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2022.07.06 安全保障

G7に対抗する中露参加のBRICS首脳会議、リトアニアに怒るロシア
― JNF briefing by 末次富美雄

末次富美雄

 「今」の状況と、その今に連なる問題の構造を分かりやすい語り口でレクチャーする「JNF Briefing」。今回は、元・海上自衛官で、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令などを歴任、2011年に海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官した実業之日本フォーラム・末次富美雄編集委員に、ここ数日にあった安全保障に関連するトピック「BRICS首脳会談」「リトアニアをめぐる動き」「RIMPAC」の3点について解説してもらった。

 今日は安全保障に関連する話題を3件解説していきます。

 最初の話題は「BRICS首脳会談」です。6月には「EU首脳会談」、「G7サミット」そして「NATO首脳会談」と立て続けに西側諸国の大きな国際会議か開催されました。「BRICS首脳会談」はそれら一連の会議に併せるように、中国が主催し、オンライン形式で実施されました。BRICSとは、後で詳解しますが、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の5つの強い新興国を総称したものです。

下図はBRICS首脳会談における中露首脳の発言を示しています。

 習近平主席は、「一方的制裁の乱用に断固として反対」と、ウクライナ侵攻に伴う、ロシアへの経済制裁を批判し、「覇権を中心に構築された『小さなサークル』を拒否する」と述べています。明らかにEU首脳会談、G7及びNATOを意識した発言と言えます。違いを際立たせることにより、国際社会にどちらの陣営に属するのか、と踏み絵を迫るものです。

 プーチン大統領の発言をロシア大統領府のホームページで確認したところ、「特定の国の誤った利己的な行動のために世界経済に現れた危機的状況」との認識を示しています。

 あわせて、国際法の普遍的な規範と国連憲章の主要原則に基づく真に多極的な国家関係の形成が必要とも言っております。国連憲章を無視しウクライナに軍事侵攻したロシア首脳の発言とは思えない発言です。

 最後に、アジア、アフリカ及びラテンアメリカの多くの国から支援を期待することができるという言い方をしており、先ほど申し上げたような、いわゆる陣取り合戦というものの傾向がBRICS首脳会談でも見てとれるかなと思います。

 次のスライドは、BRICSの概要を示しています。

 2000年代前半に、投資会社の専門家が、経済成長著しい4カ国(ブラジル、ロシア、インド及び中国)を指す言葉として使われたのが最初です。「S」は複数の「S」でしたが、2011年に南アフリカが参加し、BRICSという5カ国の枠組みができています。

 2011年の「三亜宣言」で、「政治、外交、安全保障、経済、社会、文化」の幅広い分野で協力を進めるということが確認されています。もともと発展途上国の全体的な利益を代表する枠組みとしての位置づけでしたが、極めて広い範囲での協力関係構築を目指すとやや性格を変更しています。

 世界人口の約40%、国土面積の約30%、GDPで約25%を占める大きな枠組みです。

 今回採択されました北京宣言の中で注目されるのは「制度的発展」を図るとされている点です。これはBRICSを拡大していこうというものです。中国は今回の首脳会談に併せ、「グローバル発展高位級対話参加国」を主催し13カ国を招待しています。赤字で示しておりますアルゼンチン、インドネシア、セネガルは、G7サミットの招待国にもなっています。まさに、どの国をどの陣営に位置づけるかという形での綱引き、あるいはそれぞれの国がどっちを選ぶかのという点について駆け引きが行われていと言えます。

 次のスライドはBRICS共同宣言の注目点です。

 第一は、国連憲章へのこだわりです。対話と協議を通じて、国家間の相違と紛争を平和的に解決するということも強調しています。ウクライナ戦争に関しましては、ウクライナ問題に関して表明された国別立場を想起するということと、ロシアとウクライナの交渉を支持すること、そして人道支援をやりますというようなことが記載されております。

 最後に、BRICS制度化については、「BRICS拡大プロセスの推進を支持する」というような表現となっています。

 ウクライナ問題に関し、「国別立場を想起する」という言葉で、ロシアへの一定の配慮というのは認められるのかなと思います。

 また、先ほど申し上げたように、NATO、EUへの対抗軸としてBRICS参加国を拡大していくという意図は見えますが、「完全な協議とコンセンサス」に基づいて拡大プロセスを進めるという表現が加えられています。メディアなどではインドがこの表現を入れることにこだわったのではないかと分析されています。QUADの一員でもあるインドとしては、BRICSがEUやNATOの対抗軸となることは望んでいないという分析はうなずけるところです。

 したがって、BRICSは、拡大に意欲を示していますが、インドが入ることにより一定のバランスを取ることができるという観点から、インドの役割に期待するところは大きいと思います。

 また、今回の共同宣言を見ると、国連憲章に言及しております。ロシアのラブロフ外務大臣は、幾度となく「ウクライナを攻撃していない」という言い方をしておりますが、あくまで「特別軍事行動」であって、ウクライナを攻撃しているわけじゃないというロジックを維持するのであれば、国家総動員を発令し、戦争状態を宣言することはできません。ロシアとして、ある程度の制約を意識せざるを得ないということも言えます。

 下図は、エネルギーとクリーンエア研究センターという研究所が発表した資料です。ロシアのウクライナ侵攻後のロシアの化石燃料の輸出状況を示しております。100日間で930億ユーロ(約13兆3000億円)を得ています。そのうちの61%はEU諸国になっています。

 現在EUは経済制裁やウクライナへの軍事支援を積極的に行っていますが、実は、ロシアの戦費をEUが補っているということも言えます。そういった意味では、今までの戦争とかなり違う様相があると言えると思います。

 なおEUは6月に新たな経済制裁、海上輸送による石油輸入禁止というのを今後6カ月以内に行うと決定しています。この効果が出てくるのは来年以降になろうかなと思います。特に原油輸送に、現在、ロシアの原油輸送は西側のタンカーを使用しておりますので、そういった方面からも今後、大きな影響が出てくるかなと思います。

 しかしながら、G7でもロシア産原油価格の上限設定についての合意は得られませんでした。各国経済の根幹となるエネルギー確保の観点から本音と建前を一致させることがいかに難しいかを表していると言えます。

 いずれにせよ、こういう化石燃料も含めて、EUがある程度ロシアに依存せざるを得ないということを考えれば、経済制裁でロシアが疲弊するまでは時間を要すると言え、この戦争自体は長期化せざるを得ないという事は間違いないかなと思います。

 2つ目の話題はリトアニアをめぐる動きです。下図は、リトアニアがロシアの飛び地であるカリニングラードへの鉄道輸送を規制することを明らかにしたことを説明するものです。

 カリニングラードへの鉄道輸送は、ロシアからベラルーシまたはラトビアからリトアニア経由行われています。リトアニアがカリニングラードの自由な行き来を保障するという条件で、ロシアはリトアニアのEU加入を認めました。ロシアにとってみれば、今回のリトアニアの決定は、約束違反と捉えることができます。

 カリニングラードはロシアのバルト艦隊の基地が設けられており、戦略的要衝と言えます。6月21日、ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は、リトアニアに対して報復措置をとると警告しています。また、プーチン大統領も、ベラルーシに核兵器搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を数カ月以内に配備するというのを明らかにしております。

 報復措置がこれで終わるのか不明ですが、ウクライナ侵攻を継続しつつロシア軍が何らかの形で軍事侵攻を行う余力に欠けていると見られる上、リトアニアはNATOの一員であることから、軍事侵攻はやりづらいと考えられます。リトアニアにとってみれば、そういう事情を見据えた上でリトアニア自身の存在感の誇示というものを意図したのではないかと思います。

 最後の話題は、6月29日から開始されているRIMPAC22について。その概要を説明します。約1カ月間、参加国は26カ国というかなり大規模な訓練になります。

 RIMPACは、もともとはソ連の脅威に対抗する枠組みとして開始されました。参加兵力が過去最大規模であったのは1984年の5カ国、艦艇80隻、航空機250機、人員約5万人というものでした。

 それに比較しますと、現在の規模は、参加国自体は増えていますが艦艇、航空機あるいは人員も減っています。

 ソ連崩壊後にその脅威が減少した上に、ロシアや中国が参加することにより軍事的な訓練という意味合いが薄くなり、災害救助だとか、対テロということで、かなり迷走したという指摘があります。しかしながら、中露への招待が取り消されたことからより戦術的な軍事訓練の色合いが強まりつつあります。

 自衛隊にとってRIMPACに参加するという事は、戦術技量を向上させるというだけではなく、自らの実力が国際的にどのレベルにあるのかというのを具体的に把握できる貴重な機会となっています。更には、その実力を示すことによって、抑止力となることを期待するという意味があります。

 今週のブリーフィングは以上です。

 

末次富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。