、RIMPACに参加している2隻とこの「きりさめ」、合わせて3隻が、今後、インド・太平洋方面に展開するという計画になっています。米海軍からは病院船「マーシー」、沿岸警備隊、イギリス海軍の哨戒艇、パラオの巡視船がPP2022の参加部隊となっています。

 米海軍「マーシー」は図全長272メートル、満載排水量7万トンの病院船です。病床数は1,000を超え、集中治療室80床、非常に大きな動く病院と言えます。通常は民間人スタッフが乗員として管理しており、必要に応じて海軍の医療関係者を招集して5日以内に出港する体制を取っています。「マーシー」が太平洋方面、同形艦の「コンフォート」が大西洋方面と両岸で1隻ずつ配備しています。

 米軍が大規模な軍事行動をする場合は、必ずこの船が動きますので、この船に招集がかかって、出港したということになりますと、アメリカ軍が何らかの軍事活動を考えているということがわかる、そういう意味での指標になっている船でもあります。

 米軍は統合訓練である「バリアント・シールド」という訓練をパラオ周辺において実施しています。

 パラオでは、対地、対空ミサイルの発射やF-35の展開を行っています。パラオの戦略的な位置づけを次の図で示します。

 第一列島線と第二列島線との間に位置することに加えて、台湾と国交を結びインフラの投資を受けています。図の左に大統領府の写真を載せていますが、この建物の傍らには台湾からの支援で建てたという碑が立てられています。地理的にも政治的にも太平洋方面における非常に重要な国家であると言えます。

 次の図はパラオの歴史を示しています。

 当初はスペイン領、次いでドイツ領になり第1次世界大戦の結果、パリ講和会議で、日本の信託統治とされ、南洋庁が設置されています。1943年の居住者約3万4000人の中の2万5000人は日本人でした。

 日本陸海軍が根拠地としたことから第2次世界大戦における激戦区になっています。パラオ大空襲、のほか、パラオ南部にありますペリリュー島、アンガウル島では守備隊が玉砕しています。

 ペリリューとアンガウルの戦いは硫黄島に先立って行われた戦闘ですが、日本軍の死者よりも米軍死傷者のほうが多いという稀有な例となっています。もっとも日本軍の場合は、玉砕していますので、ほとんどが死者ですが、米軍の場合には、大体1~2割ぐらいが死者、あとは負傷者となっています。いずれにしてもかなり激しい戦いが行われたということが言えます。

 2015年に現在の上皇御夫妻がペリリュー島を訪問して、戦死者を慰霊されています。

 太平洋島嶼国家に対して日本は関係強化に努めています。

 太平洋・島サミット(PALM)を1997年から主催しており、3年ごと、日本でこの会議を実施しています。参加国は、図ニュージーランド、オーストラリアを含めて19カ国となっています。

 昨年7月のPALMの第9回サミットでの合意事項を次の図左下に示しました。

 新型コロナへの対応に加えて、気候変動・防災、それと人的交流・人材育成がうたわれています。

 今年5月に中国・王毅外相が太平洋島嶼を訪問し安全保障を含んだ関係強化を進めようとしましたがあまりうまくいきませんでした。PALMをつうじた日本の関与を各国が考慮した可能性が有ります。

PALMでも挙げた人的交流・人材育成の1つの参考として、JMAS(Japan Mine Action Service)、日本地雷処理を支援する会の活動を紹介します。

JMASは、2002年に退職自衛官を中心に設立された組織です。「オヤジたちの国際貢献」ということで、現在ではカンボジア、ラオス、パラオ、ミクロネシアで活動しています。

 カンボジアでは、地雷・不発弾処理、学校建設、農業支援を実施しています。ラオスではクラスター弾子爆弾の処理、パラオでは沈船にある爆雷の処理、あるいは技術移転、ミクロネシアでは沈船の漏油対策、技術移転というものをやっています。

 次の図にパラオにおける事業の概要をまとめました。コロール島、マラカル湾に沈んでいる通称ヘルメットレック(旧日本海軍の徴用船)に積載された爆雷の処理を行っています。

 爆雷の数を164個と見ていましたが、作業が進むにつれ全体が見えてきたことから現在で500以上が存在していると見ています。この図下段にありますように、海底から引き揚げ、海上輸送の後、陸上で焼却処分するという作業を実施しており、現在でもう4年目になります。

 この爆雷は1個約160キロ、極めて重く炸薬の原料が下瀬火薬、ピクリン酸ということで、これが海中に漏れ出した場合には、海洋生物に大きな影響を与えるとともに、世界有数のダイビングスポットであることから、観光客に健康被害を与える恐れがあるというものです。

 ヘルメットレックは水深30メートルに沈んでいます。ダイバーがボンベを背負って潜り、この爆雷をそれぞれ1つずつ処理しています。深深度における密閉空間作業であり、高度な技術と経験が必要です。1回の作業時間というのは15分程度で、1日2回ぐらいしかできません。こういう作業を進めながら、パラオ人にこの技術を移転しています。

 

 今日の解説をまとめます。

 米中対立が激化する中で、それぞれが陣営の拡大に努めています。現在では東南アジア諸国や太平洋島嶼国家が米中の綱引きの最前線となっています。単なる経済支援だとか技術支援だけで関係強化は図れないと思います。先ほどのPALMにもありましたけれども、やはり人的支援、人的な能力向上が必要ではないかと思っています。

 幸い、歴史的親近感ゆえに、あるいはPALMなどの活動を通じて、太平洋島嶼国家の日本への期待はいまだに大きなものがあります。

 パラオやミクロネシアは、アメリカからの経済支援を受けていますがこれは「動物園政策」と揶揄されています。お金を渡す、経済的に支援するというだけで、それぞれの国家の自立にはつながっていないという批判です。日本がやっています人に対する貢献というのは非常に重要であり、軍事外交の一環としても重要だろうと思っています。

 図の下部は、「きりさめ」がパラオに入港しました際に、パラオ日本人会会員を招待して、艦内見学したときの写真を載せました。こういう活動が非常に重要だと思っています。

末次富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。