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2022.05.24 安全保障

沖縄本島と宮古島の間を通過…中国空母「遼寧」の活動活発化に「日本の存在感」示せ

末次富美雄

 岸信夫防衛相は17日の記者会見で、中国空母「遼寧」の活動を「空母等の運用能力や、より遠方の海空域における作戦遂行能力の向上を企図した活動である可能性がある」とした上で、石垣島の南約150㎞の海域まで接近したことに懸念を示した。

 あわせて、5月3日から15日間にわたり200回を超える艦載戦闘機及び艦載ヘリの発着艦を行ったことも明らかにされている。この回数は1日最大250回と言われている米空母と比較すると少ないが、防衛省がこれだけ多くの発着艦を確認したのは初めてだ。(5月20日の岸防衛大臣の記者会見では、300回以上とされており、5月21日には沖縄と宮古島間を通過し東シナ海に向ったことが確認されている。)

 防衛省は遼寧を含む中国艦艇に対して、東シナ海行動中から艦艇による情報収集及び警戒監視を行い、艦載戦闘機の発着艦に対しては、空自戦闘機を緊急発進させる対応を継続的に実施している。

沖縄先島諸島への攻撃も視野に

 また、台湾国防省も遼寧の活動中に中国海空軍による台湾周辺での活動が活発化したことを公表した。これに対して5月3日付中国解放軍報は、「この遼寧戦闘グループの行動は年度計画に基づくもので、国際法にも合致しており、いかなる国にも脅威を与えるものではない」という中国海軍報道官の言葉を伝えている。

 しかし、これは台湾を東西から侵攻するための訓練であり、沖縄先島諸島への攻撃をも視野に入れた行動だと考えるのが妥当だ。

米海軍も牽制

 米海軍協会(USNI)誌が公表した米海軍艦艇等の展開状況によると、米海軍の原子力空母「アブラハム・リンカーン」は1月3日に母港のサンディエゴを出港し、南シナ海、西太平洋、日本海を順に移動。5月2日以降はフィリピン東方で活動中だ。(5月21日に横須賀に入港したことが伝えられている。)

 したがって遼寧が行動している海域との距離は当時600㎞程度であったと推定できる。リンカーンが搭載しているF-18E/Fスーパーホーネットの戦闘行動半径は約1200㎞。600㎞の距離をマッハ1のスピードで、たった約30分で到達可能だ。

 米海軍は遼寧の行動を確実に把握していると見られており、フィリピン東方での活動は遼寧戦闘グループに対する情報収集を兼ねた牽制だと考えられる。

日米が中国艦艇を監視する「重要な意味」

 日米は遼寧戦闘グループの行動に対して以上のような対応をとっているが、その目的は主に3つに分けられる。1つ目は「情報収集」だ。日本周辺で行動する中国艦艇および航空機を継続的に監視し、その運用能力を把握することは、日本の安全保障を確保する上で極めて重要である。

 防衛省によると、遼寧が沖縄と宮古島の間を通過して西太平洋で活動したのは今回で6回目。1998年にウクライナから購入し2012年に就役した遼寧の活動海域は主に黄海や南シナ海で、西太平洋への展開が確認されたのは2016年が初めてだ。

 そして、2018年4月、台湾とフィリピンの間のバシー海峡から西太平洋に展開中の遼寧からの艦載機飛行を防衛省が初確認している。次の確認は昨年12月で、艦載機の飛行はわずか3日間だった。つまり、半年足らずで艦載機の発着回数が大幅に増加しているということだ。これが、岸防衛相が記者会見で述べた懸念の根拠であろう。

「中国の不法行為」を見張るために

 2つ目は「国際法や日本の主権に抵触する動きがないか確認すること」だ。上述の通り、中国解放軍報は「今回の活動は国際法にもとづくものであり、いかなる国にも脅威を与えることはない」と主張しているが、これを額面通りに受け取ることはできない。

 南シナ海における中国の主張する権益を否定する国際仲裁裁判所の裁定(2016年7月、南シナ海における中国の主張を法的根拠がないと判決)を、「紙屑」と言ってのける国の言葉を信用するわけにはいかない。

 日米の警戒監視は、中国の不法行動を見張るためでもあるということだ。

日米による「中国への意思表示」

 3つ目は「国益保護に対する国家の強い意志を示すこと」だ。

 そもそも国家間の紛争は多くの場合、相手の意図を読み間違えることから発生する。例えば、1950年に生起した朝鮮戦争は、金日成がアメリカの参戦は無いと読んだことから発生した。そして、米軍が中国の参戦は無いと読んで中朝国境に近接した結果、中国が義勇軍として参加し、戦争が泥沼化したと分析されている。

 ロシアのウクライナ侵攻にも同様のことが言えよう。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのゼレンスキー政権が脆弱で、ウクライナ軍もロシア軍に対抗できる能力がないと思っていた。さらにアメリカとNATOがそこへの軍事不介入を宣言したため、ウクライナ侵攻を決断したのではないかと分析する専門家もいる。

 日米が遼寧の行動に対して艦艇や戦闘機を派遣することは、そこへの対応能力を明示することにつながる。そして、「台湾に武力侵攻しても日米の干渉は無い」と中国が判断する可能性を低めることができるのだ。このような日米の行動は「プレゼンス」による抑止と言える。

中国軍の武器はロシア製が多い…

 ではなぜ今、中国は遼寧の活動を活発化させているのだろうか。

 ウクライナ危機を機に中国による台湾軍事侵攻の可能性が取りざたされるなか、世界の軍事力を毎年分析する米グローバル・ファイヤーパワーによる2021年のランキングで、トップのアメリカに次ぐロシアがウクライナ戦争で苦戦している。

 中国人民解放軍の武器装備は国産化が進んでいるものの、いまだにその多くがロシアの影響を受けていることは否定できない事実だ。このような中で、中国は台湾軍事侵攻の意図および能力向上に余念がないことを示す「示威行動」をしていると考えられる。

 つまり、5月以降に西太平洋で繰り広げられている日米中海軍艦艇および航空機の活動は、「中国の示威行動」に日米が「プレゼンス」で対抗したものだ。それぞれの目的は、みずからの公約や権益保護の能力を誇示し、相手が誤判断する余地を狭めることにある。

自衛隊が整備を進める「もがみ」型護衛艦とは

 今回のような中国海空軍の活動活発化にともなって、自衛隊が対応しなければならないことは飛躍的に増加している。

 そのなかでも、限られた防衛予算や少子高齢化に伴う新入隊員の募集難という環境に対応すべく防衛省が整備を進めているのが「もがみ」型護衛艦だ。機能のコンパクト化を図ることによって建造費を抑え、基準排水量は3900トンと「あさぎり」型護衛艦とほぼ同等ながら、定員は90名と「あさぎり」型護衛艦の220名の半分以下となっている。

 「もがみ」型は3艦に対し4個クルーの人員を配し、3個クルー乗艦、1個クルー休養の体制をとることにより、修理期間以外の艦艇の活動日数を増加させる施策がとられている。合計22隻を整備し、クルー制とあわせて可動隻数を増加させ、対応能力の強化を図っている。

防衛費増額でも人員不足は補えない

 ウクライナ情勢を受けて防衛費の増額が検討されているが、それにより装備の充実は図られたとしても、少子高齢化が進む日本においてその人員不足を補う事は難しい。

 「もがみ」型護衛艦は固定の乗員という従来の常識から脱却するものであり、少子高齢化への回答の一つだ。日本が「プレゼンス」を維持するためには、もがみと同型の護衛艦を戦力化していくことが重要だ。

末次富美雄

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後、情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社にて技術アドバイザーとして勤務。2021年からサンタフェ総研上級研究員。2022年から現職。