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2021.03.05 安全保障

国際決済銀行に中国の影は忍び寄るのか?(2)

中村 孝也

国際決済銀行に中国の影は忍び寄るのか?(1)」では、2月23日、国際決済銀行(BIS)が関与する「Multiple CBDC Bridge」というプロジェクトに中国人民銀行デジタル通貨研究所が参加したことは、国際決済銀行がデジタル人民元の立ち上げに手を貸そうとする構図に見えることを指摘した。

「ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元」は、(1)国連の15の専門組織のうちの4つの専門機関の長は「中国人」が占めている、(2)国連専門機関のトップ以外の要職や、国連傘下の関連国際組織あるいはその周辺組織でも、圧倒的な数の中国人が要職を占拠している、(3)親中の人間を国連や国連専門機関の長に据えるだけでなく、大陸の中国人そのものを国連専門機関の長に就かせることによって、中国は国連を乗っ取る戦略で動いている、と言及している。同じ文脈からすると、もともと欧米色が強かったはずのBISが関与するプロジェクトに中国が加わってきたことが気にかかる。

中国がBISの理事会のメンバーに加わったのは2006年である。現在、易綱中国人民銀行行長が理事の座にあるが、あくまでも18名の理事のうちの1人に過ぎない。理事会のみならず、事務局メンバーの顔触れを見ても、外形的には中国の影響を強く受けているようには見受けられない。その点を踏まえると、2020年後半から香港金融管理局、タイ中央銀行との間で進行していたプロジェクトに、香港が加わっているという経緯から新たに中国が加わっただけと見る方が妥当かもしれない。

ただ、仮に国際決済銀行における中国の影響が増しているのであれば、デジタル中央銀行通貨の覇権争いに影響を与える可能性も考えられるところだ。事務局機能の提供が中心のBISではあるが、資産バブル崩壊過程で、日本がBISの決定により甚大な経済的影響を受けたことは忘れるべきではない。1988年7月、バーゼル銀行監督委員会は,「バーゼル・アコード」と呼ばれる申し合わせ事項を決定した。海外で営業拠点を持つ銀行は、どの国の銀行も順守しなければならない自己資本に関する基準としての申し合わせ事項である。日本ではこの「BIS 規制」の適用は1993年3月決算から始まった。BIS 規制は、自己資本の一定倍率までしか資産を保有してはならないという「資産・融資限度額規制」であり、規制申し合わせの背景には、日本の銀行の野放図な国際業務の展開を抑えようとする意向があったと指摘されている。BIS規制を愚直に適用した日本は、バブル崩壊による不良融資と保有株式の含み益の激減によって、自己資本が減少し、その後の大幅な信用収縮を引き起こすことになった。

デジタル中央銀行通貨の覇権争いを前に、「気づかないうちに外堀が埋まっていた」という二の舞を避けるためにも、国際機関における勢力争いにも気を配りたいところだ。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。