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2022.06.01 安全保障

「遼寧」ほか中国艦艇の動き、中露爆撃機の共同巡航、自衛隊の活動を妨げるもの

末次富美雄

 「今」の状況と、その今に連なる問題の構造を分かりやすい語り口でレクチャーする「JNF Briefing」。今回は、元・海上自衛官で、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令などを歴任、2011年に海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官したサンタフェ総研・末次富美雄上席研究員に、日本の安全保障に関わる最新トピックをアップデートしてもらいつつ、その裏面にある課題について解説してもらった。

 本日は、最近の日本周辺における中国およびロシアの活動を踏まえ、日本の安全保障体制の脆弱性について説明したいと思います。

 5月の中旬以降、日本の周辺で中国の艦艇が活発に活動しています。

 下図は、防衛省がホームページで公表しているものを地図上に表したものです。

 5月19日に沖縄と宮古島の間を、ルーヤンⅢを初めとする3隻が南下しています。これは、ソマリアで中国が実施している海賊対処活動の交代部隊です。今までは台湾海峡を通っていましたが、今回はわざわざ沖縄と宮古の間を通って行きました。

 5月20日、21日の両日、西太平洋で活動していた遼寧グループ合計8隻が、それぞれ日を分けて通っております。

 5月22日には、ジャンカイⅡというフリゲート艦2隻が対馬海峡を経由して日本海に入っております。

 5月23日には、ソブレメンヌイ1隻が沖縄・宮古間を通って南下したという状況でした。

 今回は、この中国海軍艦艇の活発な動きに対して、防衛省、海上自衛隊がどのような形で対応したかということを確認し、日本の安全保障体制の脆弱性という点について説明いたします。

 中国海軍艦艇のそれぞれの動きに対して、海上自衛隊は、船もしくは飛行機を出して対応しています。しかしながら、警戒監視として十分とは決して言えません。5月19日は、駆逐艦等3隻に対して支援艦「あまくさ」しか対応しておりません。5月20日にも同様です。5月23日のソブレメンヌイ1隻についてはP-3C哨戒機1機だけでの対応でした。

 海上自衛隊の行っております警戒監視は、情報収集とともに不法な行為をさせないということで圧力を加える面もあります。支援艦「あまくさ」は1,000トン以下の支援船です。大砲やミサイルといった装備は一切保有していません。監視として十分な兵力ではないにもかかわらず「あまくさ」で実施せざるを得ない状況が生起しているということで、これは、由々しき状態です。本日は、なぜこのような状況といなっているのかという点を中心に説明します。

 なお遼寧グループですが5月3日から20日の間、沖縄の南方で行動し、発着艦は300回以上だったと防衛省は発表しております。これは、今までで一番長い行動であるとともに一回の活動で確認できた最多の発着艦回数でした。

 下図に示しているのは中露戦略爆撃による共同巡航です。5月24日に中国の爆撃機2機とロシアの爆撃機2機が合同で、日本海から東シナ海及び太平洋方面を共同で行動しました。その際、日本海中部にはロシアの情報収集機1機が飛行しています。これは、長距離爆撃機に対する日本の対応状況を確認する意図があったものと推測できます。

 防衛省は、航空自衛隊戦闘機をスクランブル発進させて、継続的に監視を行っています。

 前日にクアッドの首脳会談がありましたので、完全に中露でクアッドに対する圧力と考えられます。

 図の右の写真は、防衛省が公表した写真です。TU-95とH-6×2機が共同で飛行している姿です。

 なお、中露戦略爆撃機の共同巡航というのは、今まで、毎年1回の割合で確認されております。2019年以降、今回で4回目ですが、今までの中で一番長く太平洋方面に行動しました。

 この活動に関して、先ほどの船の動きにもう一度戻りますと、実は、対馬方面から日本海に抜けたジャンカイⅡ×2隻と沖縄と宮古島間を南下いたしましたソブレメンヌイ×1隻は、共同巡航に関連して、洋上のターゲットとなった可能性もあるのではないかと考えられます。

 今回の戦略爆撃の共同巡航は、クアッドに対して中露の軍事的親密さを誇示する行動であったと言えます。

 なぜ自衛隊の活動が制約されてしまっているのか、十分とは言えない対応しかできなくなっているのかを見ていきましょう。下図は自衛隊の活動が制約されているという事を予算面から説明する資料です。

 令和4(2022)年度の防衛予算の内訳です。いわゆる人件・糧食費が約40%、一般物件費が19.0%、歳出化経費――これはいわゆる後年度負担で、飛行機だとか、船だとかをつくるのには何か年かの計画でつくりますので、そのコストを示すものです――が41.1%という割合になっています。

 この防衛予算のうちの一般物件費に当たる20%が、防衛装備を動かす、例えば戦車、艦艇及び航空機の燃料だとか、維持整備費等、いわゆる稼働率に直接影響を及ぼすものに使われます。

 令和4年度の概算要求では5兆5,000億ぐらいあるんですけれども、実際、活動経費として使えるのは1兆円ということです。人件・糧食費や歳出化経費は一定であり、新たな任務が加わるとこの一般物件費で対応せざるを得ません。このため、必要な訓練や演習ができないという事象も生起します。

 一方、後年度負担はいろいろな装備だとか弾薬とかというものを買う予算ですので、あまりこちらを減らすと、逆に継戦能力――戦いを続ける能力に影響が出てきま。総じて、硬直した予算制度となっていると認識しております。

 次に、自衛隊の活動を制約する要因として挙げられますのは、人的制約です。これは、皆さんご存じのとおり、少子高齢化ということが大きな影響を与えています。

 自衛隊の定数というのは約25万人なんですけれども、少子化だとか、中途退職者の増加に伴いまして、実際の人員というのは23万人ぐらいで推移しています。

 現在の採用対象年齢、18歳から32歳というものの推移を見ますと、防衛省の調べによりますと、図のとおりになっております。まさに減少の一途をたどっています。現在、年度に募集しますのは1万4000人ぐらいですので、令和30年ぐらいになりますと対象年齢の0.1%ぐらいということで、募集がさらに厳しくなります。

 したがって、防衛省の施策としましては、採用上限年齢の引上げだとか、定年延長だとか、体制の強化、中途退職者の抑制などをやっておりますけれども、なかなか効果は出ていないというのが現状です。

 自衛隊の自己都合による中途退職者は、大体、10年間で4割増ということで、年間4000人ぐらいが中途退職しています。毎年1万4000人ぐらいを採用しますので、大体3分の1に相当する自衛官が中途退職しています。しかも、その退職している人間は、国家資格あるいは技能証明が必要な自衛官、パイロットだとか、医官とか、看護官が約3割にのぼります。それと、自衛官になってから4年以内の退職者が多いという特徴もあります。

 一番重要な働き手が毎年4000人近くやめている、ということです。これは防衛省として大きな課題となっていると言えます。

 それに対して、防衛省の取組としましては、いわゆるカウンセリング、要するに不満を聞くとか、面倒を見るというような形でやっていますがなかなか効果が出ていません。

 かつて自衛隊は、若手の隊員をいかに確保するかということで、魅力化対策というものをやって、隊舎の個室化だとか、外出できる機会を増やすというようなことを進めましたが、人間関係が希薄になり、かえって中途退職者が多くなったということもありました。人や状況に応じてやり方を変えなければならないと思います。

 個人的な見解ですが、最近の若い人間は過度な干渉を嫌いますので、「相談に来い」「話を聞く」などと言ってもあまり意味がないと思っています。にもかかわらず、そうした仕組みを制度化すると業務量の増加につながるので、逆に関係者のストレスになっていくように思います。やはり、抜本的に考え方を変える必要がありそうです。また、例えば特殊技能保有者――AIやサイバーなどの専門家については、必ずしも自衛官として、鉄砲を撃ったり、走ったりという必要はありませんので、ずっと専門分野だけに専念させるというような経歴管理も必要なのかなと思います。

 次いで、人員をこれ以上増やすことが難しい中で、任務に必要な兵力をどのように確保するかという観点で進められている省人化について見ていきます。下図は、今年の3月、4月に就役しました30FFM(平成30年度予算で建造が承認された「もがみ型護衛艦」)です。

 3500トンという基準排水量の船ですが、定員が約90名と今までの同じ大きさの護衛艦に比べると半分以下になっています。合計22隻を建造予定です。機能をコンパクト化し、建造費も抑えられており、「あさひ」級護衛艦という現在の一番新しい護衛艦が1隻約760億円ですが「もがみ」クラスは2隻で1,055億とやや安価となっています。

 一番の特徴は、クルー制です。3隻に対して4個クルーを配置するという計画です。船は、「運用」、「修理」及び「訓練」という3つのサイクルをやっておりました。したがって、実際の運用というのは3分の1ぐらいの期間しか運用できない計算になります。しかしながら、クルーを4個クルーで輪番に乗せることによって、艦艇自体については「運用」と「修理」だけのサイクルになりますので、それだけ可動日数がふえるという計算にはなります。

 また、哨戒艦という新たな艦種を作る計画が立ち上がっています。

 基準排水量が約1900トンと小型で、全長90メートルの計画です。2026年に1番艦の就役が見込まれています。

 乗組員は30人程度もしくは状況によっては無人での運用を検討中です。

 FFM22隻、30個クルーとして2700人、哨戒艦が12隻で360人とすると合計3000人ぐらいの人間が必要となります。これをどのように確保するかということを考えると、現在の護衛艦14隻、掃海艇10隻くらいを除籍しないと、その人数は確保できない計算になります。

 となると、もともとの狙いである隻数の確保という視点では、抜本的に増えるというところまではいかないのではないかと考えています。

 次に、防衛産業、民間企業の抱える問題点です。防衛省における主要装備品の維持整備費の推移は下図のとおりです。

 防衛産業関連会社というのは非常に広範多岐にわたっておりまして、例えば戦闘機ですと約1100社、戦車で約1300社、護衛艦で約8300社という数の企業が製造に関与しています。したがって、1万以上の会社で、この維持整備費というのを奪い合っているというような状況になります。

 各企業の売上げに占める防衛関連売上げは3%程度で、多くの企業で、防衛事業は主要事業には位置づけられておりません。また、長年にわたって防衛省のみを顧客としているため、国際市場における競争力に欠けているという点も指摘されております。

 このような状況から、防衛産業からの撤退というのが大きな問題になっています。少量多種生産でそもそもスケールメリットが出しにくい上に、装備品の高度化・複雑化によって調達単価が上がったり、維持整備費が高騰したりして、予算の制約から調達数量が減少していく傾向にあります。その結果、民間企業が得られる利益が小さくなり、防衛に特化した技術の維持や継承のためのコストがかけられず、撤退していくというような悪循環を起こしています。

 最近、撤退を報じられた企業は下図のとおりです。三井E&S造船だとか、ダイセル、小松製作所、横浜ゴム、住友電工という名だたる大企業が防衛産業から撤退しています。これらの会社がつくっていたものをどこでつくるのか、代替の会社はどこかということについて苦労しているという状況であります。

 下の図は防衛省が作成した資料です。防衛産業特有の問題点を解決するためにどうしたらいいのかというようなものを、防衛省の立場で作成したものです。

 状況としては、防衛装備品特有の性質に由来するものもありますが、防衛省自体の問題も考えられます。現在の装備の調達といいますのは、陸海空の縦割りでやっていますので、装備品が重複したり、予備品等が、本来ならば融通できるところが融通できないというようなこともあります。あるいは急な仕様変更が多く、対応にかかるコストが大きいという課題もあります。

 サプライチェーン・リスクの回避のために、企業を支援する施策を講じておりますけれども大きな効果が生まれているとは言えません。経済安全保障の視点に立った官公庁横断の施策が必要だろうと思います。

 最後、まとめますと下図のとおりとなります。我が国がとるべき国家安全保障上のアプローチということで、これは、2013年12月に示された国家安全保障戦略に示されています。このアプローチを見ますと6本の柱があります。1番と6番、これは、国としての防衛力の役割に関するもの、黄色の部分が日米同盟、3、4、5が国際社会との協力と整理することができます。

 今回のロシアのウクライナ侵攻の教訓を見た上で、やはり大事なのは、自らの防衛力の向上とと、同盟の実効性確保、日頃の活動を通じた抑止効果の向上となります。今後、今年1年かけて、国家安全保障戦略などの改定が行われますが、今まで述べたような脆弱点をどうカバーしていくのか。防衛費の増額が今後予定されていますが、どの部分を補強していくのかについても、議論の趨勢を見ていきたいと思います。

末次富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。