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2021.12.07 安全保障

台湾潜水艦建造が日本の安全保障に及ぼす影響

末次富美雄

2021年11月29日、ロイターは「As China menaces Taiwan, island’s friends aid its secretive submarine project」という記事を配信した。その内容は、2017年から開始された台湾の潜水艦建造に、アメリカ、イギリスが主たる役割を果たしていることに加え、オーストラリア、韓国、インド、スペイン及びカナダが関わっているとするものである。

アメリカは、戦闘システムやソーナー等の核心技術を、イギリスは潜水艦用の部品や関連するソフトウェアを提供し、その他の5カ国は技術者募集に応じたものであると伝えている。それぞれは、台湾海軍及び潜水艦建造を請け負っている台湾国営企業「台湾国際造船」に、政府の許可を得て技術的支援を行っているとしている。韓国大統領府は、この記事に関し政府の関与を否定した上で、個人のレベルで情報を提供しているかどうかは調査中であると述べている。

記事では、アメリカの同盟国であり最も進んだ通常型潜水艦を保有する日本の関与について、防衛省関係者の発言として、非公式に検討したものの中国との関係悪化を懸念し、検討を中止したと伝えている。また、日本企業は中国との取引を失うことを懸念し、台湾への関与は消極的であるとの海上自衛隊退職将官の発言を紹介している。

台湾海軍は現在4隻の潜水艦を保有している。2隻は第2次世界大戦中に米海軍が建造したグッピー級であり、もう2隻はオランダのスバールトフィス級潜水艦を元に1980年代に建造され、海龍級と呼称されている。当初、海龍級は6隻取得する計画であったが、中国がオランダに圧力をかけ、残り4隻の建造は取りやめられた。グッピー級は言うに及ばず、海龍級も旧式化しており、台湾海軍はその更新を希望していた。しかしながら、潜水艦建造能力を持つ各国は、中国の反発を恐れ台湾の潜水艦取得に協力することには消極的であった。アメリカは、2001年にブッシュ政権が、台湾関係法に基づき通常型潜水艦の提供を決定したが、アメリカ国内には通常型潜水艦建造のノウハウが無く、宙に浮いた形となっていた。

これらの状況から、台湾の蔡政権は潜水艦国産化の方針を決定、2017年から建造が開始された。1番艦の就役は2025年に予定されており、8隻が建造される計画である。国産化にあたっては、アメリカを始めとした潜水艦保有国の技術協力が不可欠と見なされていたが、今まで具体的な名前は明らかにされていなかった。現時点で、韓国政府以外の反応は報道されていないが、各国の協力を得て台湾潜水艦建造が進みつつあることが確認できたと言えよう。

台湾の潜水艦勢力が充実することは、日本周辺の安全保障環境にも大きな影響を与えるが、軍事的観点から見ると、それにはプラスの側面とマイナスの側面がある。

プラスの側面としては、中国の台湾軍事侵攻に対する大きな抑止力となることである。最近、中国は台湾周辺における活動を活発化しつつある。爆撃機がバシー海峡を経由し台湾南東部を飛行することに加え、11月中旬には中国海軍揚陸艦2隻が台湾と与那国島の間を南下し、台湾東部沖で活動したことが確認されている。台湾は南北にわたって3,000m級の山脈が連なっていることから、その攻略には台湾海峡正面からの攻撃では不十分との指摘がある。最近の中国艦艇及び航空機の活動は、台湾海峡方面からの侵攻に加え、太平洋方面からの侵攻能力を検証しているものと推定できる。台湾潜水艦がバシー海峡周辺及び台湾東部海域で行動することにより、これら中国艦艇の台湾東部への進出を抑制することができる。潜水艦が行動しているという情報だけで、その脅威を排除するために行わなければならない作戦の負担や艦艇へのリスクを意識させ、最終的に中国が台湾への軍事侵攻というオプションを選択する可能性を低下させることが期待できる。

一方、マイナス面、懸念事項としては次の2点があげられる。

潜水艦の最大の特徴は、隠密裏に海中を行動することである。これを捜索するためのセンサーとして、現時点では音波が主流である。音波による捜索は、自ら音を出すアクティブ、相手の音を聞くパッシブともに、潜水艦であるかどうかの類別、そしてそれが潜水艦であった場合の識別(どこの国の潜水艦か)に多大の労力が必要である。バシー海峡から西太平洋にわたる海域では、日米、状況によっては韓国、そして将来的にはオーストラリア潜水艦が活動し、これに台湾海軍潜水艦が加わった場合、潜水艦らしい目標を探知した場合の識別は非常に困難なものとなる。台湾を巡る紛争が生起した場合、台湾海軍潜水艦の存在は、日米艦艇の作戦を阻害する可能性がある。

次に、台湾の潜水艦の事故に対する備えが不十分であることが指摘できる。今年4月、インドネシア海軍潜水艦がロンボク海峡付近で沈没した。更には今年10月、米海軍原子力潜水艦が南シナ海において、海山と推定される海中物体と衝突し損傷している。潜水艦を運用する国が増加するにつれ、このような潜水艦の事故が増加すると考えられ、潜水艦を運用する国には捜索救難体制の整備が必須と言えよう。他国との訓練が実施できない台湾は、潜水艦救難のノウハウが十分とは言えない状況にある。インドネシア潜水艦が消息を絶ってから発見されるまで4日間を要したことから分かるように、沈没潜水艦の位置特定には時間を要する。沈没潜水艦の救難は時間との勝負であり、距離的に近い日本はこれに積極的に協力すべきであろう。

懸念事項を解消するためには、台湾潜水艦の運用状況に関する日台間の情報共有が不可欠である。潜水艦運用に係る情報の全てを共有する必要はないが、少なくとも、事故の発生の通知や、探知した潜水艦が台湾所属である可能性があるかないかという判断を速やかに下せる程度の情報交換は必要であろう。これは、台湾の対潜戦兵力が日本の潜水艦を探知した場合も同様である。

日本の各企業が中国との取引を重視し、台湾の潜水艦建造に消極的であることは、民間企業として当然のリスク管理であろう。しかしながら、実際に台湾潜水艦の絶対数が増加し、活動海域が重複した場合のリスク管理は国の責任である。台湾の国産潜水艦が就役する2025年までに、日本政府としてリスク管理の体制を整えておく必要がある。関係国との調整を考慮すれば、残された期間は長いとは言えない。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄

防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:新華社/アフロ