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2022.06.08 安全保障

ロシアは協調相手から脅威へ?――NATOの役割・組織ほか欧州安全保障の基礎知識

末次富美雄

 「今」の状況と、その今に連なる問題の構造を分かりやすい語り口でレクチャーする「JNF Briefing」。今回は、元・海上自衛官で、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令などを歴任、2011年に海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官した実業之日本フォーラム・末次富美雄編集委員が、NATOをはじめとした欧州における安全保障の枠組みについて解説する。

 本日は、「欧州における安全保障の枠組み」について説明します。

 最近、フィンランドおよびスウェーデンが、NATO(北大西洋条約機構)に入ることが話題になっています。欧州の安全保障の枠組みはNATOだけではありません。

 5月30日には、EUの臨時首脳会議が行われ、ロシア原油の輸入禁止措置に関する話し合いが持たれました。最終的には、ハンガリーの反対で、船による輸入のみを禁止することになり、パイプラインによるものは禁止されませんでした。このように、EUは安全保障においても一定の役割を果たしています。

 下図に、欧州の安全保障の枠組みを示しました。外務省の資料に基づいて作成しています。

欧州安全保障協力機構(OSCE)は世界最大の安全保障枠組みです。57カ国が加盟しています。そのほか、NATOが30カ国、そしてEUが27カ国。ロシアが中心になった枠組みである集団安全保障条約(CSTO)には6カ国が加盟しています。

 OSCEは、後ほど詳しく話しますが信頼醸成が主たる目的の枠組みです。ロシア、ウクライナなどを含む大きな枠組みとなっています。アジアにも北朝鮮が含まれるAFRと呼ばれる、同じような枠組みがあります。

 EUとNATOの参加国は、21カ国が重複しています。これに、スウェーデン、フィンランドが加わりますと、32カ国中23カ国が重複するというような位置づけになります。

 枠組みを見ていただければわかりますが、やはりウクライナ、ジョージア、アゼルバイジャンというような紛争が多い地域は、OSCEにのみ加盟していて、ほかの安全保障の枠組みには入っていません。紛争が多いから入れないのか、入らないから紛争に巻き込まれるのかというのは難しいところですが、事実として、安全保障機構に入ってない国が、より高い確率で紛争に巻き込まれているということは言えると思います。

 OSCEの概要を示します。

 左の図が参加国、57カ国、紫色の部分です。OSCEは、もともとは欧州の安全保障協力ということで、1970年代前半に、NATOとワルシャワ条約機構の加盟国の間の中欧における相互均衡兵力削減交渉の場として発足しています。しかしながら、ワルシャワ条約機構が消滅したことに伴い、欧州の中で信頼醸成を行う機関というものに変質しました。

 しかしながら、ロシアのグルジア侵攻だとか、クリミア併合を経まして、西側諸国とロシアの関係が悪化して以降、本来ならばOSCEは、軍事的側面からの安全保障のみならず、経済、人権に至るまで包括的な分野の安全保障のための枠組みですが、現在のウクライナ侵攻に関しましては、全く存在感を示すことができておりません。これが、強制手段を持たない枠組みの限界かなとは思います。

 OSCEの事務局はウィーンにあります。軍事組織はありません。

 OSCEは紛争地域に特別監視団を派遣しています。ウクライナでは、情勢の安定、治安回復、ミンスク合意の履行状況のモニターなどをやっていました。ここに日本も、資金提供や外務省職員の派遣などの貢献をしてきています。

 次いでNATOの概要を図に示しました。

 皆さんご存じのとおり、NATOは1949年、第2次世界大戦終了後にアメリカを中心として、欧州における安全保障のための機構として成立しています。

 当初は12カ国で発足していますけれども、その後、拡大の一途をたどり、1990年3月に、かつてのワルシャワ条約機構の国々、ポーランド、チェコ、ハンガリーが加入。その後もどんどん加入国が増え、現在、30カ国で構成されています。

 NATOの特徴としては、日本と価値観を共有する集団防衛組織であることが挙げられます。また、治安維持支援、能力構築支援および周辺地域の安全保障に関与する組織でもあります。海洋安全保障、サイバー防衛などグローバルな課題にも対応する組織として、中心は欧州でございますけれども、グローバルな課題にも対応する組織という位置づけにもなっています。

 下図にNATO(北大西洋条約機構)の主要条文を示します。

 何と言っても5条がNATOの中心です。5条に、NATOに所属する1つの国または2以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなして、締約国は、国連憲章の認める個別的または集団的自衛権を行使すると規定されております。集団的自衛権を自動的に行使するという規定ですので、日米安保よりもかなり強い集団的自衛組織と言えます。

 下図はNATOと域外国との関係です。

 NATOは欧州における集団安全保障の枠組みですが、周辺地域それぞれで、対話や協力の枠組みを持っています。

 例えば、欧州の平和のためのパートナーシップ(PfP)には20カ国が加盟しており、ここにはロシアも入っています。ほか、「地中海ダイアローグ」では地中海の諸国、「イスタンブール協力イニシアティブ」では中東諸国との協力の枠組みとなっています。さらに「世界におけるパートナー」ということで、日本を含め、9カ国がパートナー国に指名されています。

 なお、NATOロシア理事会(NRC)というのがありますが、これは2002年5月に設定されたものです。NATOの拡大に対するロシアの懸念を払拭するために設けられた組織と位置づけられております。

 次のスライドは、NATOの組織です。

 軍事組織が大きな比率を占めているということが言えます。平時から強力な軍事機構を有しておりまして、各国軍人が常駐しております。自衛隊からも3人が派遣されております。

 下図は、NATOの軍地基地の配置図を示しております。

 NATOは2014年のロシアのクリミア併合を受けて、対露軍事態勢を見直しています。即応性向上のため、NFIUs(NATOのインテグレーションユニット)と呼ばれる、有事にNATO部隊を受け入れるための出先機関を常設していますが、この設置場所を見ると、地図の三角の場所、やはり東欧諸国ですね。つまり、ロシアの圧力を一番受けやすいところにこのユニットが設けられています。このユニットは、NATOから20名、受け入れ国から20名、合計40名の部隊で編成されています。

 2016年には、さらに即応力を高める必要があるということで、4500人の隊員からなる部隊を5個、バトル・グループを編成し、これらをローテーション配備しています。

 NATOは、両者を中核としまして、48時間以内に4万人を緊急展開できる体制をとっています。

 なお、2018年には新たなアクションプランとして、30個大隊、30個飛行隊、30隻の艦艇を30日以内に展開できる体制をとるという方針が示されています。

 下図は現在のNATOの戦略概念です。

 この戦略概念は、2010年11月に策定されたもので、もう10年以上たっています。

 この段階では、ロシアは協力すべき相手と認識されています。NATOの中核的な任務は集団防衛、危機管理、協調的安全保障とされていますけれども、集団防衛の中でも、弾道ミサイル攻撃などに関しては、ロシアおよび欧州のパートナーと積極的に協力するとされていますし、協調的安全保障の中でも、NATO・ロシア間の協力は戦略的に重要というような表現になっています。

 昨年6月、NATOの首脳会談でストルテンベルグ事務総長は、ロシアとNATOの関係は、冷戦終了後最悪であると述べ、この原因は主にロシアにあるとして、ロシアを批判しています。

 NATOは2022年6月に新たな新戦略構想を発表するとしていますので、どのような形になるか、ロシアをどのように位置づけるかというところが注目されます。特に、この2010年の戦略構想の概念の中には中国というものの存在がほとんど触れられておりませんので、今後、ロシアとともに中国をどう表現するのかというのが注目されます。

 昨年のNATO首脳会談で、ストルテンベルグ事務総長は、中国の存在は、NATOに脅威を与えているというような認識を示しています。ただし、主にアフリカ、北極海、サイバー分野の脅威とし、インド太平洋に関しては、それほど関心のあるエリアとは認識されていないと思われます。

 次の図は、日本とNATOとの関係です。

 2010年にはNATOと秘密保護協定(GSOMIA)を締結しておりますので、防衛交流が極めて活発に行われているということが言えると思います。

 日本・NATOのパートナーシップ協力計画としてサイバーを初めとして9つの協力分野、優先分野が示されています。

 この中でも、自由で開かれたインド太平洋ということを考えますと、海洋安全保障という枠組みの中でどこまで協力を進められるのかという点については、今後、注目していく必要があるかなと思っています。

 次いで、EUについて改めて見ていきましょう。

 ご存じのとおり、もともとEUは経済的な枠組みである欧州経済共同体(EEC)として発足し、欧州共同体(EC)、そして欧州連合であるEUと発展してきました。現在では、欧州連合条約に基づいて、通貨同盟、共通外交・安全保障政策、あるいは刑事司法協力など幅広い分野での協力を進めています。イギリスが一昨年、このEUから撤退しましたが、経済同盟として役割はまだまだ大きいものがあると思います。

 安全保障分野での協調にの役割も担っています。欧州連合条約第42条に、国連憲章に基づき、域外において、平和維持活動、紛争抑止、国際平和強化のために軍を使用することを規定しています。

 このための組織として、欧州連合戦闘群――これは大体1,500人ぐらいの部隊、大隊規模の部隊ですけれども、これを18個持ちまして、いつでも派遣できる体制をとっています。

 そのほか、欧州連合部隊として、必要に応じ部隊が編成されます。このために、各国は、提供する軍のリストを作成し、指示があれば派出するという位置づけになっています。今まで、ユーゴ、ボスニア及びソマリア沖に派遣された実績があります。

 そのほか、2017年にはPESCO(常設軍事協力のための枠組み)というものを結び、サイバーを含め60の分野で共同事業を行っております。

 最後にフィンランドおよびスウェーデンのNATO加盟申請に対する私の考えをお話します。今年5月、両国はNATOに申請書を提出しました。

 これに対し、モスクワで開催されたCSTO 6カ国の首脳会談で、プーチン大統領は、「フィンランドとスウェーデンによるNATO拡大は、CSTOにとって直接的な脅威ではない」

と言い切っています。ただし一方で「両国の領土で軍事的インフラが拡大する事態になれば、確実に、我々は対応する」とも発言しています。

 この「軍事的インフラが拡大する事態」というのはどういう意味なのか不明ではありますが、先ほど説明したように、NATOがNFIUs、部隊設置のための受け入れ先の機関や、あるいはバトル・グループと呼ばれる4500人規模のローテーションを配備をするようになれば、これを軍事的インフラの拡大と解釈する可能性はあると思います。

 ただ、フィンランド、スウェーデンともに、すでにEUの枠組みでNATO軍と共同演習を行っています。特にフィンランドは、レオポルド戦車や60機規模のF-18C/D(ホーネット)を所有し、NATO諸国との共通の武器体系さらには共同訓練を通じてインターオペラビィティ(共同運用能力)を向上させていますので、かなり強力な軍事力と言っていいと思います。したがって、現在、ウクライナ侵攻で兵力に余裕のないロシア軍が対応するのは難しく、新たな侵攻を企図する可能性は低いのではないかと分析しています。核兵器を中心として周辺に軍事力を展開して圧力を加える以外の直接的な対応は想像できないと考えます。

 フィンランド、スウェーデン両国のNATO加入は、ロシアのウクライナ侵攻がなければこの時期に実現することはなかったということを考えますと、プーチン大統領にとっては大きな誤算と言えますし、最終的に今回のウクライナにおける紛争が、終結に至っても、この2カ国がNATOに入ったということはロシアにとってみれば大きな失点、あるいは戦争自体が敗戦と位置づけられるのではないかなと考えられます。

 以上で今週の報告を終わります。

末次富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。